麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その4
亜咲



病院の件、まいったなあ…

健康保険の範囲、超えた治療ってことか

まさかあんな額とはね

今のバイトだけじゃ、とても払えないや

お父さんに泣きついたら、あっちも火の車らしいし

遠まわしでは、家売ればいいだろってニュアンスだったわ

慰謝料代わりだからって…

まあ、あっちはね…

でも、私の目の前の現実、解決ってそういうことか?

違うと思うんだけど…、父さん

ちぇっ

飛ばすか、こんな時は…


...



マシンうならせ、私はバイト先へ向かった

バイクショップ、”ロック・モータース”

ここ、もう長いかな、私

小学生のころから学校の帰り、ここ寄るのが日課だったし

他の子がペットショップとか通うのと、同じ感覚だったかな

私のバイクの原点…

それは二つ

駈けあがること、そして、地を離れること

意外かもだが、スピードとかはその次なんだ

乱暴に言えば羽なんだ、バイクって

地面這ってるのに、変だといつも思うけど

羽なんだ、私にとっては…

何故か


...



店のオーナー夫婦に世話になって、3年近く

エンジニア見習いで雇ってくれたのが、最初だった

以来、私のことは親身になってくれてさ

ずっとバイト続けさせてくれた

他の子を断ってまで…

感謝してるんだ、ここには

だけど、ここのバイトだけじゃ限界になってきた

機会見つけて相談しなきゃ

掛け持ちとか、いろいろと…


...



その日、店に着いたのは午後2時過ぎ

腕利きのエンジニア、益子さんが作業中だった

いつも通り挨拶して、店の中へ…

「お疲れ様です!」

店の奥に誰かお客がいる…

若い女性みたいだ

店長と奥さん、二人で面と向かってる

しばらくして、店長が結構大きい声でお客に話してる…

「じゃあ、2週間後の火曜日、用意しときますから…」

「お願いします」

そう言って振り返ったその客…

何だ、麻衣ちゃんじゃん!

「亜咲さん…、こんちわ」

店の常連、本郷麻衣は、満面の笑みを浮かべていた







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