麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その5
亜咲



店の外に出たとこで、麻衣が話しかけてきた

「あのう、逆髪神社、夕方いいですか?何時まででもいますから」

「えっ?でも、6時は過ぎるよ」

「いいです、何時でも。待ってます」

麻衣はそう言ってから、店の前においてあったチャリに乗った

「じゃあ、あとでね…」

私はそう声をかけて見送った

しばらく見届けてたら、後ろから店長が話しかけてきた

「驚いたよ。250と原チャリ合計12台オーダーだ。あんな高校生が…」

奥さんが後ろから言った

「あんた、人がいいから…。全額、持って来てたんだろ?貰っとくんだよ、そんなときは。バカだね!」

「内入れで半金受け取ったんだ。それ以上はちょっとなあ…。親の身分証も写しを取ったし」

「遊び盛りだよ、あの年代は。納車んとき、使っちゃってたらどうすんだい?」

「ははは、そん時は引き渡さなきゃいいだけだろ。それに大丈夫だよ、亜咲ちゃんも知ってる子だしな。年中、ここ来てた。一生懸命貯めてたんだよ、バイク代をさ」

しかし、いきなり12台って…

金額だって半端じゃないだろう

でも…

そうか、族作ったのか、自分のチームを

前からそれっぽいこと言ってたからな…

まあいいや、この後、会って聞けばいいだけの話だ


...




夜6時半過ぎ

逆髪神社下に着いて、バイクを止めた

神社の石段に腰かけていた麻衣は、小走りで私の前にやってきた

「ごめん、待たせちゃったかな…」

「いえ、全然です。忙しいところすいません」

麻衣はニコニコしながらそう言った

「なんか、話あるのかな?バイクまとめてオーダーしてたみたいだけど、関係あるとか?」

さっそく麻衣に聞いてみた

麻衣は「はい」とだけ返事をすると、境内まで続く石段を見上げた

「私…、中2の時、ここの石段のぼり見に来たんですよ」

はは、あれか…

えーと、2年前だったか、たしか


...



私、モトクロスに嵌ってて、大会結構出てて…

優勝とかもしてたから、TVの取材が来たんだよね

まあ、ローカル局だけど、ここの石段上ってくれって

当日になって許可がどうとかで、中止になっちゃたんだけど…

でも、人は集まってたんだよな…

この子、そん時いた訳ね


...



「あのあと、何人かがホントはできないんだろうって、騒いでましたよね」

「うん。それで、場所確保できたらこの角度ならやれるよって、私、ムキになってさ」

「結局、川原で駆け上がりやってくれたんですよね、数日後に。あれ、私、見て感激しちゃって。それからですよ、私もバイクで駆け上がりたいって思って。あの店、通うようになって…」

ハハハ…

この子、そういう一途なとこ、いいんだな


...



麻衣は、私の方に向きかえって強い口調で言った

「私、今度チーム作るんです。急なんですけど、”スポンサー”がついて。それで、亜咲さんにトップをお願いしたいんです」

まあ、そういう事かとは思ってたよ…(苦笑)




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