麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その6
亜咲



「今、こういう動きになってきたんで、他にも誘いあるのは承知してます。でも私、他とは比較にならないくらい深いんで、その気持ちは…」

確かに熱意は感じる

口調は穏やかだが、伝わってくるよ

「チームの顔、亜咲さんならカッコつくからって、それもあります、やっぱり。でも、それ以上にウチらみんな初心者なんで、乗りの方、しっかりと教わりたいんです」

「気持ちはわかるよ。でもムリだわ。私には今、時間割けない事情あるし。顔預けるだけならって話もキリないから…。断ってる、全部。だから悪く思わないで」

私はきっぱりと告げた

「亜咲さんの事情、知ってます。お母さんの病気の件ですよね。病院代で他にも仕事ってことなら、その分こっちで当てられます」

おい、おい…

それ、なんでこの子知ってるのよ?


...



「ちょっと、待って!なんでそこまで知ってるのかはともかく、それやったら、バイク乗ってる私の純粋な気持ち、汚れるわ。じゃあ、帰るよ、私」

私は気分を害して、バイクに向かっていった

すると私の背中に、麻衣は再び言葉を投げかけてきた

「じゃあ、言わしてもらいます。今の状況を見過ごしてることの方が、亜咲さんの”気持ち”、自分で傷つけてるんじゃないんですか?」

「どういうことよ、それ?」

思わず足を止め、私は振り返ってそう言った

「ちまちましたチームがいくらできても、排赤の奴らにそっくり持っていかれちゃいます。向こうの思うツボですよ、結局。そんなの、押し返すくらいの力がないと、意味ないです。だから亜咲さんに仕込んでもらって、力量つけたいんです。他とは違うんですよ…」

そして、一呼吸を置いてから、麻衣はしみじみとした口調で漏らすように言った

「…紅丸さんが赤く塗りかえてくれた自由な都県境を、”ヤツら”にひっくり返されたくないんです。うちらの代では…」

その気持ちは、私も一緒だ

でも…

「目の前の現実は、調整できるんなら現実的に折り合いつけて、それが解決じゃないんですか?月20万、考えてますから。あくまで、時間とってもらう分ですから、それ。生意気言ってすいません。納車の時、また返事、聞かせてください」

参った…

具体的な金額までここで提示してきたわ

私は「とりあえず、今日は帰るよ」とだけ言って、バイクのエンジンをかけた





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