麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その7
亜咲



あのあと、家にまっすぐ帰る気になれず、川原に寄った

土手の上にバイクを止め、その脇に腰を下ろしてね…

さすがに辺りはすっかり暗く、静かだ

川のわずかながらのせせらぎも耳に届く

しばらくボーッとしてると、人が走る靴の音が耳に届いた

ちょうど自分の後ろ近くまで来たところで、振り向いてみた

若い女の子だ

一人で走ってるわ…

あれ?

ケイちゃんじゃんか…

「亜咲さ~ん!何してんの、こんなとこで?」

「ははは、考えごとだ」

ウチのお隣さん、横田家の長女、競子ちゃんだ

そうか…

この春、滝が丘高校に行って、陸上部入ったんだっけか


...


ケイちゃんは私の隣に座った

「頑張ってるじゃん。部活、楽しいか?」

「まあね。でも新人戦、さんざんだったから、気合い入れてるとこだよ」

「そうか。えらいな、アンタは」

「あのね…、そうしんみり言われると、かえってテンション下がるわ」

そう言うと、ケイちゃんは一度私の顔を見て、そして少しうつむいた

「呑気だよね、亜咲さんに比べれば…。私なんかさ…」

「アンタでもそういうこと、言えるようになったんだ」

私がさらりとツッこむと、ケイちゃん、こっち向いてニコッと笑ってるわ


...


「そう言えばさ、昨日、病院に見舞に来てくれたみたい、おばさん…。私も会ったらお礼言うけど、よろしく言っといて。母さん、喜んでたから」

「うん、わかった。…それでさあ、おばさんの今度の治療、保健効かないんでしょ?ウチのオカン、心配してたよ」

「ああ、うちの母親、そんなことまで言ったんだ…」

「お金のこと、どうしようもない時は相談してって。おばさんは大丈夫って言ってたらしいんだけどね…。実際のやりくり、亜咲さんだろうからって」

ケイちゃんと私はお互い顔を見合い、少しの間、無言になった後ケイちゃんが続けた

「…うちの母親もさ、こういうことは、いろいろ気を使わせちゃ悪いから、アンタからさりげなく言っといてってさ…。大人はずるいよな。子供に言いずらいこと、言わせてさ。私、つっけんどんだからさ…、タイミング見誤ってたら聞き流してね。ヘヘ…」

思わず胸が熱くなった…

ありがとう…、おばさん、ケイちゃんも

「気持ちはありがたくいただくよ。ホントに、感謝してる。おばさんには改めてお礼言っとく」


...


「どうする?乗ってくか?」

「ううん、もう少し走ってくるわ。じゃあね」

ケイちゃんは、自慢の長い足で駈けて行った

そういえばケイちゃん、さっきの麻衣と学年、一緒か…

性格とかは全然違うけど、どこか似てる気がするかな

あの二人…





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