麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その9
亜咲
午後8時半過ぎ…、着いたわ
ドアチャイムもない平屋のカサク…
ベニヤの玄関戸を、私は3回ノックした
数秒ほどで、中から声がした
「はーい、どなたですか?」
でっかい声のあと、勢いよく玄関戸が開いた
「達美、遅くにゴメン。私だ…」
「おー、亜咲!なんだ、どうした?わー、久しぶりだな」
現在の南玉連合総長をやってる、刀根達美だ
しかし、相変わらずテンション高いなあ…
ハハハ…
...
「まあ、上がれよ。散らかってるし、狭いけど」
「いや、外で話したいんだ。10分でいい」
「そうか。じゃあ、トイレ行ってくるから。そこの公衆電話んとこで待っててくれ」
ジャージ姿の達美はズボンのゴムあたりを手にして、もじもじしながら言った
私は公衆電話脇にバイクを移動した
...
数分後、達美は小走りして、私の前にサンダル履きでやってきた
「どうした、なんかあったんか?亜咲…」
「あのさ、あんたは私が学校中退で、今の”役”引き受けてくれたんだよな。通例なら2年に譲ってる時期なのに、まだ引退しない理由って何なんだか、教えてほしいんだ。悪い、あんたが総長の地位に固執とかないのは分かってる。その上でなんだ…」
「ああ、簡単だよ。今の状態じゃあ、下のモンに引き継げないからさ。責任あるしな、後継までは」
「それって、墨東会の揺さぶりで、物騒になってるからってことかい?」
「それもあるよ。でも、厳密には墨東じゃない、砂垣一派だ。南部さんは頑張ってるよ。こっちの側だと思う。だから、今は紅組も静観してるんだろうし。それよりさ…、南玉の内輪でも足元ゆるいんだ、代次ぐには。まだね」
さすが、南玉のトップだ
私、ブランクあるせいか、理解が浅かった…
だが今の話、前段はわかったが、しかし…、南玉内部の懸念ってなんだろうか
...
「…紅組の作り上げたフレームは、女が全面だ。そこに男も後見でバックに着く。まあ、バランスが肝心だよな、あんたも知ってる通り。”次”、順当に考えれば荒子だろ、誰が見ても…」
たしかに、現特攻隊長の合田荒子が本命だろう
「だけどさ、ヤツだと、狂信的な支持がある反面、歯止め利かないリスクもある。これは夏美が盛んに言ってることだ。たぶん、あの赤い狂犬娘が現時点でトップになれば、下は突っ走りすぎて、自滅もあり得るってことだ。でさあ、ヤツの”周り”を固める目星、つけてからと思ってさ。まあ、私は大学進まないから、時間たっぷりだしな。幸い、荒子は私の言うことは聞いてくれるんでさ。へへへ…」
「…」
...
1年半前、家の事情で日下南高校を中退する際、私に内定していた南玉連合のアタマのポストを、この達美に頼み込んだ経緯がある
達美はおおざっぱだが、人を惹きつけるオーラと相手を圧倒する馬力はズバ抜けていた
サブの相川夏美が策士タイプなので、うまく両輪でやってくれてたんだ
だから、狂犬娘ことイケイケの合田荒子も、そんな二人には一目を置き、無茶な真似は控えていたということだろう
私、そんな事情も知らないで、何考えてたんだ…
達美も夏美も紅組の築いた今のフレームを一生懸命、次に渡そうと頑張ってるというのに…
「私…、もしかすると、軸になるチームの先頭に就いて南玉の公認仰ぐかも。今更だけど、少しでも力になりたくて…。こういう状況下だから…。期するとこ、あんたたちとは一緒だし、いいかな?」
「おお、あんたが砂垣にプレッシャーかけてくれりゃ、みんな士気があがるし、百人力だよ。歓迎だ。誰も文句言わねえし、言わせねえよ、へへへ…」
達美はピンクのよれよれのジャージに両手をつっこんで、そう言ってくれた
会ってよかった…、達美に
亜咲
午後8時半過ぎ…、着いたわ
ドアチャイムもない平屋のカサク…
ベニヤの玄関戸を、私は3回ノックした
数秒ほどで、中から声がした
「はーい、どなたですか?」
でっかい声のあと、勢いよく玄関戸が開いた
「達美、遅くにゴメン。私だ…」
「おー、亜咲!なんだ、どうした?わー、久しぶりだな」
現在の南玉連合総長をやってる、刀根達美だ
しかし、相変わらずテンション高いなあ…
ハハハ…
...
「まあ、上がれよ。散らかってるし、狭いけど」
「いや、外で話したいんだ。10分でいい」
「そうか。じゃあ、トイレ行ってくるから。そこの公衆電話んとこで待っててくれ」
ジャージ姿の達美はズボンのゴムあたりを手にして、もじもじしながら言った
私は公衆電話脇にバイクを移動した
...
数分後、達美は小走りして、私の前にサンダル履きでやってきた
「どうした、なんかあったんか?亜咲…」
「あのさ、あんたは私が学校中退で、今の”役”引き受けてくれたんだよな。通例なら2年に譲ってる時期なのに、まだ引退しない理由って何なんだか、教えてほしいんだ。悪い、あんたが総長の地位に固執とかないのは分かってる。その上でなんだ…」
「ああ、簡単だよ。今の状態じゃあ、下のモンに引き継げないからさ。責任あるしな、後継までは」
「それって、墨東会の揺さぶりで、物騒になってるからってことかい?」
「それもあるよ。でも、厳密には墨東じゃない、砂垣一派だ。南部さんは頑張ってるよ。こっちの側だと思う。だから、今は紅組も静観してるんだろうし。それよりさ…、南玉の内輪でも足元ゆるいんだ、代次ぐには。まだね」
さすが、南玉のトップだ
私、ブランクあるせいか、理解が浅かった…
だが今の話、前段はわかったが、しかし…、南玉内部の懸念ってなんだろうか
...
「…紅組の作り上げたフレームは、女が全面だ。そこに男も後見でバックに着く。まあ、バランスが肝心だよな、あんたも知ってる通り。”次”、順当に考えれば荒子だろ、誰が見ても…」
たしかに、現特攻隊長の合田荒子が本命だろう
「だけどさ、ヤツだと、狂信的な支持がある反面、歯止め利かないリスクもある。これは夏美が盛んに言ってることだ。たぶん、あの赤い狂犬娘が現時点でトップになれば、下は突っ走りすぎて、自滅もあり得るってことだ。でさあ、ヤツの”周り”を固める目星、つけてからと思ってさ。まあ、私は大学進まないから、時間たっぷりだしな。幸い、荒子は私の言うことは聞いてくれるんでさ。へへへ…」
「…」
...
1年半前、家の事情で日下南高校を中退する際、私に内定していた南玉連合のアタマのポストを、この達美に頼み込んだ経緯がある
達美はおおざっぱだが、人を惹きつけるオーラと相手を圧倒する馬力はズバ抜けていた
サブの相川夏美が策士タイプなので、うまく両輪でやってくれてたんだ
だから、狂犬娘ことイケイケの合田荒子も、そんな二人には一目を置き、無茶な真似は控えていたということだろう
私、そんな事情も知らないで、何考えてたんだ…
達美も夏美も紅組の築いた今のフレームを一生懸命、次に渡そうと頑張ってるというのに…
「私…、もしかすると、軸になるチームの先頭に就いて南玉の公認仰ぐかも。今更だけど、少しでも力になりたくて…。こういう状況下だから…。期するとこ、あんたたちとは一緒だし、いいかな?」
「おお、あんたが砂垣にプレッシャーかけてくれりゃ、みんな士気があがるし、百人力だよ。歓迎だ。誰も文句言わねえし、言わせねえよ、へへへ…」
達美はピンクのよれよれのジャージに両手をつっこんで、そう言ってくれた
会ってよかった…、達美に