麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その2
麻衣



「麻衣ちゃん、着いたよ。じゃあ、ごゆっくり…」

倉橋さん、バックミラー越しに、やや笑い顔で話しけてくれた

なんかやっぱり変だよ、倉橋さんのそういうの

またおかしくなって、私も笑ってた

後部座席のドアは、本家付の若い人が開けてくれた

「ご苦労様です!」

車を降りると、何人もから、”気合い”の入った挨拶をされた

「麻衣お嬢さん、ご苦労様です。こっちどうぞ」

あっ、勝田さんだわ

私は丁重にエスコートされた

まるで女王様並みの扱いだ、こりゃ

こういうのって、みんな結構、憧れるんだろうね、きっと

まあ、気分いいよ、そりゃあ…

でも、私、あんまり執着ないかな

おそらく、人からは意外に思われるだろうけど…

一歩間違えば裸の王様だし、こういったのって

私は、人に屈することは当然、嫌だが、”漠然”と人の上ってのもピンとこない

それよか、常にヒリヒリしてる自分、それが一番肝心なんだ

目の前に立ちはだかるものは、力の限り駆逐する

人を制するというより、駆逐なんだな、私としては…


...


私は勝田さんに案内され、庭にある池の前に進んだ

ああ、いたわ、イカレた老人が…

「おお、麻衣!よく来たなー、ハハハ…」

「お久しぶりです。今日は、招待していただいて、感謝してます」

私は、結構深く頭を下げ、まずは挨拶した

「はは、まあ、堅苦しいのは今日は抜きだ。今、鯉にエサやるところなんでな。お前もひと蒔きしてみろ」

私はエサを一握り掴むと、思いっきり池に放った

そのあと、会長も「それっ!」と、渋い掛け声を上げて、エサを投げ込んだ

鯉が水とぶつかる音、何とも言えず臨場感がある

数秒間、池を覗き込むような姿勢の二人

その風情ある様を、私と会長は無言で共有した…、と思う(笑)

なんか、気持ちいいな…

さわやかな気分になれる

そうだ、早速プレゼントを渡そう






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