麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その3
麻衣



私は、左手で抱えた袋を両手に持ち替え、会長に差し出した

「あの、これ、草履です。大したものじゃなくて恥ずかしいんですが、今日、招待されたお礼に…。サイズは勝田さんから聞いたんで、合うとは思うんですが…」

「おー、気を使わせて悪いな、遠慮なくいただこう」

会長は顔をほころばせながら、袋から草履を取り出した

「よし、今日は、これ履いて飯食うぞ。おい、こっちのは下げとけ」

会長は早速、今はいてた草履を脱いで、私の贈り物に履き替えてくれた

「麻衣、いい履き心地だぞ。ありがとうよ」

甚平姿の会長は、子供みたいな笑顔を浮かべて、そう言ってくれた

私は単純にうれしかった


...


「麻衣、オレもお前に渡すもん用意してあるぞ」

そう言うと、勝田さんに会釈した

勝田さんは、そばに立っていた若い人から何やら手にし、それを私に渡した

「安もんだが、受取ってくれ」

「ありがとうございます。開けていいですか?」

「ああ」

それはネックレスだった…

たぶんパールだ、それも決して安くないよ、これ

「わー、これ、いいんですか?ホントに…」

「似合うといいんだがな…。さあ、着けてみろや」

「はい」

私は今日、淡い黄色のブラウスに、白のスカート姿をしている

ネックレスを纏うと、腕組みをしている会長は「うーん!」とゆっくり、大きくうなずいた

「麻衣!似合うぞ、いい女だなー、お前!」

わー、イカレた老人に褒められちゃった…

「いずれ、何かの折りには、もっと高価なヤツ買ってやる。まあ、今日はそれで勘弁だ、ハハハ…」

嬉しい…、早くもなんだか夢心地だ…、私


...


「じゃあ、ここでお二人の写真撮りましょう」

「よし、池の前でだ」

池を背にして、私は会長の右に並んだ

すると、長身の会長は、私の肩に右手を回してくれた

結構力強く、私は少し体を寄せられた

”カシャーッ!”

勝田さんの手にする一眼レフカメラからは、歯切れのいい音が響いた

雲一つない梅雨前の抜けるような晴天のもと、イカレた者同士、年の離れた二人のツーショット…

早く写真、見たいなあ





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