麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その4
麻衣


写真を撮った後、私たちは屋敷の前に進んだ

”あの時”、そこの屋敷の奥の部屋で、私は”正座”させられてたんだよな

会長が現れる頃には、すでに足がしびれてったっけ(笑)

まさか、次ここへ来る時、こんなVIP扱いされるなんて…

今、この瞬間も、これ現実なの?って思ったりする


...


屋敷の広い外廊下に面した庭先には、テーブルの上に食事の用意が整っていた

そして、テーブル脇には、剣崎さんが立って待っていた

「剣崎、ワイン冷えてるか?」

「ええ、今持ってこさせます」

剣崎さんは会長と一言かわした後、私の方を向いた

「今日はご苦労様です。どうぞ、かけてください」

そう言って、私に椅子を引いてくれた

「すいません。今日はお世話になります」

私も椅子に着く前、剣崎さんに、こう言葉を添えた…

フフッ…、私たち二人とも演技派だわ

二人きりの時との”使い分け”、完璧だし、ハハハ…


...


私は椅子に腰を下ろし、テーブルを挟んで会長と向き合った

さあ、イカレたランチタイムの始まりだ

それにしても、ざっと目に入っただけでも、とても二人の食事の量じゃないよ、コレ

絶対、残るって…(苦笑)

「ハハハ…、麻衣、とにかく今日はよく来た。今、けさ早くに釣ってこさせたアユ、塩焼きで持ってくるからな。魚、大丈夫か?」

「はい。きのこ類は苦手ですけど、他は特段…。雑食女です、私は」

「お前、面白いやつだな、やっぱり。クマなんかもそうだが、きのこなんか食えない雑食の獣など、いないぞ、麻衣よ!はっはっはっ!」

「…」

確かにそうだ、こりゃ早くも失点1だわ

私はガラにもなく、ちょっと顔を赤らめ、アタマを掻いた

「まあ、今日は無礼講でいこう。楽しくやろうや、なあ!」

「あ、はい。お願いします」

どうも私、ぎこちないわ

この人を前にすると萎縮するし…、どうしても…


...


まもなく剣崎さんの後ろについてきた若い人が、ワインとグラス二つ持ってきた

会長はワイン、大好きなんだってさ…

「麻衣、お前も一杯飲め」

会長が目で合図すると、剣崎さんは私の前に置かれたワイングラスの、六分目くらいまで注いでくれた

「よし、まずは麻衣、乾杯するべ」

「はい」

キーンという音がはじけた

すぐそばで、剣崎さんの”顔”もはじけてるよ…、笑ってるし、全く

未成年だし、一杯だけだぞ、会長さん

うーん、でもうまいわ、これ、ははは…

「いい飲みっぷりだ、麻衣。まあ、喰え、そこのフルーツはお前のために用意した肝いりだ。新鮮だぞ」

「はい、じゃあ、いただきます」

それにしても、凄いや

グレープフルーツに桃に巨砲に、マンゴー、それにビワか…

はは、これだけでおなか、ふくれちゃうっての(笑)


...


「でも、体調すごくよさそうですね」

「ああ、すこぶるいい」

ここで、焼きあがったアユが串刺しで6匹運ばれてきた

いい香りだわ

この子たち、けさ早くまで川で泳いでいてんだよね

もうすぐ、私たち、イカレ者の腹の中か…

人間の運命だってわかりゃしないさ

こういうの見ると、いつもつくづく感じる

私たちはフーフー言いながら、まず一匹、一気に平らげた

「どうだ、うまいだろう」

「ええ、最高です。精が付きますよ」

「お前には体の芯から、蒸気がわくぐらい精つけてもらわんとな、ハハ」

会長は、確かに具合の方は良いようで、まるで山賊の酒盛りさながらだ

じじいだけど、なんか、喰いむさぼる様にも、男の色気みたいなのを感じるよ

「しかし、お前、ガンガン飛ばしてるようだな。剣崎からいつも聞いてるぞ。下手なヤクザより腹座ってるとな…、ハハハ」

「…」

「どうした?麻衣、遠慮するようなタマじゃないだろうが。うん?」

会長はワインをとくとくと継ぎながら、私の間合いに気兼ねしてくれた

そろそろ、聞こう、まずはあのことを…

今、周りには人いないし…


...


「あのう、会長、この機会なので、是非伺いたいことがあります。いいですか?」

相馬会長は、フォークでチキンを突くのに夢中のようで、私の顔を見ずに、「ああ、遠慮は無用だ。今日はなんでも答えてやる。ムシャ、ムシャ…」だった

…、この人、こういうところ、まるで小学生のガキだ

不思議な人だなあ…、この老人…






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