麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その5
麻衣



私はずっと知りたかったことを、直接聞く決心をした

「あのう…、私みたいな子供に、なぜあんなに”力”を与えてくれるんですか?お金もそうですけど、人とかも大勢つけてもらって…、何でなんですか?」

会長はチキンをむさぼりながら、私の顔を見ずに言った

「お前はオレの条件、吞んだじゃないか。だからだよ、簡単な理屈だ」

「だけど、私…、会長の息子さんを…、あんな目に合わせてるし、結果としてですが。そんな、憎まれて当然の私にどうして…、どう考えても私…」

「麻衣!」

ここで、チキンをフォークから離し、会長は私の方を向いた

「私、後ろめたい気持ちがいつも頭にあって、苦しいんです。はっきりした理由とかで、自分を納得させないと…」

「…」


...


私は一気に会長に詰め寄った

どうしてもこの人の口から聞かなきゃ、これからも今一つの踏ん切りがつかないままだ

会長はしばらく私の顔をジーッと見つめ、ワインを一口飲んでから話し始めた

「よし、話してやろう。…、あのな、お前の眼だよ、まずはな…」

「え?眼ですか?」

私はあっけにとられた表情をしていたと思う

「うん、はじめて屋敷でお前を見てな…、お前の眼見てよ、妙に懐かしい気がしたんだ。フン、何のことはない。昔、ガキの頃、鏡に映った自分の眼とおんなじだったんだ。餓えたケモノのような眼だ」

そういえば、奥の部屋で会長と初めて向き合った時、何も言わず、かなりの時間、私の顔をじっと見つめてたっけ…

「俺もなあ…、内蔵はイカレてるし、”ここ”に爆弾も抱えてる。近いうち棺桶だ」

会長は左手を自分の心臓に当て、いきなり告白してくれた

「…、それでよう、くたばる前にもう一度、若い時みたいに思いっきり暴れたくなってな。きっと先が短いんだろう、最近、その思いが抑えきれないところまできてたんだ。それでな…」


...


「俺の代わりに、獣のような眼を持ったお前に、やりたい放題やらせてな、昔のあの胸が躍るような感覚、また味わいたかったんだ。どうせなら、他のガキがマネできないような、どえらいことでもやらかしてもらってな、冥土の土産に持っていきたくなってよ…」

私は会長の顔を見つめて、黙って聞いてた

「ちょうどよ、星流会のダボがな、その辺のガキいじってるって、耳に届いていたしよう。どうせおっぺすなら、こっちは同じガキでもかわいい娘を先頭に掲げてやりゃ、おもしろいやってことでな。単純だよ、俺はいつもな、ハハハ…」

確かに、何なんだってくらい単純だ…

だけど…、実の息子を失ったことはどうなのか…

だって私がしたこと、親なら許せないことだ

当たり前だよ、自殺に追い込んだんだ、この私が

ましてや、この世界の親分なら、私、殺されても不思議じゃない

その私にどうしてってことが、そこがどうしてもわからないよ

「そんでよ、まあ、定男のことだ…」

私の心の内を察したかのように、会長の口から、”それ”、でてきた…





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