麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その6
麻衣



「定男の件は、お前の”覚悟”を以って水にした。あの時も言ったと思うが。お前、日本刀の切っ先突きつけられて、大した度胸だった。覚悟が伝わってきたよ。極道もんでも、ションベンちびって命乞いだな、たいていは」

「あの…、でも限界だったんです。もう、膝まついて命乞いする寸前だったんです。おしっこも少し漏らしてました」

「ハハハ、何もそんなバカ正直になるなよ、お前らしくない。わかってたよ、テンバってたのは」

「じゃあ、なぜ…」

「16の女の子だろ、十分だ。あそこまで突っ張れればクリアだ」

「…」

「うん?まだすっきりしてないようだな。いいか、俺だって息子が死にゃあ、そりゃ悲しいさ。でもよう、人間はいつか死ぬんだ。それもいつ、どんな死に様かもわかりゃしねえ。俺は、自分も他人も、いつ死んでもって気構えができてる。常日頃からな」

私はこのあたりで、会長の話に次第に酔っていった


...


「だから、あの時も冷静だっただけだ。なにも、定男はお前に直接、殺された訳じゃない。こっちの縄張り云々と言っても、犯されそうになって、抵抗しただけじゃねえか。傷ついたのは事故だし、飛び降りは定男の意思だ。それで、整理ついてた、すでにな。あとは”相手”が、”どんな”かという事だ」

もう、どんどん入ってくる…

このイカレた老人の感覚が、私の感覚の中に…

「それが、お前とのあのやり取りだ。そこで、お前の気概を見届けたという事だ」

「はい」

「なあ、麻衣よ。極道とか言ってもな、今じゃあの連中、ビジネスマンだ。損得でスマートに渡り歩いてる。情けねえ。俺は別に組なんて、執着ねえしな。それより、餓えた獣のようにギラギラしていたいんだ。だがよう、体もガタきたし、そうもできねえんで、お前に投影してるんだ。獣は損得じゃねえ、目の前から逃げるか、戦うかだ」

それ、分かる!分かる!って…、そんな感じかな

この人の話、全部聞き終わった後は、違う自分になっちゃう

なんか、そう思えてきた…

「俺たちのような眼で生きてる奴なんか、そうはいねえ。麻衣、人が獣のように生きていくということには、コツがいるんだ」

「コツですか?」

ここで会話は、”ケモノ論”に入っていった






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