麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その7
麻衣
「今の世、人間がケモノのように生きたいって言ってもな…、実際、人間の世界だし、本能のままって訳にはいかねえ。法律破ることなど日常茶飯事の俺でもよ、最低限のできねえことあるしな。素っ裸で街中歩いて、メシ食っても金払わねえって日常生活、できっこねえだろ、いくらなんでも」
「はい…(笑)」
当然過ぎておかしかった、この人が言うとことさらに…
「だから、所詮ケモノにはなれない訳だ。だがよう、物心ついた時から、人間の社会でも餓えたケモノのように生きることを、俺は会得したさ。要はな…、”迷い”を持たないことなんだ」
「”迷い”…、ですか?」
「ああ、人間、今の世の中生きてきゃ、いろんなしがらみや諸事情ってやつで、それこそ、一瞬、一瞬が”迷ってる”時間だ。形態はいろいろだ。遠慮、疑心暗鬼、恐怖、義理と人情…、それぞれ湧き出る源泉は違うがな。それは、決断を後押しする要素にもなり得るが、多くは結果として、迷いを生む。それがケモノのように、目の前に純粋にぶつかっていくことを拒んじゃうんだよ」
「その迷いを取っ払うのに、コツがあるってことですか?」
「そうだ。それは自分を”挑発”することだ。常にな。これに尽きる」
「自分を挑発…、それって一体…」
私は前のめりになって、せっつくような口調で会長に呟いていた
...
「いや、そのまんまさ。年がら年中、それこそ、寝てる間も己を触発するんだ。人間はいつもしがらみを抱えて、現実を前にしている。具体的に動くとき、自然と妥協せざるを得ない。その”妥協”ってのを可能な限り、くだらねえ邪念だと自分にいい聞かせるんだ。今のお前ならわかるはずだ。あとで、じっくり考えてみろ」
「…」
何だか、鳥肌が立ってきた…
「その際、迷いと”ためらい”は区別することだ。ためらうのは、いわば確認作業とみなせばいい。俺が奥の部屋でお前と顔を突き合わせてた時をあてはめりゃだ、いいか、こういう事になる。少なからず、息子を”導いた”お前を”援助”する…、これは己を挑発しなきゃ考えが及ぶことじゃねえ」
まさにその通りだ、まさしくだ
「だがよ、その時点で、迷いはもうないんだ、オレの中に。定男のことは、さっき言った通りで整理がついていたからな。あとは、お前が俺の眼鏡にかなうかどうかの”判断”だ。こいつは自分に納得できるかも含まれるが、ぎりぎりのラインを見極める、野生動物のような”カン”があるかどうかで大きく違ってくる」
会長はここで、少し間を置いた
私の前の小皿にフルーツをいくつか盛ってくれてから、再び口を開いた
目はギラギラだが、穏やかな顔で…
「その”カン”ってのも、お前は持ち合わせてるよ。お前の眼光からは、それが伝わったしな。もう一つ、これは絶対に不可欠なんだが、いつ死んでもいいという覚悟だ。それも、あの時、お前にはすでに備わっていた。16の娘がな…、驚いたよ、麻衣」
なんて分かりやすいんだ…
理屈と感覚、両方が”私”にすっと入ってきた
「でよう、お前がションベンちびる寸前まで、確認作業だったって訳だ。あの場ではな、ハハハ…」
私はクスッと笑って、少し顔を赤らめた
...
今、相馬豹一の口から語られた言葉の一言一言…
それ、この瞬間から私のバイブルとなったのは、言うまでもない
麻衣
「今の世、人間がケモノのように生きたいって言ってもな…、実際、人間の世界だし、本能のままって訳にはいかねえ。法律破ることなど日常茶飯事の俺でもよ、最低限のできねえことあるしな。素っ裸で街中歩いて、メシ食っても金払わねえって日常生活、できっこねえだろ、いくらなんでも」
「はい…(笑)」
当然過ぎておかしかった、この人が言うとことさらに…
「だから、所詮ケモノにはなれない訳だ。だがよう、物心ついた時から、人間の社会でも餓えたケモノのように生きることを、俺は会得したさ。要はな…、”迷い”を持たないことなんだ」
「”迷い”…、ですか?」
「ああ、人間、今の世の中生きてきゃ、いろんなしがらみや諸事情ってやつで、それこそ、一瞬、一瞬が”迷ってる”時間だ。形態はいろいろだ。遠慮、疑心暗鬼、恐怖、義理と人情…、それぞれ湧き出る源泉は違うがな。それは、決断を後押しする要素にもなり得るが、多くは結果として、迷いを生む。それがケモノのように、目の前に純粋にぶつかっていくことを拒んじゃうんだよ」
「その迷いを取っ払うのに、コツがあるってことですか?」
「そうだ。それは自分を”挑発”することだ。常にな。これに尽きる」
「自分を挑発…、それって一体…」
私は前のめりになって、せっつくような口調で会長に呟いていた
...
「いや、そのまんまさ。年がら年中、それこそ、寝てる間も己を触発するんだ。人間はいつもしがらみを抱えて、現実を前にしている。具体的に動くとき、自然と妥協せざるを得ない。その”妥協”ってのを可能な限り、くだらねえ邪念だと自分にいい聞かせるんだ。今のお前ならわかるはずだ。あとで、じっくり考えてみろ」
「…」
何だか、鳥肌が立ってきた…
「その際、迷いと”ためらい”は区別することだ。ためらうのは、いわば確認作業とみなせばいい。俺が奥の部屋でお前と顔を突き合わせてた時をあてはめりゃだ、いいか、こういう事になる。少なからず、息子を”導いた”お前を”援助”する…、これは己を挑発しなきゃ考えが及ぶことじゃねえ」
まさにその通りだ、まさしくだ
「だがよ、その時点で、迷いはもうないんだ、オレの中に。定男のことは、さっき言った通りで整理がついていたからな。あとは、お前が俺の眼鏡にかなうかどうかの”判断”だ。こいつは自分に納得できるかも含まれるが、ぎりぎりのラインを見極める、野生動物のような”カン”があるかどうかで大きく違ってくる」
会長はここで、少し間を置いた
私の前の小皿にフルーツをいくつか盛ってくれてから、再び口を開いた
目はギラギラだが、穏やかな顔で…
「その”カン”ってのも、お前は持ち合わせてるよ。お前の眼光からは、それが伝わったしな。もう一つ、これは絶対に不可欠なんだが、いつ死んでもいいという覚悟だ。それも、あの時、お前にはすでに備わっていた。16の娘がな…、驚いたよ、麻衣」
なんて分かりやすいんだ…
理屈と感覚、両方が”私”にすっと入ってきた
「でよう、お前がションベンちびる寸前まで、確認作業だったって訳だ。あの場ではな、ハハハ…」
私はクスッと笑って、少し顔を赤らめた
...
今、相馬豹一の口から語られた言葉の一言一言…
それ、この瞬間から私のバイブルとなったのは、言うまでもない