彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
「ヨナお嬢様! 父上と母上がお見えになりました」

 次に、チヌが引き連れてきたのは、

(えっ、パパ! ママ?)

 実際の両親をそのままコピーしたような人間達だ。

「ヨナ! 美しいぞ」

 優しく微笑む父上は、実際の父親よりかなり威厳に満ち溢れていて……。

「ヨナ……」

 涙を浮かべる母上は、実際の母親よりずっと上品だ。

「パパ! ママ!」

 呼んでみたけれど、二人は、何を言ってるのか分からないという顔で私を見つめている。

(なんなんだ! このトリックは?)

 茫然としたまま、チヌに言われた通りに、実際の両親のようなそうでないような両親のあとに付いて部屋を出る。

 庭園には、大勢の人達がゾロリと列を成して並んでいた。
 ここの一族や屋敷の使用人達が、勢揃いしているらしい。

「ヨナ! 達者で暮らせよ」
「ヨナお嬢様、お美しゅうございます」

 なぜか、親近感のある顔ぶれが、私を祝っている。

(あっ!)

 すぐに、兄という設定のイケメン天使を見つけた。昨日、恋人のような甘い時間を過ごした護衛の姿もある。

 走り寄って、元に戻れるのか? いつまでここに居るのか? 詳しく聞きたい。
 けれども、さすがに人目が多過ぎる。

 一歩一歩前へ進み、イケメン天使の前を通り過ぎようとした瞬間。

「ねぇ! どういう……」

 まわりに気付かれないよう力の入った小声で話し掛けると、イケメン天使の方が言葉を被せてきた。

「ヨナ! 其方を信じておるぞ」

 悲痛な叫びだった。

(信じてるって……、何を?
 どういう意味!
 ここは、謎解き世界?
 あ〜、歯痒い! じれったい!
 直球で言ってくれないかなぁ!)

 かなりイラっとしたけれど、イケメン天使に悲しい微笑みを向けられ、胸の奥がズキッ疼いた。

(何なの、この感覚……。
 そんな顔されると、責めることもできなくなるじゃない!)

 隣りでは、愛しい護衛が私をじっと見つめている。

(ねぇ、いいの? 私が他の人と結婚しても、いいの!)

 まわりを気にしながら目で訴えると、

「お幸せを、お祈りしております」

 あっさりとそう言って、護衛は頭を下げた。

 がっかりだ。
 どうせなら、私をここから拐って逃げるくらいのことして欲しいのに!

 でもでも、護衛では、さすがに生活は安定していないのかもしれない。こんな衣装や宝石を身に着けることは、難しいだろう。

「さぁ、ヨナお嬢様」

 チヌに手を引かれ、
 なぜか愛しいと思える人達に見送られ、
 おそらくは自宅であろう門をくぐり抜けた。
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