彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
 兵士達に誘導されるがまま進んでいき、まるで天上界にでも繋がるような神々しい門をくぐり抜ける。

 王宮の入り口では、体格の良い護衛達に厳重に警備された王様御一行が待ち構えていた。
 その向こうには荘厳たる宮殿が、青空をバックに堂々とそびえ立っている。
 
(これが、王宮……)

 その景観に圧倒されていると、ひときわ目立つ赤い衣装を纏った国王とやらが近付いてきて、私の手を取った。冠の飾りで隠されていた顔が、徐々に明確になっていく。

(嘘っ!)

 驚き過ぎて、脳に衝撃が走った。

 国王は……、この国の王は……、私が大っ嫌いなクソ部長に瓜二つ。

(無理、無理、無理! 絶対に無理‼︎ 生理的に受け付けない! 触らないでよ! キモ過ぎる!)

 すぐにでも、その手を振り払いたいと思った。
 けれども、その先が読めた……。

 もし、私がこの手を振り払ったら、恐らくこの護衛達は刀を抜くだろう。そうして、私は「無礼者!」と罵られ、この場で斬られる。

(戻りたい! なんとしてでも、元の世界に帰らなきゃ!)

 私は何かを諦めて、このクソ部長のキモい手に引かれ、煌びやかな宮殿の中へと入っていった。

 朱色の柱が連なる通路を最悪な気分で通り抜けると、急に、ドラマのセットの中にでも入り込んだような景色が広がった。

 広大な敷地に、豪華な木彫りのテーブルと椅子……。赤、青、紫色の衣装を着た大勢の臣下達が跪き、中央には鮮やかな赤い色の絨毯が伸びている。
 
(凄い!)

 国王直属の兵士達に案内されるがまま一歩一歩進んでいき……、国王と共に一番高い席にゆっくりと腰を下ろした。改めて、その色鮮やかな景色を見下ろしてみる。

(良い! 隣りを見なければ、悪くない!)

 波立っていた気持ちが、少しずつ穏やかになっていく……。

 いきなり、沖縄民謡のような呑気な演奏が始まった。
 祝辞らしきものが述べられ、国王と私の盃を酌み交わすよう指示される。
 
(ゲーッ、キツい! 耐えられない! でも、従わなければ……、牢獄か死刑の可能性は高い)

 もう何も考えずに、波並みと注がれたまずい酒を一気に飲み干した。

 臣下達の拍手に被さるように演奏の音は一段と大きくなり、四人の巫女が中央の舞台に立つ。衣装と同じ紫色の布を羽衣のようになびかせ、華麗な舞が始まる……。
 
(あっ、あの子は踊らないんだ)

 巫女姿の元女子校生は、舞台の傍らで同じ年頃のもう一人の巫女と共に控えている。右隣りには、同じ装束を着た中年の巫女も居る。

 それにしても、あの巫女、見れば見るほど自殺した女子高生だと確信できる。顔立ちは可愛いらしいのに、表情が本当に貧相だ。
 まぁ、自殺にまで追い込まれた子だ。闇を抱えているのは当然か。

 式の間、美しい舞を魅せる巫女達よりも、控えている元女子高生の方がずっと気になっていた。
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