彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
世奈side
「スヨン! スヨン!」
誰かがスヨンと呼ぶ声……。
(ということは、まだあの世界に居るの?)
ゆっくりと瞼を開けると、友と教えられたコウが覗き込んでいた。
やはり、巫女のスヨンとして生きている世界だ。
消し去りたいと思っていた命は、まだここにある。
ゆっくりと起き上がりながら、辺りを見渡してみた……。
木枠の小窓から、朝陽が燦燦と射し込んでいる。ログハウスをもっとレトロにしたような、木の香りがいっぱいに漂う団体部屋……。
四つあるベッドの一番奥で、私は深い眠りに就いていたらしい。
ここ半年くらいは寝付きが悪く、朝起きて学校に行くことが本当に辛かった。
けれども、今朝は心も身体も嘘のように軽い。
「スヨン見て! 今日の私達の衣装よ」
「えっ、私達の?」
コウが、紫色に銀色の刺繍が施された装束を手渡してくれる。昨日の紺色の衣装に比べると、かなりグレードが高い。
(そうだ、今日は王家の婚儀に出席するんだ)
「早く、着替えましょ!」
「あっ、はい……」
素っ気ない私の反応に、コウのテンションが一気にトーンダウンする。
「スヨン、まだ様子が変ね……」
「あっ……、うん……、ごめんなさい」
コウは、本当のスヨンを知っている……。普段のスヨンはどんな人間なのだろうか?
コウに誘導されるがまま支度を整え、礼拝堂で意味の分からないお祈りをする……。野菜中心の粗末な食事を終え、神社のような建物をあとにした。
マヤ様を先頭に、王家専属の巫女が四人、コウと私を含め七人で、川原沿いの砂利道を歩く……。
季節は春だろうか?
空は青く晴れ渡り、心地よい風が草花の若い香りを漂わせている。
「ホン家のお嬢様だから、きっと美しいでしょうね〜」
隣りを歩いていたコウが、瞳をキラキラと輝かせながら私を見た。
「ホン家? あ、昨日、川原に居たあの人の家?」
確認するように聞いてみると、
「そうそう。あっ、スヨン、記憶を失っちゃってるのよね」
コウが哀れむように私を見ながら話を続ける。
「今日は、王様とホン家のヨナお嬢様とのご婚礼よ。あ、昨日のあの方の妹君ね。確か、第三夫人になるんじゃなかったかしら……」
「えっ、第三夫人! 側室ってこと?」
「まぁ、そういうことになるわよね。おそらくは、ホン家を強く繋ぎ止めておく為の政略結婚ってところじゃないかしら」
「そうなんだ……」
悲しい結婚だと思った。家の為に自分の人生を投げられるなんて、けなげな花嫁だと思った。きっと、苦しい毎日になるに違いない。
誰かがスヨンと呼ぶ声……。
(ということは、まだあの世界に居るの?)
ゆっくりと瞼を開けると、友と教えられたコウが覗き込んでいた。
やはり、巫女のスヨンとして生きている世界だ。
消し去りたいと思っていた命は、まだここにある。
ゆっくりと起き上がりながら、辺りを見渡してみた……。
木枠の小窓から、朝陽が燦燦と射し込んでいる。ログハウスをもっとレトロにしたような、木の香りがいっぱいに漂う団体部屋……。
四つあるベッドの一番奥で、私は深い眠りに就いていたらしい。
ここ半年くらいは寝付きが悪く、朝起きて学校に行くことが本当に辛かった。
けれども、今朝は心も身体も嘘のように軽い。
「スヨン見て! 今日の私達の衣装よ」
「えっ、私達の?」
コウが、紫色に銀色の刺繍が施された装束を手渡してくれる。昨日の紺色の衣装に比べると、かなりグレードが高い。
(そうだ、今日は王家の婚儀に出席するんだ)
「早く、着替えましょ!」
「あっ、はい……」
素っ気ない私の反応に、コウのテンションが一気にトーンダウンする。
「スヨン、まだ様子が変ね……」
「あっ……、うん……、ごめんなさい」
コウは、本当のスヨンを知っている……。普段のスヨンはどんな人間なのだろうか?
コウに誘導されるがまま支度を整え、礼拝堂で意味の分からないお祈りをする……。野菜中心の粗末な食事を終え、神社のような建物をあとにした。
マヤ様を先頭に、王家専属の巫女が四人、コウと私を含め七人で、川原沿いの砂利道を歩く……。
季節は春だろうか?
空は青く晴れ渡り、心地よい風が草花の若い香りを漂わせている。
「ホン家のお嬢様だから、きっと美しいでしょうね〜」
隣りを歩いていたコウが、瞳をキラキラと輝かせながら私を見た。
「ホン家? あ、昨日、川原に居たあの人の家?」
確認するように聞いてみると、
「そうそう。あっ、スヨン、記憶を失っちゃってるのよね」
コウが哀れむように私を見ながら話を続ける。
「今日は、王様とホン家のヨナお嬢様とのご婚礼よ。あ、昨日のあの方の妹君ね。確か、第三夫人になるんじゃなかったかしら……」
「えっ、第三夫人! 側室ってこと?」
「まぁ、そういうことになるわよね。おそらくは、ホン家を強く繋ぎ止めておく為の政略結婚ってところじゃないかしら」
「そうなんだ……」
悲しい結婚だと思った。家の為に自分の人生を投げられるなんて、けなげな花嫁だと思った。きっと、苦しい毎日になるに違いない。