彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
宮殿が近付くにつれて、行き交う人は多くなり、まわりがザワザワと騒付いてきた。
巫女仲間とはぐれないように、人波を交わしながら必死にあとに付いていく……。
それにしても、凄い人だ。みんな、花嫁を一目見ようと、必死に前へ出ようとしている。
人だかりを抜け……、ようやく宮殿の門の前に辿り着いた。
警備の兵士とマヤ様が軽い会話のやり取りをし、参列者の列に加わる。
(これが、王宮……?)
圧巻だ。テレビや写真で見たことはあったが、いざ宮殿の前に立つと足がすくむ。
私のような人間がここにいて良いのだろうか? と思うほど、門構えだけでも威厳に満ち溢れている。
(………なんだろう?)
どこからか歓声が湧き起こった。その声のする方を見る……。
花嫁が到着したようだ。参列者を挟んでいるが、輝かしい籠がよく見える。
覆いが上げられ、使用人に支えられながら、第三夫人が現れた。歓声が更に大きくなり、青空に響き渡る。
(嘘……)
あまりの美しさに目を見張った。
天女が舞い降りてきたとは、このことだ。
艶やかな赤い着物やキラキラと煌めく装飾品も、彼女の為にあるのではないかと思うほどよく似合っている。
(そういえば、昨日、川原に居たあの人の妹なんだ)
どことなく似ている。兄妹揃って、とても綺麗な顔立ちだ。
ただ、ただ、手を振る第三夫人をうっとりと見つめる……。コウも他の巫女達も、完全に心を奪われているようだ。
突然、第三夫人が厳しい表情に変わり、こちらを指差してハッキリと叫んだ。
「ホームから飛び降りた子でしょ‼︎」
その場の空気が、一瞬にして変わる……。
マヤ様が振り返り、強い眼差しで私を見た。
(そうだ! 私は、あの朝、電車に飛び込んだんだ……。命を終わらせたはずなのに、なぜかまだここに居る。でも……、どうして第三夫人がそれを知ってるの?)
「スヨン!」
コウに呼ばれ、意識がこの世界に戻る。
「ねぇ、ホン家のご子息が、スヨンをじっと見てるわよ」
(えっ?)
騒つく心を隠しながら、コウの視線を辿る……。確かに、第三夫人の兄であるその人が、川原に居たその人が、一族の集団の中から、私を心配そうな目で見つめている。
昨日の青い色ではなく黒い衣装が、更に勇ましく、素敵さを増している。
私も、見つめ返していた。
重なった視線がとても熱くて、胸が苦しくなる……。
もし、生きていたら、これが恋という感情だったのかもしれない。
巫女仲間とはぐれないように、人波を交わしながら必死にあとに付いていく……。
それにしても、凄い人だ。みんな、花嫁を一目見ようと、必死に前へ出ようとしている。
人だかりを抜け……、ようやく宮殿の門の前に辿り着いた。
警備の兵士とマヤ様が軽い会話のやり取りをし、参列者の列に加わる。
(これが、王宮……?)
圧巻だ。テレビや写真で見たことはあったが、いざ宮殿の前に立つと足がすくむ。
私のような人間がここにいて良いのだろうか? と思うほど、門構えだけでも威厳に満ち溢れている。
(………なんだろう?)
どこからか歓声が湧き起こった。その声のする方を見る……。
花嫁が到着したようだ。参列者を挟んでいるが、輝かしい籠がよく見える。
覆いが上げられ、使用人に支えられながら、第三夫人が現れた。歓声が更に大きくなり、青空に響き渡る。
(嘘……)
あまりの美しさに目を見張った。
天女が舞い降りてきたとは、このことだ。
艶やかな赤い着物やキラキラと煌めく装飾品も、彼女の為にあるのではないかと思うほどよく似合っている。
(そういえば、昨日、川原に居たあの人の妹なんだ)
どことなく似ている。兄妹揃って、とても綺麗な顔立ちだ。
ただ、ただ、手を振る第三夫人をうっとりと見つめる……。コウも他の巫女達も、完全に心を奪われているようだ。
突然、第三夫人が厳しい表情に変わり、こちらを指差してハッキリと叫んだ。
「ホームから飛び降りた子でしょ‼︎」
その場の空気が、一瞬にして変わる……。
マヤ様が振り返り、強い眼差しで私を見た。
(そうだ! 私は、あの朝、電車に飛び込んだんだ……。命を終わらせたはずなのに、なぜかまだここに居る。でも……、どうして第三夫人がそれを知ってるの?)
「スヨン!」
コウに呼ばれ、意識がこの世界に戻る。
「ねぇ、ホン家のご子息が、スヨンをじっと見てるわよ」
(えっ?)
騒つく心を隠しながら、コウの視線を辿る……。確かに、第三夫人の兄であるその人が、川原に居たその人が、一族の集団の中から、私を心配そうな目で見つめている。
昨日の青い色ではなく黒い衣装が、更に勇ましく、素敵さを増している。
私も、見つめ返していた。
重なった視線がとても熱くて、胸が苦しくなる……。
もし、生きていたら、これが恋という感情だったのかもしれない。