彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜

美咲side

“間もなく1番線に電車が入って参ります。危ないですから、白線の内側までお下がり下さい”

 駅構内に、注意を促すアナウンスが流れている……。
 それなのに、

(えっ!)

 隣りに立っていた幸薄そうな女子高生が、まさに今、白線を越えようとしている。

(待って待って、嘘でしょ!)

 素早く、辺りを見渡した。どいつもこいつも携帯画面に夢中になっていて、誰も見ていない。

(なんで! なんで誰も気付かないの?)

 手を伸ばせば引き留められるかもしれない。でも、こういう時って、勇敢な男が活躍して、警察から感謝状とか貰うんじゃないの?

(わっ!)

 女子高生が、一歩前へ進んだ。

(自殺だ。間違いなく飛び込もうとしてる。やばいよやばいよ。
 誰か! 誰か、気付いて‼︎)

 0.00001秒の間に、いろんなことが頭を巡った……。

 憧れの宝石店に就職し、ようやく主任に昇格したところだ。給料も5万円アップするし、ボーナスも上がるはず。
 とりあえず、彼氏も二人いる。一人は大手食品メーカーの御曹司。もう一人は、同じ職場で働く同期だが、実家は老舗旅館というお墨付きだ。
 どちらも経済力は安定してるし、容姿もそれなり。二股だということは、今のところバレてない。そろそろ一人に絞らなければとは思っている……。
 遊ぶ友達にも不自由してないし、結構充実した毎日を送っている。

 今のところ、私は私の人生にまぁまぁ満足してる。
 だから、こんな面倒くさいことには関わりたくない……。

(早く、早く誰か気付いてよ!)
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