彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
 固く閉ざされていた王宮の門がゆっくりと開かれ……、
 第三夫人や兄であるその人が、護衛達に守られながら吸い込まれるように入っていく。

 私達も、まるで世界遺産のような宮殿の敷地についに足を踏み入れた。
 大勢の人の流れに付いて、ゆっくりと進んでいく……。

 暫くすると、婚礼の支度が整えられた大きな広場に辿り着いた。
 国王に連れられ、第三夫人が輝かしい席へと上っていく。

(えっ、あれが国王?)

 イメージとは、かなり掛け離れていた……。衣裳は立派だけれど、中身は通学途中によく見掛けていた普通のおじさんだ。
 第三夫人は、若い側室とは思えないほど毅然な態度で、ゆったりと腰を下ろしている。

 マヤ様に従い、私達も参列者の席に着く。同時に、雅楽のような演奏が流れ始めた。

 厳粛に、滞りなく、婚礼の儀とやらが進められていく……。

 王宮専属の巫女達による祈祷の舞が始まった……。
 まるで紫色の蝶が舞っているような、妖艶で幻想的な踊りだ。

「素敵、ね〜」

 コウの口から、うっとりとした声が漏れる。

「ほんと……」

 私も感動していた。
 四人の呼吸がぴったりと合っている。この日の為に、何度も練習をしたのだろう。
 コンクールに参加すれば、間違いなく最優秀賞に匹敵するほどのプロ顔負けの踊りだ。

 強張った表情を見せていた第三夫人の兄上も、巫女の舞をうっとりと眺めている。

 その姿に、胸が痛んだ。

 妹が政略結婚だなんて、兄としても辛いことだろう。
 国王かもしれないけど、あんなおじさんのお嫁さんになんか絶対になりたくない! 若くて美しい第三夫人が、気の毒過ぎる……。

 同情しながら、国王の隣りの席を見上げる。
 
(えっ……)

 目が合った。

 私を品定めするような不審そうな目付きで、第三夫人がこちらを見ている。
 式の前に言い放っていた「ホームから飛び降りた子でしょ」という言葉が、何度も脳裏で繰り返される。

(どういうことなんだろう? ここに居る誰もが知らないことを、なぜ第三夫人は知っているのだろう? あの人の妹だから? あの兄妹には、何か特別な力でもあるの?)

 もう、巫女達の踊りにも、婚礼の儀式にも集中できない。時折、私を見る第三夫人の視線が気になって仕方ない。

 ここがあの世なのか、異次元なのか、全く理解できないけど……。  
 今、分かっていることは、この世界に来た時に一緒に居たのは、第三夫人の兄上で……。第三夫人は、私が電車に飛び込んだという事実を知っているということだ。

 誰と誰が繋がっているのか、どうして私が巫女として生きているのか、まるで迷路の中を彷徨っているようだけれど……。元に居た世界より、明らかにこの世界の方がずっとましだ、と思っていた。
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