彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
「まぁ、ここでの暮らしも悪くはないなぁとは思ってるんだけど……。でも、やっぱり元の世界に帰らなきゃいけない気もするし……」
そう言ってから、ちょっと後悔した。大事なことを忘れていたからだ。
この子は、元の世界から消えたかったんだ。そんな世界に、帰りたい訳ないじゃない。すっかり仲間のような気がしてたけど、私とはちょっと状況が違う。
私は、何がなんでも八十歳までは生き続けたいと思っている。いつまでも美しい姿でいる為に、サプリも二十種類以上飲んでいる。まだまだ、やりたいこともいっぱいあるし、絶対に死にたくない……。
「あの……、美咲さんのお兄さんに聞いてみたら分かるんじゃないですか?」
突然、世奈が提案してきた。
立ち止まって考え込んでいる私とは裏腹に、建設的に話を進めようとしている。
「お兄さん?」
(あ〜、イケメン天使のこと?)
「私、この世界に来た時、川原で美咲さんのお兄さんに抱きかかえられてたんです」
「抱きかかえられてた?」
(そうだ! 肝心なこと忘れてた。私達二人と関わっている、重要人物!)
「そうそう! イケメン天使、あっ、私の兄と名乗るあの男が駅のホームで世奈を抱き上げて、そなたも一緒にとかなんとか言って……。そうだよ! あいつが私達をここに連れてきたんだよ!」
全然、未解決なのに、一瞬、全ての謎が解けたような気がした。
「ヨナお嬢様! 間もなく祝宴が始まります。王様がお待ちですよ」
戸の向こうから、チヌの声が聞こえてくる。
「ゲッ、待たなくていいから! もう勘弁してよ……。この環境は受け入れられるけど、あの国王だけは絶対に無理!」
つい、本心を言ってしまった。
「そうですよね。国王かもしれないけど、美咲さんには合わない気がします。結構、年も離れてるんじゃないですか?」
世奈が、気の毒そうに私を見る。世奈から見ても、やはり有り得ない男なのだろう……。
「ほんと、いい歳して図々しいよ! どうせなら第十夫人とかで、存在忘れて欲しいんだけど」
世奈が、ケラケラと笑いだした。
(なんか、嬉しい。この世の苦しみを全て背負っているかのような不幸オーラ全開だったあの女子高生が、今、楽しそうに笑っている。大きな瞳をキラキラさせて笑うと、やっぱりアイドルのようだ)
「世奈! あんたさぁ、可愛い顔してんだから明るくしてた方がいいよ。ちょっと暗過ぎだったから」
「えっ……」
世奈の顔が赤くなった。
恥ずかしいのか? 照れているのか?
「ヨナお嬢様! 早く、お支度を!」
チヌの声が強くなった。
(まぁ、わがままを聞いてもらったのだから、従うしかないか……)
「はいはーい」
軽くあしらうように、とりあえず返事をした。
それにしても、この時間が終わってしまうことがとても惜しい。世奈を、私専属の巫女にしてもらいたいほどだ。
でも、世奈がこの王宮に入ってしまったら、外の情報は全く入ってこない。きっと、何も解決しないだろう。
「ねぇ、またここに来てね! この世界では、世奈だけが頼りだから」
そう言って、仕方なく席を立った。
「何か分かったら知らせに来ます」
希望の言葉を残し、世奈が部屋を出ていく。
心強い! この子はきっと、この問題に真剣に取り組んでくれるだろうと思った。
自殺の瞬間、助けようと思えば助けられたかもしれないなんてとても言えない。あの地下鉄のホームで、私が何も行動しなかったことは……、忘れよう。
戸を開けて、申し訳ない気持ちで世奈の背中を見送った。
途端に使用人達が戻ってきて、またもやあれこれと飾りを付け始める。
(祝宴って……、今度は何をやらされんの!)
世奈には明るくした方がいいと説教しておきながら、私は思いっきり暗い表情で再び国王の元に向かった。
そう言ってから、ちょっと後悔した。大事なことを忘れていたからだ。
この子は、元の世界から消えたかったんだ。そんな世界に、帰りたい訳ないじゃない。すっかり仲間のような気がしてたけど、私とはちょっと状況が違う。
私は、何がなんでも八十歳までは生き続けたいと思っている。いつまでも美しい姿でいる為に、サプリも二十種類以上飲んでいる。まだまだ、やりたいこともいっぱいあるし、絶対に死にたくない……。
「あの……、美咲さんのお兄さんに聞いてみたら分かるんじゃないですか?」
突然、世奈が提案してきた。
立ち止まって考え込んでいる私とは裏腹に、建設的に話を進めようとしている。
「お兄さん?」
(あ〜、イケメン天使のこと?)
「私、この世界に来た時、川原で美咲さんのお兄さんに抱きかかえられてたんです」
「抱きかかえられてた?」
(そうだ! 肝心なこと忘れてた。私達二人と関わっている、重要人物!)
「そうそう! イケメン天使、あっ、私の兄と名乗るあの男が駅のホームで世奈を抱き上げて、そなたも一緒にとかなんとか言って……。そうだよ! あいつが私達をここに連れてきたんだよ!」
全然、未解決なのに、一瞬、全ての謎が解けたような気がした。
「ヨナお嬢様! 間もなく祝宴が始まります。王様がお待ちですよ」
戸の向こうから、チヌの声が聞こえてくる。
「ゲッ、待たなくていいから! もう勘弁してよ……。この環境は受け入れられるけど、あの国王だけは絶対に無理!」
つい、本心を言ってしまった。
「そうですよね。国王かもしれないけど、美咲さんには合わない気がします。結構、年も離れてるんじゃないですか?」
世奈が、気の毒そうに私を見る。世奈から見ても、やはり有り得ない男なのだろう……。
「ほんと、いい歳して図々しいよ! どうせなら第十夫人とかで、存在忘れて欲しいんだけど」
世奈が、ケラケラと笑いだした。
(なんか、嬉しい。この世の苦しみを全て背負っているかのような不幸オーラ全開だったあの女子高生が、今、楽しそうに笑っている。大きな瞳をキラキラさせて笑うと、やっぱりアイドルのようだ)
「世奈! あんたさぁ、可愛い顔してんだから明るくしてた方がいいよ。ちょっと暗過ぎだったから」
「えっ……」
世奈の顔が赤くなった。
恥ずかしいのか? 照れているのか?
「ヨナお嬢様! 早く、お支度を!」
チヌの声が強くなった。
(まぁ、わがままを聞いてもらったのだから、従うしかないか……)
「はいはーい」
軽くあしらうように、とりあえず返事をした。
それにしても、この時間が終わってしまうことがとても惜しい。世奈を、私専属の巫女にしてもらいたいほどだ。
でも、世奈がこの王宮に入ってしまったら、外の情報は全く入ってこない。きっと、何も解決しないだろう。
「ねぇ、またここに来てね! この世界では、世奈だけが頼りだから」
そう言って、仕方なく席を立った。
「何か分かったら知らせに来ます」
希望の言葉を残し、世奈が部屋を出ていく。
心強い! この子はきっと、この問題に真剣に取り組んでくれるだろうと思った。
自殺の瞬間、助けようと思えば助けられたかもしれないなんてとても言えない。あの地下鉄のホームで、私が何も行動しなかったことは……、忘れよう。
戸を開けて、申し訳ない気持ちで世奈の背中を見送った。
途端に使用人達が戻ってきて、またもやあれこれと飾りを付け始める。
(祝宴って……、今度は何をやらされんの!)
世奈には明るくした方がいいと説教しておきながら、私は思いっきり暗い表情で再び国王の元に向かった。