彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
「あんたさぁ、女子高生だったでしょ?」

 突然、話が変わった。

 現世での記憶が蘇る……。あの時、制服を着ていたから?

「あっ、はい。清蘭高校三年の橋本世奈っていいます」

「清蘭? ちょーレベル高いじゃん! 将来の道は開けてるっていうのに、なんでまた飛び込み……、あー、心の声、気にしないで!」

 なんだか可笑しい。私の傷に触れないよう気遣ってくれてるのだとすぐに分かった。

「ねぇ、世奈! この状況って一体なんなんだろう? 世奈は死んだのかもしれないけど、私はホームに立ってただけなんだよ」

 いきなりの親近感が、なぜか嬉しい。世奈と呼んでもらえるのは久しぶりだ。
 だけど、ホームに立ってただけなのに、なんで私と同じ世界に居るのだろう? ここが天国ではないとしたなら、死ぬ間際に前世の記憶でも辿っているのだろうか? おそらくは、私が第三夫人を巻き込んでしまったことに間違いはない。

 これ以上、迷惑を掛けてはいけないと思った。
 第三夫人の役に立ちたいと思った。

(私なりの見解を、全て話さなければ!)

「正直、私は元の世界から消えたいと思ってた人間なので、ここがどこでもいいって思ってました。最初は天国かなと思ったけれど、なんとなく昔の中国とか韓国とか……、どこかアジア系の国かなって思ってます」

「やっぱり⁉︎ 私も韓国時代劇の世界に似てる気がしてた!」

「不思議と会話は通じるみたいなんですけど、書物は漢字のみで読み方も違うみたいです。お祈りを唱える時も口パクでやってました」

 第三夫人が手を叩きながら、嬉しそうに笑っている。私の話に、興味を持ってくれたようだ。

「そうそう! 私も、サインしろみたいなこと言われたから『余菜』って書いてみたの、ヨナって呼ばれるから。そしたらチヌが医者呼んだりしてもう大変だった」

 第三夫人が『余菜』と書いた紙を私に見せる。

(余菜って……、適当過ぎる!)

 思わず笑ってしまった。

 誰かと一緒に悩み、考えることが、こんなに楽しいことだとは思わなかった……。
 私は、究極の状況を共に過ごしている第三夫人に、何か特別なものを感じていた。

「あの、第三夫人は学生さんだったんですか?」

「その第三夫人っていうのやめてくれる? だいたい三番目とか、バカにし過ぎだから」

 確かに! と思いながら、また笑ってしまった。
 ストレートに感情をあらわにする第三夫人が、なぜだか可愛らしく見えてくる。

「私は成瀬美咲。銀座の宝石店に勤めてて、あの朝も出勤しようとしてたの」

(なるせみさきさん。
 私のせいで、出勤できなかったんだ……。きっと他にも、学校や会社、大切な約束に間に合わなかった人がたくさん居るんだ)

「そうでしたかぁ……。あの、美咲さん、本当にご迷惑お掛けしてすみませんでした」

「いやっ、ここで謝られても……。なんか変でしょ!」

 確かに、謝って済む問題ではない。私は、どう償えばよいのだろう……。
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