彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜

世奈side

 闇に堕ちていく……。

 一瞬で消えるはずだったのに……、

 懐かしい映像が見えてくる……。

 幼稚園に通っていた頃の私だ。

 制服姿の私が、つまらなそうにトボトボと砂場に向かって歩いている。順番を待ってやっと乗れたブランコを、友達に取られてしまったからだ。

“もうちょっとだけ乗りたかったのに……”

 当時の、心の声が聞こえてくる。

 人の目を気にし過ぎて、自分の気持ちは言わない子だった。我慢の出来る子だった。

 次に見えてきたのは、ジーンズに白のトレーナーを着た小学生の頃の映像だ……。
 人がやりたがらない重い給食を運んだり、一人でゴミ捨てにも行っている。
「真面目だよね〜」「学級委員だからって、張り切ってるよね〜」
 心ないクラスメートの声が、胸に突き刺さってくる。

“みんなの為にやってるのに……”

 勉強も運動もよくできる、いわゆる優等生だった。学年を代表してピアノの演奏をした、音楽会の映像も見えてくる……。

 今度は、中学受験で第一志望校に合格した時の映像だ……。
 涙を流し喜んでいる母親を、私は冷静に見つめている。
 素直に喜べなかった……。同じ塾から受験した、あとの二人が不合格だったからだ。当時通っていた塾へ報告に行くと、講師達は、泣いている二人を素通りして私の合格を大袈裟に喜んでいた……。

“二人だって一生懸命頑張ってたのに、先生達はどうして慰めてあげないの?”

 その場所に居ることが、堪らなく辛かった。初めて、大人に反感を待ったことを、今でもハッキリと覚えている。

 そんな辛い受験も全て終わり、夢や希望でいっぱいの中学校生活が始まる! と思っていたのに……。

 入学式は、また新たな争いのスタートだった……。まわりは自分より出来る子ばかりで、闘争心もむき出しだ。学力テストのクラス順位が発表され、茫然と立ち尽くしている私がそこに居る。45人中28位だ。

“嘘……、どうしよう……”

 闇がどんどん深まっていくようで、絶望感に襲われた。

 それからは、学校の授業を真剣に受けている私……、塾の講師になん度も質問をしている私……、自分の部屋で机に向かって宿題に追われている私……、とにかく勉強をしている場面が続いている……。

 今、通っている高校の映像に変わった……。私は、一人でお弁当を食べている。

 いつから一人になったのだろうか?

 親友だと思っていた子にカンニングさせて欲しいと頼まれ、断ったことが原因かもしれない。その日を境に、クラスメート全員から無視されるようになった。
 最初は努力した。自分から声を掛けて仲間に入れてもらおうとした。けれども、諦めた。友達と付き合うことが煩わしくなったからだ。
 一人の時間が増えれば、その分、勉強もできる。とにかく、上位をキープすることだけを目指した。
 有名大学に合格し、大手企業に就職すれば、未来は明るいと思っていた。
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