彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
「ねぇ、チヌ。王様の隣りに居た派手なおばさんは、誰なの?」
部屋に入るとすぐに、祝宴の間ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「派手なおばさん……。あ〜、ヘビン様のことですか?」
私の着替えを手伝いながら、チヌがあっさりと応える。
「すっごい嫌な感じだったんだけど」
「あの方が、国王の第二夫人でございます」
「うっそーっ! じゃあ、私は、あのおばさんの次ってこと? なんか、メチャクチャ屈辱なんだけどっ」
激しい衝撃を受け、下着のまま叫んでいた。
「順番など関係ありません」
三番目の私を慰めてくれているのか? それとも、別の意味があるのか……。チヌが、きっぱりと言い切っている。
(あれっ、だけど、なんでこんなにムキになってんの! 別に、あの国王の一番になりたい訳じゃないし……。国王の一番……。そっか、一番が居るんだ。正妻が!)
「じゃあ、第一夫人はどこに座ってたの?」
薄いオレンジ色の衣装を羽織りながら、興味津々にチヌの顔を覗き込む。
「王妃様は、三年ほど前から床に伏せていると、女官から聞いております」
(床に伏せるって……、病気ってこと?)
「どんな、病いなの?」
「それが、原因不明だとか……。ご懐妊も難しいらしく、お世継ぎはヘビン様かヨナお嬢様のご子息ということになると申しておりました」
「えっ、私の息子? 私の息子が国王に!」
(それって……、それって……、最高かもしれない!)
思わず、笑いがこみ上げてくる。
(あっ、でも、その息子って……。あの国王との子供ってことだよね? ということは、あの国王と、あんなことやらこんなことやら……)
「うわっ、無理、無理! 絶対に無理‼︎ 国王の息子なんて、絶対にいらない!」
「ヨナお嬢様!」
チヌがまわりを気にしながら、またまた私を叱る。そこから、チヌの小言が始まった。
「祝宴の間も、ひやひやしておりました。王様の目の前に手を延ばすなんて……、きっと母上もお嘆きになっております。お食事は、王様の後からなさるものです。それに……」
次から次へと出てくるクレームを、淡々と着替えながら聞き流す。
チヌ……。母親のような、姉のような、友達のような、不思議な存在だ。いろいろとうるさいけれど、嫌いではない。むしろ、好きな方だ。
熱が入っていく様子を眺めながら、チヌへの信頼が深まっていることを実感していた。
それにしても、気になるのは第一夫人、王妃のことだ。いったい、なんの病気なんだろう? 子供を産めないってことは、王妃の座は、男の子を産んだ人のものってこと? 私にも、王妃になる可能性があるっていうこと?
(あの第二夫人か、私か……。この勝負、面白いかもしれない)
見知らぬ世界に居る私の中に、意味不明な野望が芽生えていた。
あっ、でも、ダメだ! どうしても、あの国王だけは受け入れられない。その時だけ、なんとか耐えられるだろうか……。権力か、それとも愛か。揺れるなぁ。
(とにかく、まずは、王妃や第二夫人についていろいろ調べなきゃ!)
「ねぇ、チヌ! 今から、宮殿の中をいろいろ見てみたいんだけど」
チヌの小言が止まった。
「もう、遅うございます」
確かに……。さすがに、無理な願いだ。
「そうですね〜、明日は特にご予定も入っておりませんので、女官に案内させましょうか?」
「ほんと! でも、女官はもういいよ、ぞろぞろ歩くの面倒くさいし……。ねぇ、チヌと私の二人で宮殿内を探検しようよ」
「探検……」
暫し、チヌが考え込んでいる……。
「かしこまりました。では、構図を書いてもらい、情報を集めて参ります。今宵は、ゆっくりお休み下さい」
「やった! 楽しみ〜」
思わずチヌに抱き付くと、チヌは嬉しそうに頷き、張りきって部屋を出ていった。
部屋に入るとすぐに、祝宴の間ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「派手なおばさん……。あ〜、ヘビン様のことですか?」
私の着替えを手伝いながら、チヌがあっさりと応える。
「すっごい嫌な感じだったんだけど」
「あの方が、国王の第二夫人でございます」
「うっそーっ! じゃあ、私は、あのおばさんの次ってこと? なんか、メチャクチャ屈辱なんだけどっ」
激しい衝撃を受け、下着のまま叫んでいた。
「順番など関係ありません」
三番目の私を慰めてくれているのか? それとも、別の意味があるのか……。チヌが、きっぱりと言い切っている。
(あれっ、だけど、なんでこんなにムキになってんの! 別に、あの国王の一番になりたい訳じゃないし……。国王の一番……。そっか、一番が居るんだ。正妻が!)
「じゃあ、第一夫人はどこに座ってたの?」
薄いオレンジ色の衣装を羽織りながら、興味津々にチヌの顔を覗き込む。
「王妃様は、三年ほど前から床に伏せていると、女官から聞いております」
(床に伏せるって……、病気ってこと?)
「どんな、病いなの?」
「それが、原因不明だとか……。ご懐妊も難しいらしく、お世継ぎはヘビン様かヨナお嬢様のご子息ということになると申しておりました」
「えっ、私の息子? 私の息子が国王に!」
(それって……、それって……、最高かもしれない!)
思わず、笑いがこみ上げてくる。
(あっ、でも、その息子って……。あの国王との子供ってことだよね? ということは、あの国王と、あんなことやらこんなことやら……)
「うわっ、無理、無理! 絶対に無理‼︎ 国王の息子なんて、絶対にいらない!」
「ヨナお嬢様!」
チヌがまわりを気にしながら、またまた私を叱る。そこから、チヌの小言が始まった。
「祝宴の間も、ひやひやしておりました。王様の目の前に手を延ばすなんて……、きっと母上もお嘆きになっております。お食事は、王様の後からなさるものです。それに……」
次から次へと出てくるクレームを、淡々と着替えながら聞き流す。
チヌ……。母親のような、姉のような、友達のような、不思議な存在だ。いろいろとうるさいけれど、嫌いではない。むしろ、好きな方だ。
熱が入っていく様子を眺めながら、チヌへの信頼が深まっていることを実感していた。
それにしても、気になるのは第一夫人、王妃のことだ。いったい、なんの病気なんだろう? 子供を産めないってことは、王妃の座は、男の子を産んだ人のものってこと? 私にも、王妃になる可能性があるっていうこと?
(あの第二夫人か、私か……。この勝負、面白いかもしれない)
見知らぬ世界に居る私の中に、意味不明な野望が芽生えていた。
あっ、でも、ダメだ! どうしても、あの国王だけは受け入れられない。その時だけ、なんとか耐えられるだろうか……。権力か、それとも愛か。揺れるなぁ。
(とにかく、まずは、王妃や第二夫人についていろいろ調べなきゃ!)
「ねぇ、チヌ! 今から、宮殿の中をいろいろ見てみたいんだけど」
チヌの小言が止まった。
「もう、遅うございます」
確かに……。さすがに、無理な願いだ。
「そうですね〜、明日は特にご予定も入っておりませんので、女官に案内させましょうか?」
「ほんと! でも、女官はもういいよ、ぞろぞろ歩くの面倒くさいし……。ねぇ、チヌと私の二人で宮殿内を探検しようよ」
「探検……」
暫し、チヌが考え込んでいる……。
「かしこまりました。では、構図を書いてもらい、情報を集めて参ります。今宵は、ゆっくりお休み下さい」
「やった! 楽しみ〜」
思わずチヌに抱き付くと、チヌは嬉しそうに頷き、張りきって部屋を出ていった。