彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
結局、中央にある庭園まで戻ってきた。
それにしても、王宮は広い。敷地面積は、いったいどのくらいあるのだろうか?
改めて、360度ぐるりと見渡してみる……。
(これって……、もう芸術じゃない!)
抜けるような青い空と連なる緑の山々が絶妙なバランスの背景画となり、塀の外と中の景色が一体となっている。なんとも、ダイナミックに演出された庭園だ。
(素晴らしい! この景色と一緒に暮らしたい!!)
その眺めに圧倒されていると、渡り廊下を歩く不自然な国王の姿が目に入った。
いつもなら、護衛や兵士をゾロゾロと引き連れているのに、今日は一人だ。大事そうに、綺麗な箱を抱えている。
(怪しい。怪しさ満載だ! 何か、とても気になる……)
私は、身を低くして、国王を追った。
「ヨナお嬢様!」
小声で引き留めながら、チヌもあとに続いている。
いったい、どこに行くのだろう?
国王の表情は、今まで見たことがないほど明るい。
入り組んだ宮殿の中を小走りで抜けていくと、急に視界が開けた。
(うそっ!)
そこには、まるで西洋のような庭園が広がっていた。宮殿中央の庭園よりはこじんまりしているが、可憐なピンク色の花が咲き乱れるなんとも美しい庭園だ。
その先に、建物が見えた。朱色を基調とした、格調高い宮殿だ。
南殿とよく似ているが、少し高級感があるような気もする……。
入り口の前で、国王が振り返った。
「やばっ」
とっさに、チヌと二人で木の陰に隠れる。こちらの行動も、充分怪し過ぎる。
国王は警戒するように辺りを見渡してから、その建物の中へと入っていった。
「なんだろう? ここは、誰の住居なの?」
背後で唖然としているチヌに問いかけると、再びあの半紙を広げて確認し始めた。
「こちらは……、離れのようです。おそらく、王妃様の御寝所かと」
負けた! と思った。
建物的にはそれほど大差ないが、なんと言っても専用の庭付きだ。
「ふ〜ん……。国王は、王妃のことが好きなんだ」
すぐに理解した。
「王妃は、国王が決めた方ですから」
チヌは、知っていたようだ。
「じゃあ、第二、第三は、義務的な結婚だったってこと?」
本命が居ることに、ちょっとホッとする。
「何をおっしゃいます! 王様は、ヨナお嬢様にお心を寄せておられます」
「えっ、別に、気に入って欲しくはないんだけど」
「婚儀にも、南殿にも、王様のお心が溢れております。だいたい、私をヨナお嬢様のお側に置いて下さっていることが何よりの証拠です!」
「はぁ〜」
だから、思われてない方が嬉しいのに……。
どこまでも噛み合わない会話をしている最中、衝撃的なものが目に飛び込んできた。
「えっ、あれっ、あそこに居るのは……」
なんと、第二夫人が、私達とは反対側の木陰に身を潜めている。
チヌも同じタイミングで気付いたらしく、目をパチクリさせている。
ここより、より住居に近い。おそらくは、部屋の会話も聞こえるような位置だ。中の様子が気になって仕方ないのだろう。
その姿は、もう嫉妬と憎悪の塊だ。
第二夫人は、国王が好きなんだと悟った。
なんだか哀れな人だ。チヌも、同じようなことを感じているようだ。
この国王、外見は部長似でキモいけれど、意外にモテるのかもしれない。私的には無理だけど。
そうこうしているうちにまた戸が開かれ、国王が後ろを気にしながら出てきた。
女に見送られている。
あれが王妃なのか? まるで幽霊のように蒼白い顔だが、美人なのは分かる。先程国王が持っていた箱を、嬉しそうに抱えている。
あれは、国王から王妃へのプレゼントだったのだろう。
そのまま第二夫人の方へ視線を移すと、化粧が崩れる勢いで泣いていた。
(えっ、そんなに、好きなの!)
この究極の時を一緒に過ごしたチヌとは、ますます結束が固くなり……。国王と王妃と第二夫人、この三人の関係を私はしっかりと把握した。
それにしても、王宮は広い。敷地面積は、いったいどのくらいあるのだろうか?
改めて、360度ぐるりと見渡してみる……。
(これって……、もう芸術じゃない!)
抜けるような青い空と連なる緑の山々が絶妙なバランスの背景画となり、塀の外と中の景色が一体となっている。なんとも、ダイナミックに演出された庭園だ。
(素晴らしい! この景色と一緒に暮らしたい!!)
その眺めに圧倒されていると、渡り廊下を歩く不自然な国王の姿が目に入った。
いつもなら、護衛や兵士をゾロゾロと引き連れているのに、今日は一人だ。大事そうに、綺麗な箱を抱えている。
(怪しい。怪しさ満載だ! 何か、とても気になる……)
私は、身を低くして、国王を追った。
「ヨナお嬢様!」
小声で引き留めながら、チヌもあとに続いている。
いったい、どこに行くのだろう?
国王の表情は、今まで見たことがないほど明るい。
入り組んだ宮殿の中を小走りで抜けていくと、急に視界が開けた。
(うそっ!)
そこには、まるで西洋のような庭園が広がっていた。宮殿中央の庭園よりはこじんまりしているが、可憐なピンク色の花が咲き乱れるなんとも美しい庭園だ。
その先に、建物が見えた。朱色を基調とした、格調高い宮殿だ。
南殿とよく似ているが、少し高級感があるような気もする……。
入り口の前で、国王が振り返った。
「やばっ」
とっさに、チヌと二人で木の陰に隠れる。こちらの行動も、充分怪し過ぎる。
国王は警戒するように辺りを見渡してから、その建物の中へと入っていった。
「なんだろう? ここは、誰の住居なの?」
背後で唖然としているチヌに問いかけると、再びあの半紙を広げて確認し始めた。
「こちらは……、離れのようです。おそらく、王妃様の御寝所かと」
負けた! と思った。
建物的にはそれほど大差ないが、なんと言っても専用の庭付きだ。
「ふ〜ん……。国王は、王妃のことが好きなんだ」
すぐに理解した。
「王妃は、国王が決めた方ですから」
チヌは、知っていたようだ。
「じゃあ、第二、第三は、義務的な結婚だったってこと?」
本命が居ることに、ちょっとホッとする。
「何をおっしゃいます! 王様は、ヨナお嬢様にお心を寄せておられます」
「えっ、別に、気に入って欲しくはないんだけど」
「婚儀にも、南殿にも、王様のお心が溢れております。だいたい、私をヨナお嬢様のお側に置いて下さっていることが何よりの証拠です!」
「はぁ〜」
だから、思われてない方が嬉しいのに……。
どこまでも噛み合わない会話をしている最中、衝撃的なものが目に飛び込んできた。
「えっ、あれっ、あそこに居るのは……」
なんと、第二夫人が、私達とは反対側の木陰に身を潜めている。
チヌも同じタイミングで気付いたらしく、目をパチクリさせている。
ここより、より住居に近い。おそらくは、部屋の会話も聞こえるような位置だ。中の様子が気になって仕方ないのだろう。
その姿は、もう嫉妬と憎悪の塊だ。
第二夫人は、国王が好きなんだと悟った。
なんだか哀れな人だ。チヌも、同じようなことを感じているようだ。
この国王、外見は部長似でキモいけれど、意外にモテるのかもしれない。私的には無理だけど。
そうこうしているうちにまた戸が開かれ、国王が後ろを気にしながら出てきた。
女に見送られている。
あれが王妃なのか? まるで幽霊のように蒼白い顔だが、美人なのは分かる。先程国王が持っていた箱を、嬉しそうに抱えている。
あれは、国王から王妃へのプレゼントだったのだろう。
そのまま第二夫人の方へ視線を移すと、化粧が崩れる勢いで泣いていた。
(えっ、そんなに、好きなの!)
この究極の時を一緒に過ごしたチヌとは、ますます結束が固くなり……。国王と王妃と第二夫人、この三人の関係を私はしっかりと把握した。