彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
いつもの川原に出ると、コウは宮殿とは反対の方に向かって歩きだした。
「あの山を越えれば隣り町よ」
コウが、かなり先にある山を指差している。
「えっ、あの山を越えるの?」
驚く私を見て、コウがケラケラと笑いだした。
「そんなに驚くこと?」
何も分からない私に、もう呆れてしまったようだ。
人に笑われることは嫌いだった。バカにされているような気がして、悲しかった。
でも、コウに笑われても平気な自分が居る。いったい、どちらの自分が本当なんだろう?
そんなことを考えながらひたすら歩いていくと、いつもゆったりと流れていた川の幅が徐々に狭くなっていき、川底の石がはっきりと見えるほど透明度が増してきた……。
「いつもの近道で参りましょ」
そう言うと、コウはいきなり川原沿いの道を反れ山道に入った。草むらに隠れていて、普通に歩いていたらとても気付けないような獣道だ。
ゴツゴツした石を踏みしめながら、サバイバル感覚で這い上がっていく……。
暫く歩いていると、いきなり視界が開けた。
(わぁ〜っ……)
絵に描いたような幻想的な世界だ。
天にも昇るような勢いの竹林が、見渡す限りどこまでも広がっている。
まるでスポットライトにでも照らされているかのように木洩れ陽が差し込み、緑色に光る風が吹き抜けている。
「あ〜、気持ちいい〜」
コウが、両手をいっばいに広げて深呼吸をしている。
「ほんと、気持ちいい〜」
私もコウを真似て、大きく息を吸い込んだ。
(懐かしい香りだ。思い出の中にあるような、夢で見たことがあるような……)
私は、この場所を知っているような気がした。
「あっ、町が見えてきたわよ」
「えっ、ほんと?」
意外に近くて驚いた。さすが、近道だ。遥か遠くにあると思っていた町に、あっという間に辿り付いていた。
すぐに、多くの人で賑わいを見せる繁華街のような市場が見えてきた。宮殿の近くにある市場より圧倒的に店の数が多く、規模も大きい。
人混みを掻き分けながら、ひたすらコウのあとに付いていく。
「まずは、用を終わらせましょ」
中央あたりまで来ると、コウは上質な生地が並ぶ店の中へと入っていった。
店主は、人の良さそうな熟年夫婦だ。私達を知っているらしく、顔を見るなり三つの美しい絹の袋を差しだした。
戸惑う私を気遣い、コウが受け取ってくれる。
「おや、スヨン。顔色が冴えないね」
「えっ」
奥さんの方に親しげに話し掛けられ、言葉に詰まってしまった。
「スヨンは、ここのところ少し元気がないの。でも、今日ここに来たからきっと大丈夫よ」
コウが、いつも通りを演じてくれる。
熟年夫婦とコウの会話を聞きながら、この絹の袋は王妃達へ贈る安産祈願のお札をいれる袋だということを理解した。
「スヨン、無理するんじゃないよ」
店主が、黙って待っていた私を心配している。
「ほんと、頑張り過ぎは体に毒だからね。これでも舐めて元気だすんだよ」
帰り際、奥さんが飴玉を紙に包んで持たせてくれた。家族のようにあたたかい人達だ。
「あの山を越えれば隣り町よ」
コウが、かなり先にある山を指差している。
「えっ、あの山を越えるの?」
驚く私を見て、コウがケラケラと笑いだした。
「そんなに驚くこと?」
何も分からない私に、もう呆れてしまったようだ。
人に笑われることは嫌いだった。バカにされているような気がして、悲しかった。
でも、コウに笑われても平気な自分が居る。いったい、どちらの自分が本当なんだろう?
そんなことを考えながらひたすら歩いていくと、いつもゆったりと流れていた川の幅が徐々に狭くなっていき、川底の石がはっきりと見えるほど透明度が増してきた……。
「いつもの近道で参りましょ」
そう言うと、コウはいきなり川原沿いの道を反れ山道に入った。草むらに隠れていて、普通に歩いていたらとても気付けないような獣道だ。
ゴツゴツした石を踏みしめながら、サバイバル感覚で這い上がっていく……。
暫く歩いていると、いきなり視界が開けた。
(わぁ〜っ……)
絵に描いたような幻想的な世界だ。
天にも昇るような勢いの竹林が、見渡す限りどこまでも広がっている。
まるでスポットライトにでも照らされているかのように木洩れ陽が差し込み、緑色に光る風が吹き抜けている。
「あ〜、気持ちいい〜」
コウが、両手をいっばいに広げて深呼吸をしている。
「ほんと、気持ちいい〜」
私もコウを真似て、大きく息を吸い込んだ。
(懐かしい香りだ。思い出の中にあるような、夢で見たことがあるような……)
私は、この場所を知っているような気がした。
「あっ、町が見えてきたわよ」
「えっ、ほんと?」
意外に近くて驚いた。さすが、近道だ。遥か遠くにあると思っていた町に、あっという間に辿り付いていた。
すぐに、多くの人で賑わいを見せる繁華街のような市場が見えてきた。宮殿の近くにある市場より圧倒的に店の数が多く、規模も大きい。
人混みを掻き分けながら、ひたすらコウのあとに付いていく。
「まずは、用を終わらせましょ」
中央あたりまで来ると、コウは上質な生地が並ぶ店の中へと入っていった。
店主は、人の良さそうな熟年夫婦だ。私達を知っているらしく、顔を見るなり三つの美しい絹の袋を差しだした。
戸惑う私を気遣い、コウが受け取ってくれる。
「おや、スヨン。顔色が冴えないね」
「えっ」
奥さんの方に親しげに話し掛けられ、言葉に詰まってしまった。
「スヨンは、ここのところ少し元気がないの。でも、今日ここに来たからきっと大丈夫よ」
コウが、いつも通りを演じてくれる。
熟年夫婦とコウの会話を聞きながら、この絹の袋は王妃達へ贈る安産祈願のお札をいれる袋だということを理解した。
「スヨン、無理するんじゃないよ」
店主が、黙って待っていた私を心配している。
「ほんと、頑張り過ぎは体に毒だからね。これでも舐めて元気だすんだよ」
帰り際、奥さんが飴玉を紙に包んで持たせてくれた。家族のようにあたたかい人達だ。