彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
下りてきた山道を、今度はゆっくりと上っていく……。
燦々と射し込んでいた木洩れ陽も先程よりはだいぶ弱まり、幻想的に見えていた竹林はまた別の素朴な風景を見せていた。
「スヨン、 何か思いだせた?」
隣りを歩いているコウが、期待するような眼差しで私の顔を覗き込む。
「あっ……、うん」
この世界に来てから、いつでも傍に居て仲良くしてくれるコウ。ずっと親身になって考えてくれるコウに、私は本当のことを話さなければいけないと思った。
「あっ、あの、コウに言わなければいけないことがあるの」
そのまま足を止めずに、話し始めた。
「言わなければいけないこと?」
コウも、私の速度に合わせながら、更に覗き込んでくる。
「あの……、実は私……。私、未来から来た人間なの」
「未来から?」
(あれっ、未来って分からないの? 未来って、なんて言えば通じるの……。あっ、そうだ!)
「あの、だから、先の世から来た人間なの」
「先の世って、そんなっ……」
驚いたように叫び、コウが足を止める。
「先の世から来た人間? だって、スヨンはずっと私と一緒に居たのよ」
言葉は通じたようだが、やはり、信じてはもらえないようだ。
だいたい元の世界が現世だとしたら、この世界で生きているコウはいったいどういう存在になってしまうのだろう?
この世界は、実際、普通に動いている訳だし、この世界に居る人たちは普通に生きている……。
その時、竹林の奥の方から、何者かが走り寄ってくるような音が聞こえてきた。
ひどく慌てながら近付いてくる人影が、少しずつハッキリと見えてくる。
巫女の装束を着ている。あれは、古典教師似の副代表だ!
こちらには、まだ気付いていない。
とっさに、コウと二人で大きな岩の影に隠れた。
目を合わせ、息を潜めながら様子を伺う。
副代表は山道に出ると、身なりを整えながら足早に去っていった。
(不自然過ぎる。何かあるに違いない!)
コウも、同じことを感じているようだ。
私達は、副代表が走ってきた方向を覗き込んだ。
少し先に、小屋のようなものが見える。
「なんでしょう?」
コウが持っていた荷物を袖に仕舞い込み、ジワジワと近付いていく。
私も、乾いた草を避けながら恐る恐るあとから付いていった。
物置にでも使っていたのだろうか? 人の気配はない、とても古びた小屋だ。
(えっ!)
コウが、入り口の扉に手を掛けた。勇気があるのか、無謀な人間なのか、躊躇することなく扉を開けて中の様子を伺っている。
すぐに、コウの顔から血の気が引いていくのが分かった。
「大丈夫?」
私も、部屋の中を覗いてみた。
正面の壁一面に、赤い札が貼り付けてある。まだ見たことのない、よく分からない文字だ。
「ス、スヨン! 離れましょ‼︎」
私の手を取り、コウが小屋に背を向けて走りだす。
引きずられるように走りながら、私はふとコウが袖にしまい込んでいた荷物が気になった。
「待って‼︎ コウ! 荷物、全部持ってる?」
コウが、慌てて袖の中を探る。
「あれ、札入れが一つ足りないわ」
同時に振り返って、今走ってきたあとを眺めた。
(あっ!)
小屋の入り口に、それらしきものが落ちている。コウは、恐怖で震えが止まらないようだ。
「ちょっと待ってて」
私は、再び小屋まで走った。
「あった」
急いでそれを拾い、開けっ放しの小屋の扉もきちんと閉めた。
状況が呑み込めないことが幸いし、証拠を残してはいけないと冷静に判断できたからだ。
そうしてまたすぐに走りだし、コウと手を繋いで竹林を駆け抜けた。
燦々と射し込んでいた木洩れ陽も先程よりはだいぶ弱まり、幻想的に見えていた竹林はまた別の素朴な風景を見せていた。
「スヨン、 何か思いだせた?」
隣りを歩いているコウが、期待するような眼差しで私の顔を覗き込む。
「あっ……、うん」
この世界に来てから、いつでも傍に居て仲良くしてくれるコウ。ずっと親身になって考えてくれるコウに、私は本当のことを話さなければいけないと思った。
「あっ、あの、コウに言わなければいけないことがあるの」
そのまま足を止めずに、話し始めた。
「言わなければいけないこと?」
コウも、私の速度に合わせながら、更に覗き込んでくる。
「あの……、実は私……。私、未来から来た人間なの」
「未来から?」
(あれっ、未来って分からないの? 未来って、なんて言えば通じるの……。あっ、そうだ!)
「あの、だから、先の世から来た人間なの」
「先の世って、そんなっ……」
驚いたように叫び、コウが足を止める。
「先の世から来た人間? だって、スヨンはずっと私と一緒に居たのよ」
言葉は通じたようだが、やはり、信じてはもらえないようだ。
だいたい元の世界が現世だとしたら、この世界で生きているコウはいったいどういう存在になってしまうのだろう?
この世界は、実際、普通に動いている訳だし、この世界に居る人たちは普通に生きている……。
その時、竹林の奥の方から、何者かが走り寄ってくるような音が聞こえてきた。
ひどく慌てながら近付いてくる人影が、少しずつハッキリと見えてくる。
巫女の装束を着ている。あれは、古典教師似の副代表だ!
こちらには、まだ気付いていない。
とっさに、コウと二人で大きな岩の影に隠れた。
目を合わせ、息を潜めながら様子を伺う。
副代表は山道に出ると、身なりを整えながら足早に去っていった。
(不自然過ぎる。何かあるに違いない!)
コウも、同じことを感じているようだ。
私達は、副代表が走ってきた方向を覗き込んだ。
少し先に、小屋のようなものが見える。
「なんでしょう?」
コウが持っていた荷物を袖に仕舞い込み、ジワジワと近付いていく。
私も、乾いた草を避けながら恐る恐るあとから付いていった。
物置にでも使っていたのだろうか? 人の気配はない、とても古びた小屋だ。
(えっ!)
コウが、入り口の扉に手を掛けた。勇気があるのか、無謀な人間なのか、躊躇することなく扉を開けて中の様子を伺っている。
すぐに、コウの顔から血の気が引いていくのが分かった。
「大丈夫?」
私も、部屋の中を覗いてみた。
正面の壁一面に、赤い札が貼り付けてある。まだ見たことのない、よく分からない文字だ。
「ス、スヨン! 離れましょ‼︎」
私の手を取り、コウが小屋に背を向けて走りだす。
引きずられるように走りながら、私はふとコウが袖にしまい込んでいた荷物が気になった。
「待って‼︎ コウ! 荷物、全部持ってる?」
コウが、慌てて袖の中を探る。
「あれ、札入れが一つ足りないわ」
同時に振り返って、今走ってきたあとを眺めた。
(あっ!)
小屋の入り口に、それらしきものが落ちている。コウは、恐怖で震えが止まらないようだ。
「ちょっと待ってて」
私は、再び小屋まで走った。
「あった」
急いでそれを拾い、開けっ放しの小屋の扉もきちんと閉めた。
状況が呑み込めないことが幸いし、証拠を残してはいけないと冷静に判断できたからだ。
そうしてまたすぐに走りだし、コウと手を繋いで竹林を駆け抜けた。