彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜

世奈side

 竹林にある呪いの小屋については、今のところコウと私二人だけの秘密にしてある。

 マヤ様に話そうか、仲間に相談しようか、さんざん悩んだけれど……。副代表の策略ということは、最早、誰が敵で誰が味方なのか見分けることもできない。

 副代表は、何故、王妃を呪っているのか? 王室とは、どういう関係なのか? 私達の力で、その答えに辿り着くことはできそうにないけれど……。
 私達があの小屋を目撃したという事実だけは、人に知られてはいけないような気がしていた。

 私と美咲さんが未来から来た人間だということについては、コウはまだ納得していない。
 それを認めてしまうと、スヨンという私が消えてしまうのではないかというのが、コウの本当の気持ちらしい。
 だから、私はもうそれ以上は話していない……。

「スヨン、そろそろ行きましょ」

 今日は格別にお洒落をしたコウが、鏡に映り込んできた。淡いピンク色の衣裳に、白い蝶のような髪飾りを着けている。

「コウ、可愛い〜」

 鏡の中から見つめると、コウは顔を赤らめながら、
「あっ、そのかんざし!」と、私の髪飾りに大きく反応した。

 コウにだけは教えた。
 このかんざしは、ジュンユン様から頂いたものだと……。

 巫女は神に仕える者。だから、世の男性との恋愛は禁じられている。けれども、

「巫女だって、人を想う気持ちは自由よ!」

 コウはそう言って、私の心を自由にしてくれた。

「変じゃない?」

 自信のない私に、

「うん、凄く似合ってる」
 
 太鼓判を押してくれる。

「とにかく、今日はいつも通りの振る舞いをしましょう」

 私達の秘密がバレないようにと、コウが念を押してきた。

「うん、分かった」

 大きく頷いて、二人で部屋を出る……。

 巫女達のハイテンションな声で賑わう礼拝堂。

「綺麗だわ!」「良い色ね〜」「とても似合っているわ」

 装束ではなく、それぞれ好みの衣裳を身に付け、いつになくみんなは浮かれている。

「あら、スヨンの髪飾り素敵ね」「ほんと、輝きが違うわ」

 そこに居る、誰のものより一際目立つ髪飾り。みんなが、私のかんざしに注目している。
 コウが、「ほらね!」と私に目で合図をする。

 私のことなのに、自分のことのように喜んでくれるコウは本当に優しい人だ。
 元の世界にもこんな友達が居たら、私の人生は違っていただろう……。

 心を弾ませ、巫女達が礼拝堂をあとにする。
 マヤ様と副代表を先頭に、河原沿いの砂利道を幸せそうに歩いていく。

 正直、コウと私は複雑だった。
 副代表が、巫女の列を気にして振り返るだけで、恐怖に襲われる……。
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