彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
 宮殿の立派な門は、今日は開放されていた。

 籠が次々に到着し、綺麗に着飾った夫人達が続々と宮殿の中へと入っていく……。
 私達もあとに続くように、宮殿の門を潜った。
 
(嘘……)

 迫力ある華やかな景色に、暫し立ち尽くす……。

 まるで絵画のような庭園だ。
 塀を埋め尽くすツツジのようなピンク色の花が満開を迎え、黄色や紫色の花があちらこちらで咲き誇っている。向こうに見える山々の草木もそれぞれが花を着け、色鮮やかな背景と庭園のコンビネーションは自然が織り成す芸術作品だ。

 この行事は、お花見と豪華ママ友ランチが融合されたようなものなのだろうと思った。
 無理のあるブランドのバッグや洋服を身に付け、夫の地位や子供の学歴を自慢し合う傲慢な母親達によく似ている。

 しっとりとした琴の音色が響き渡ると、庭園がうっとりとした空気に包まれた。
 
(美咲さんだ!)

 眩いほどに輝くレモン色の衣裳を纏った美咲さんが、庭園に下りてくる。本当に、天女が舞い降りてきたとしか思えない美しさだ。

 もし、この世界が美咲さんにとっても前世だとしたら、歴史に残る美女だったのではないかと思う。

「ヨナ様、お美しい〜」「素敵だわ〜」

 夫人達も、見惚れている。

 別の方向から、赤い衣裳を着た第二夫人も下りてきた。美咲さんよりも、かなり年上だ。

 こちらの妃も整った顔ではあるが、とてもきつい表情をしている。
 お付きの人に連れられて、三つ並んだ妃の椅子の右端にゆっくりと腰を下ろした。

 注目の的になっている美咲さんも、いつも一緒に居る使用人に連れられて、第二夫人とは反対側の席に優雅に座る。
 
(あっ……、真ん中の席だけが空いている……。きっと、王妃の席だ!)

 脳裏にあの札がよぎった。おそらく、あの札のせいで出席できないのだろう……。

 呪いの事実を知りながら黙っている私は、卑怯な人間だ。けれども、今の私にはどうすることもできない。

 ふと、気付くと美咲さんと目が合った。こんな大勢の中から、私を探してくれていたみたいだ。
 
(嬉しい!)

 美咲さんも、微笑んでくれている。

 第二夫人が女官に声を掛けると、使用人達が一斉にお茶を注ぎ始めた。

 お膳の上には、綺麗なお菓子が並べられている。

「これ、美味しい!」

 コウが、まんじゅうのようなものを嬉しそうに頬張っている。私も同じものを食べてみた。
 
(えっ、まずい……)

 ほぼ、味のない小麦粉のかたまりだ。
 チョコ系のものが無性に食べたくなってきた。ポテトチップスも袋ごといきたい。

(あーっ、ハンバーグや焼肉が食べたい!)

 今更だけれど、美味しいものを食べられることを幸せだと思えていなかった自分が腹立たしく思える。

「これも美味しい!」

 コウは、次のお菓子に手を付けている。
 
(コウにも食べさせてあげたい! チョコやアイスを食べたら、コウはどうなっちゃうんだろう? コンビニやファミレスに一緒に行けたら、楽しいだろうな……)

「どうしたの? スヨン、食欲ないの?」

「ううん。あっ、これ美味しい」

 無理のある笑顔で、私はそのまんじゅうを飲み込んだ。
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