彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
「マヤ様! マヤ様、教えて下さい!」

 マヤ様は、部屋の奥にある机に座って書物を読んでいる。
 そのままの勢いで、駆け寄っていく。

「読書中、申し訳ありません。どうか、教えて下さい! 魂を成仏させるにはどうすれば良いのですか?」

 マヤ様は開いていた書物を閉じながら、ゆっくりと私を見上げた。

「どういうことだ?」

「あの、あの、あそこの川原で霊に会って……」

 川原に居た少女の幽霊について、全てを話した。

「自ら命を堕とした者を、成仏させることはできぬ」

 話し終わるのと同時に、答えを突き返された。
 
(嘘……)

 私にとっても、現実を突き付けられたような厳しい言葉だ。

 成仏させることはできない……。ということは、あの少女を救ってあげることはできないの? でも、どうしたらいいの? 私を待ってるのに……。

「命があるゆえ、人は変われるのだということに己が気付くまでは、苦しみから逃れることはできぬだろう」

 命があるから、人は変われる……。

 苦しみを抱えたまま死んでしまったら、ずっと苦しいままだというの?

「もしも、命の(まこと)に気付けたならば、まずは地獄に行くことになるだろう。地獄で、更に苦しみを学習して、再生の時を待つのだ」

 あんなに長い間苦しんでるのに、まだ苦しまなきゃいけないの?

「人は変わらなければ、同じ人生の繰り返しだ。何度も、同じ苦しみを味わうことになる」
 
(そんなぁ……)

 自分の人生が蘇った。

 私も自殺してしまったから、もう変われない……。この先、地獄に堕ちて、地獄で苦しみ抜いたあとに再び生まれ変わることができたとしても、あんなに頑張った人生をまた始めからやり直さなきゃいけないの?

「その事を話してやるが良い。罪を悔いて、地獄に行く覚悟ができたなら、伝わるかもしれぬ」

 地獄に行く覚悟なんて……。でも、あの少女は、別の場所に送って欲しいと言っていた。あの場所はもう嫌だと……。

「分かりました! 話してみます! ありがとうございました!」

 深々と頭を下げてから部屋を出ようとすると、「スヨン」と呼び止められマヤ様が近付いてきた。

「何かあった時には、これを使うように」

 そう言いながら、私の手首に赤い数珠を掛けた。何かパワーのようなものを感じる……。

「では、行ってきます!」と会釈をし、少女の元へと急ぐ。
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