彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
 赤と黒の衣装を着た、兵士達が見えてきた……。

 先頭を歩かされているのは、首謀者とされているホン一族の長、ジュンユン様の父上だ。
 縄で縛られた粗末な白い服に、血が滲んでいる。

「なんということを……」
「ホン様、無念でございます!」
「ご恩は……、決して忘れません!」

 すすり泣く民達の言葉は、感謝で溢れている。
 呪術の威力は、民にまでは届いていなかったようだ。

 それにしても、とても罪人とは思えない穏やかで立派な顔立ちだ。動じることなく、堂々と、その姿は誇りに満ち溢れている。
 それどころか、嘆く民達に満足そうな笑みまで向けている。
 
(どうして……)

 その潔さに、心を打たれた。

 衝撃なのか、感動なのか、なんとも言えない感情が湧き起こってくる。

 続いて歩いてくるのは、ホン家の護衛達だ。同じように、粗末な白い服を縄で縛られいる。

 不思議な光景だと思った……。

 誰も動揺することなく、凛々しいとすら思える姿で歩いている。
 潔白を証明する為、正義を貫こうとしているのか……。最後までホン家に尽くせることが喜ばしいという表情で、誰もが微笑み合っている。
 
(どうして! どうして、そんな立派な姿でいられるの!!)

 けれども、次の瞬間、私はもう普通を装うことができなくなってしまった。

 次を歩いているのは、ジュンユン様だ。同じように縛られ、両腕を兵士達に捕らえられている。
 あの笑顔も、自由な身体も、容赦なく奪われている。あと、数時間後には、この人の全てが消えてしまうんだ。
 
(嫌ーーっ!)

 もう、居ても立ってもいられない。
 
(ジュンユン様は、罪なんて犯していない! 呪術を掛けられているだけ、この人達はみんな無罪だ!)

 思わず、走り出していた。
 
(もう、どうなってもいい! とにかく、あの縄を解いてジュンユン様を救いたい!!)

「スヨン!」

 コウが、素早く私の身体を抱えて引き留めた。

「今、出ていったら、斬られて終わりよ!」

(終わり……。そんなのダメだ! こんなことでは終われない。私には、まだやるべきことがある! 呪いを解いて、美咲さんを元の世界に返さなければいけないんだ!)

「ジュンユンさま……」

 身も心も、もう壊れてしまいそうだ。涙が、次から次へと溢れてくる。
 
(あっ……)

 ジュンユン様が、こちらを見た。大勢の声の中から、私に気付いてくれた。

〝大丈夫!〟

 そう言っているように見えた。
 大好きな笑顔で、大きく頷いている。

 凄いと思った。
 こんな状況に置かれながらも、誇りを失わずに全てを受け入れている。
 覚悟の出来ている人間とは、こんなにも気高く、美しいものなのか……。
 
 強くなりたい! 大切な人を守れる力が欲しい! 私の中で、本当のスヨンが目覚めたようだ。
 
(何も、怖くない! 何かを恐れる心は、もういらない!
 私に足りなかったもの……、それは覚悟だ!!)
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