彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
 おそらくはパジャマと思われる薄ピンク色の衣装のまま、部屋を出て、庭園に飛び降りる。

「ちょっとあんた、なんで天国になんて連れてくんのよ! 私が死んだなんて誤解でしょ?」

 キレながら近付いていくと、イケメン天使はフッと笑った。

「安心しろ! 其方は生きておる」

 生きてるなら、ここはどこ?

「ヨナお嬢さまーっ」

 先程寝床に居た、異国の女が追い掛けてくる。

「ここで私は、其方の兄である。もしも、其方がこの世界の者ではないということが知れたら」

(知れたら?)

 イケメン天使が、喉を切るように手を当てた。

「処刑される」

(えっ、処刑って……。首斬られちゃうの?)

「ちょっと、いい加減にしてよ! 勝手に連れてきて……。今日、大事な会議があるんだから、早くなんとかしてよ!」

 護衛が怪訝そうな表情で、二人のやりとりを眺めている。

 そっか、この人の袖に入ればまた元に戻れるかもしれない……。

 断りもせず、ふんわりとした青い袖を被ろうとする。

「ヨナお嬢様、何をなさっているのですか! 兄上に失礼ですよ」

 異国の女に止められた。
 五十過ぎと思われるこの賑やかなおばさんは、どうやら私専属の使用人らしい。

「チヌ、まぁ良いではないか。これからヨナと市場に出掛けてくる」

 イケメン天使が、最もらしい顔で使用人を宥めている。

(このおばさんは、チヌっていうのか……。って、名前なんてどうでもいいし!)

「いけません。明日は大切な婚儀があるのですよ。お静かにお過ごし下さいませ」

「すぐに戻ってくるから許せ」

 イケメン天使とチヌが、私を放置した状態で揉めている。

(婚儀? って、誰かの結婚式?)

「では、お早めにお戻り下さいませ」

 意外にも、チヌは簡単に納得してしまった。
 
(ちょっとーっ、市場なんて行ってる場合じゃないから!!)

 そう訴えたいけれど、この世界の人間ではないことがバレるのはヤバい……。

 なんか、よく分かんないけど、私はヨナとかいうお嬢様で、イケメン天使の妹で……。
 
(あーっ、いったいどういうことなのよ!)

 訳が分からないままチヌに手を引かれ……、
 気が付くと艶やかな水色の民族衣装に着替えさせられていた。

(わぁ〜、私って何着ても似合っちゃう!)

 一瞬にして、衣装に心を奪われた。
 鏡に映る自分が、満足そうに微笑み返している。
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