彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
未来の選択(最終話)
美咲side
腰が抜けているようで、すぐに立ち上がることができない……。
人だかりの中から駅員が現れ、私達は車椅子で駅長事務室に運ばれていた。
放心状態のまま、応接用のソファに世奈と並んで腰を下ろす。
駆けつけた警官三人と、そこに居る五〜六人の駅員に囲まれ、事情聴取のようなものが始まる……。
「私が、飛び込もう……」
世奈がそう言い掛けた時、
「貧血か何か起こして、倒れたみたいです!」
とっさに、そう言っていた。
自分から飛び込もうとしたなんて言ったら、かなり面倒なことになるに違いない。
「あの、美咲さん?」
キョトンとした顔で、世奈が私を見つめている。
私は、知らない振りをした。
本当は、あの世界であった出来事を、世奈と語り合いたい。命懸けで私を守ってくれた世奈に、お礼が言いたい。
けれども、全てを話したら、世奈が自殺をしようとしたという事実を認めてしまうことになる。
だいたい、前世の世界に行ってましたなんて言ったら、今度は救急隊員がやって来て精神病院に運ばれてしまうだろう。
(全く、型にハマった世の中だ!)
私達が入ってきたドアから、血相を変えた中年女性が飛び込んできた。
世奈の母親のようだ。どことなく、巫女のリーダーに似ている。
「世奈!」
「あっ……、ママ!」
そのまま走り寄ってきて、泣くのを堪えながら世奈の肩を抱き締めている。
「こちらが、助けて下さった成瀬美咲さんです」
小太りの警官が、世奈の母親に私を紹介した。
「成瀬、美咲さん……。なんとお礼を言ったら良いのか……。本当に、本当に、ありがとうございました!」
世奈の母親が私の前に跪き、両手を握り締め涙を流している。
冷たい手が震えていた。
連絡があってここまで来る間、生きた心地はしなかっただろう。
そんな様子を横目に見ながら、別の警官二人が、学校に連絡するかどうかで揉め始めている。
(この人達に心はないのか!
マニュアル通りに生きている、本当につまらない人間達だ)
私は、世奈の母親を立たせてから、立ち上がった。
「倒れそうになった子を私が支えただけです! 電車だって普通に動いてるし、別に問題ないんじゃないんですか!」
二人の警官に強気で言ってみると、意外にもそこに居る全員が納得していた。
「成瀬さんがそうおっしゃるなら、こちらとしても特に問題はありません」
そう言って、小太りの警官が感心したように私に笑い掛けている。
(誰だって、死にたくなるくらい辛い時がある!
苦しみから、逃げだしたくなる時がある!
自殺なんて、一瞬の気の迷いだ!
まさに、魔が差してしまったのだろう。
そんなことは忘れて、
そんな過去には囚われずに、
世奈には世奈らしく、これからを生きて欲しい)
「あの、仕事があるんで、もういいですか?」
迷惑そうに警官達に告げると、
「あっ、お時間取らせてしまい申し訳ありません。ご協力、ありがとうございました」
深々と頭を下げて、小太りの警官が私を見送ろうとする。
「あの、連絡先を教えて頂けますか? また、改めて、お礼をさせて頂きたいのです」
母親の言葉に、私は立ち止まった。
本当なら、「お礼なんて……」と断るところなのだろうが、すんなりと携帯番号を教えた。世奈と、繋がっていたいと思ったからだ……。
(これからの世奈を、ずっと見守りたい!)
事務室を出る前にもう一度振り返ると、世奈が私を見つめて泣いていた。
(世奈は、もう大丈夫!
元気でね!)
心で号泣し、私は事務室を出た。
人だかりの中から駅員が現れ、私達は車椅子で駅長事務室に運ばれていた。
放心状態のまま、応接用のソファに世奈と並んで腰を下ろす。
駆けつけた警官三人と、そこに居る五〜六人の駅員に囲まれ、事情聴取のようなものが始まる……。
「私が、飛び込もう……」
世奈がそう言い掛けた時、
「貧血か何か起こして、倒れたみたいです!」
とっさに、そう言っていた。
自分から飛び込もうとしたなんて言ったら、かなり面倒なことになるに違いない。
「あの、美咲さん?」
キョトンとした顔で、世奈が私を見つめている。
私は、知らない振りをした。
本当は、あの世界であった出来事を、世奈と語り合いたい。命懸けで私を守ってくれた世奈に、お礼が言いたい。
けれども、全てを話したら、世奈が自殺をしようとしたという事実を認めてしまうことになる。
だいたい、前世の世界に行ってましたなんて言ったら、今度は救急隊員がやって来て精神病院に運ばれてしまうだろう。
(全く、型にハマった世の中だ!)
私達が入ってきたドアから、血相を変えた中年女性が飛び込んできた。
世奈の母親のようだ。どことなく、巫女のリーダーに似ている。
「世奈!」
「あっ……、ママ!」
そのまま走り寄ってきて、泣くのを堪えながら世奈の肩を抱き締めている。
「こちらが、助けて下さった成瀬美咲さんです」
小太りの警官が、世奈の母親に私を紹介した。
「成瀬、美咲さん……。なんとお礼を言ったら良いのか……。本当に、本当に、ありがとうございました!」
世奈の母親が私の前に跪き、両手を握り締め涙を流している。
冷たい手が震えていた。
連絡があってここまで来る間、生きた心地はしなかっただろう。
そんな様子を横目に見ながら、別の警官二人が、学校に連絡するかどうかで揉め始めている。
(この人達に心はないのか!
マニュアル通りに生きている、本当につまらない人間達だ)
私は、世奈の母親を立たせてから、立ち上がった。
「倒れそうになった子を私が支えただけです! 電車だって普通に動いてるし、別に問題ないんじゃないんですか!」
二人の警官に強気で言ってみると、意外にもそこに居る全員が納得していた。
「成瀬さんがそうおっしゃるなら、こちらとしても特に問題はありません」
そう言って、小太りの警官が感心したように私に笑い掛けている。
(誰だって、死にたくなるくらい辛い時がある!
苦しみから、逃げだしたくなる時がある!
自殺なんて、一瞬の気の迷いだ!
まさに、魔が差してしまったのだろう。
そんなことは忘れて、
そんな過去には囚われずに、
世奈には世奈らしく、これからを生きて欲しい)
「あの、仕事があるんで、もういいですか?」
迷惑そうに警官達に告げると、
「あっ、お時間取らせてしまい申し訳ありません。ご協力、ありがとうございました」
深々と頭を下げて、小太りの警官が私を見送ろうとする。
「あの、連絡先を教えて頂けますか? また、改めて、お礼をさせて頂きたいのです」
母親の言葉に、私は立ち止まった。
本当なら、「お礼なんて……」と断るところなのだろうが、すんなりと携帯番号を教えた。世奈と、繋がっていたいと思ったからだ……。
(これからの世奈を、ずっと見守りたい!)
事務室を出る前にもう一度振り返ると、世奈が私を見つめて泣いていた。
(世奈は、もう大丈夫!
元気でね!)
心で号泣し、私は事務室を出た。