彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
 瓦屋根の外門をくぐり抜けると、屋敷の外ではイケメン天使と護衛が待ち構えていた。二人の向こうには、穏やかな青い空が広がっている。

「ここで、私の妹ヨナを演じていれば、全てうまくゆく」

 そう言って、イケメン天使が歩きだす。

(うまくゆくってことは、元の世界に帰れるってこと?
 なんか、納得できないけど、とにかくバレないようにするしかないのか……)

 そのあとに付いて歩きだすと、護衛も無言で歩きだした。

(えっ!)

 先程は取り乱してしまい気付かなかったが、この護衛もなかなかのイケメンである。
 イケメン天使は、親戚に二人くらい居るような親近感のある顔だが、護衛はドキッとするほど好みのタイプだ。

 思わず見惚れていると、目が合った。
 切れ長の瞳が、私を捉えている。

(ヤバっ! ちょー、イケメンなんですけどーっ!)

 心臓が、ドキドキと鼓動を打ち始める。浮かれ気分で、ジャリッジャリッと小石を踏みしめ、砂利道を歩いていく……。

 やがて視界が開け、透き通った川の流れが見えてきた。川岸には黄色い花が咲き乱れている。

(おっ、長閑(のどか)だね〜)

 川沿いを暫く進んでいくと、野菜や鶏、生地などを売っている店が軒を連ねる賑やかな通りに入った。

(ここが、市場?)

「好みのものを選ぶが良い」

 キラキラした小物がたくさん並べられている店の前で、イケメン天使が振り返った。
 爽やかな笑顔を向けている。

「えっ! 私?」

(髪留め? あっ、かんざしか。へぇ〜、いいじゃーん)

 一番手前に置かれている、赤い大輪の花が飾られたかんざしを手に取る。

「これ素敵!」

「では、それにしよう。あともう一つ、私の想い人にも選んでくれないか」

 想い人? あ〜、彼女ね。こういうの選ぶのは専門だから任せて! この人が好きな女のタイプは……。

 白い小花が散りばめられたかんざしを手に取った。

「これは、どうでしょう?」

 仕事用の自分になっていた。

「良い! 似合いそうだ」

 どうやら、そのかんざしを付けた彼女を想像しているらしい。
 全く、おめでたい男だ!

 護衛は、まわりを警戒しながら私達二人をただ見守っている。
 その振る舞いが、また凛々しい。

(なんてカッコイイの? どうせなら、この人から頂きたかった)

「この後、寄るところがある(ゆえ)、ヨナを頼む」

 店主からかんざしを受け取ると、イケメン天使は護衛に私を委ね……、ニヤリと微笑みながら去っていった。

「えっ! 寄るところって……。自分が連れて来たのに、なんでそんなに勝手なのよーっ!」

 とは、叫んでみたけれど……。

(ということは、この護衛と2人きり?)

 私は、しっかりと状況を把握した。

(ちょっとちょっとイケメン天使、意外に気が効くじゃない!)

 人混みに消えていく青い背中が、少し頼もしく見える。
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