赤を喰らう黒/短編エロティックホラー選❻
その2
その2
その”変化”は、極めて単純明快であった。
ニアミスならぬ時間差ならぬ、ほぼほぼ、大型軽油のペア給油であった”いつもの風景”が、片翼給油に変異した訳なのだから…。
つまりは、赤と黒のドライバーが、”いつもの時間”、一方になったということであった。
で…、どっちが欠けたかのか…?
来なくなったのは、黒の方であった。
黒いポロシャツのドライバー…、従って長い髪を染めた若い女性…。
奥村が最初に赤のドライバーのピン給油を事務所ブース内でモニターチェックしたのは、あの最後のペア給油から厳格には11日後であった。
その間…。
日曜日の夕方に、奥村は赤いポロシャツの男性ドライバーが家族連れで給油に訪れた際、”本人”と声を交わしていたのだ。
「こんにちわ!今日はマイカーですね?」
「ええ、まあね…」
給油中だった彼は、やや照れくさそうな…、見方によってはバツが悪そうともとれるにわか苦笑を浮かべながら、”なじみの店員”に、トータルの表情では愛想よく挨拶を返してきた。
で…、奥さんらしき女性は、車の中…、助手席で腕を組んで佇んで?…、いたが、奥山の会釈に気づくと、にっこり笑ってウィンドウを下げた。
「それ、嫁さんっすよ」
男性ドライバーは自らの口で、”いつもの給油”を見届けているスタンドの店員としての奥村へそう告げた。
それを受けた奥村は咄嗟の判断で、助手席のウィンドウ越しに夫人へも挨拶を申し出た。
「奥様、本日はご来店、ありがとうございますね。ご主人にはいつもお世話になってます!」
「こちらこそ、主人がいつも…」
会話はこれだけであった。
だが、後から思い返せば、男性ドライバーとは目と目で何やらボールの投げ合いをしていたと…。
加えて、夫人ともや意味ありげな目線の交わし合いをした気がした。
ちなみに…、その奥さんは髪の毛が長く、背格好もぱっと見、赤いポロシャツの女性ドライバーに似ていた…。
無論、年は奥さんの方がどう見ても上であったが…。
要するに、このスタンドのレーン上で女性ドライバーに抱き着かれていた彼は、既婚者だったと…。
そのことを、あくまで当該スタンドの従業員として、奥山は消化した一コマとなったという意味合いがあったのだ。
***
その4日後のこと…・
この日も23時までの夜番シフトだった奥山は、21時半ちょっと前に、例の大型トレーラーの給油許可の解除作業を行った。
いつも通り、黒のポロシャツ姿で3番レーンでのダブルノズル給油であった。
しかし…、給油が始まっても、いつも後続する大型ダンプは入って来なかった。
”あれ?今日は赤い服の女性ドライバーは来ないのかな…”
奥山は監視モニターの3番4番レーンの画面分割部に目線を置きながら、胸の中でそう呟いていたのだが…。
よく見ると、3番レーンと4番レーンの隣接付近にわずかながらノイズが発生しているのに気づいた。
”なんだ?通信障害かな?”
そのノイズは数秒で消え、また数秒おいて発生し、それが3度ほど繰り返された。
更に、そのあと…!
”えっ…❓❓今の黒い影みたいなの…、何だー❓”
この時点…、奥山も”気のせいか?”くらいにしか受け止めていなかった…。
そしてこの4日後も、当該大型トレーラーはいつもの時間帯に3番レーンに入ってきたのだが…!
***
”おお、今日も21時30分ほぼジャストに黒ポロさん3レーン入車か…。で、赤ポロさんは来るかな?”
結局、この夜も赤いポロシャツの女性ドライバーが運転する大型ダンプはやってこなかった。
「うーん、2回連続でずっとつづいてたお決まりのルーティーンが途切れたって訳か…。これで終わりなら、ちょっと、あっけねえなあ…」
奥山はレーンモニターに目線を注ぎながら、この時は小声でそう呟いていた。
やや神妙な顔つきで…。
同時に頭の中では、”まあ、奥さんがいるの知っちゃったし。あまり深入りは何かと火種ってものだからな。かえって自分的にも安堵したかな…”という思いも確かにあった。
そんなメンタルに陥っていると、モニター画面からは、奥山の両眼にまたあのノイズが映された。
「えー❓また出たよ…、ノイズ…。待てよ…、ならこの後、人影みたいな黒いのが映るかもしれないってことか‼」
奥山は一転、背筋を震わせた。
そして、レーンモニターへ前かがみになり、3,4番レーンのカットを拡大表示してじっと凝視してみると…!
「出たかー‼」
黒い影のようなモヤモヤは前回と同じく、ノイズの発生後画面に映された!
”おいおい…‼あの黒い影、前回より3番レーン…、いや、給油中のあのドライバーに少し近づいてねーか⁉”
奥山がそう察した後、影らしき黒いナニカは数秒で消え失せた。
”ひょっとして、これって霊現象とかか…⁉”
既に奥山ミツヒロは、女性ドライバーとのペア給油が途切れたと同時に起こった不審な画像の乱れに、不吉な予期を禁じえなかったのだ。
そして翌日、彼は直属の上司である店長にこの旨を報告する…。
その”変化”は、極めて単純明快であった。
ニアミスならぬ時間差ならぬ、ほぼほぼ、大型軽油のペア給油であった”いつもの風景”が、片翼給油に変異した訳なのだから…。
つまりは、赤と黒のドライバーが、”いつもの時間”、一方になったということであった。
で…、どっちが欠けたかのか…?
来なくなったのは、黒の方であった。
黒いポロシャツのドライバー…、従って長い髪を染めた若い女性…。
奥村が最初に赤のドライバーのピン給油を事務所ブース内でモニターチェックしたのは、あの最後のペア給油から厳格には11日後であった。
その間…。
日曜日の夕方に、奥村は赤いポロシャツの男性ドライバーが家族連れで給油に訪れた際、”本人”と声を交わしていたのだ。
「こんにちわ!今日はマイカーですね?」
「ええ、まあね…」
給油中だった彼は、やや照れくさそうな…、見方によってはバツが悪そうともとれるにわか苦笑を浮かべながら、”なじみの店員”に、トータルの表情では愛想よく挨拶を返してきた。
で…、奥さんらしき女性は、車の中…、助手席で腕を組んで佇んで?…、いたが、奥山の会釈に気づくと、にっこり笑ってウィンドウを下げた。
「それ、嫁さんっすよ」
男性ドライバーは自らの口で、”いつもの給油”を見届けているスタンドの店員としての奥村へそう告げた。
それを受けた奥村は咄嗟の判断で、助手席のウィンドウ越しに夫人へも挨拶を申し出た。
「奥様、本日はご来店、ありがとうございますね。ご主人にはいつもお世話になってます!」
「こちらこそ、主人がいつも…」
会話はこれだけであった。
だが、後から思い返せば、男性ドライバーとは目と目で何やらボールの投げ合いをしていたと…。
加えて、夫人ともや意味ありげな目線の交わし合いをした気がした。
ちなみに…、その奥さんは髪の毛が長く、背格好もぱっと見、赤いポロシャツの女性ドライバーに似ていた…。
無論、年は奥さんの方がどう見ても上であったが…。
要するに、このスタンドのレーン上で女性ドライバーに抱き着かれていた彼は、既婚者だったと…。
そのことを、あくまで当該スタンドの従業員として、奥山は消化した一コマとなったという意味合いがあったのだ。
***
その4日後のこと…・
この日も23時までの夜番シフトだった奥山は、21時半ちょっと前に、例の大型トレーラーの給油許可の解除作業を行った。
いつも通り、黒のポロシャツ姿で3番レーンでのダブルノズル給油であった。
しかし…、給油が始まっても、いつも後続する大型ダンプは入って来なかった。
”あれ?今日は赤い服の女性ドライバーは来ないのかな…”
奥山は監視モニターの3番4番レーンの画面分割部に目線を置きながら、胸の中でそう呟いていたのだが…。
よく見ると、3番レーンと4番レーンの隣接付近にわずかながらノイズが発生しているのに気づいた。
”なんだ?通信障害かな?”
そのノイズは数秒で消え、また数秒おいて発生し、それが3度ほど繰り返された。
更に、そのあと…!
”えっ…❓❓今の黒い影みたいなの…、何だー❓”
この時点…、奥山も”気のせいか?”くらいにしか受け止めていなかった…。
そしてこの4日後も、当該大型トレーラーはいつもの時間帯に3番レーンに入ってきたのだが…!
***
”おお、今日も21時30分ほぼジャストに黒ポロさん3レーン入車か…。で、赤ポロさんは来るかな?”
結局、この夜も赤いポロシャツの女性ドライバーが運転する大型ダンプはやってこなかった。
「うーん、2回連続でずっとつづいてたお決まりのルーティーンが途切れたって訳か…。これで終わりなら、ちょっと、あっけねえなあ…」
奥山はレーンモニターに目線を注ぎながら、この時は小声でそう呟いていた。
やや神妙な顔つきで…。
同時に頭の中では、”まあ、奥さんがいるの知っちゃったし。あまり深入りは何かと火種ってものだからな。かえって自分的にも安堵したかな…”という思いも確かにあった。
そんなメンタルに陥っていると、モニター画面からは、奥山の両眼にまたあのノイズが映された。
「えー❓また出たよ…、ノイズ…。待てよ…、ならこの後、人影みたいな黒いのが映るかもしれないってことか‼」
奥山は一転、背筋を震わせた。
そして、レーンモニターへ前かがみになり、3,4番レーンのカットを拡大表示してじっと凝視してみると…!
「出たかー‼」
黒い影のようなモヤモヤは前回と同じく、ノイズの発生後画面に映された!
”おいおい…‼あの黒い影、前回より3番レーン…、いや、給油中のあのドライバーに少し近づいてねーか⁉”
奥山がそう察した後、影らしき黒いナニカは数秒で消え失せた。
”ひょっとして、これって霊現象とかか…⁉”
既に奥山ミツヒロは、女性ドライバーとのペア給油が途切れたと同時に起こった不審な画像の乱れに、不吉な予期を禁じえなかったのだ。
そして翌日、彼は直属の上司である店長にこの旨を報告する…。