赤を喰らう黒/短編エロティックホラー選❻
その3
その3
翌日、奥村はスタンドの店長である橋本に、レーンモニターに怪しい黒い人影のようなものが映っていると告げ、一緒に13レーンの当該再生映像を検証することとなった。
朝一番ということもあり、店長の橋本は、やや迷惑そうな顔つきでわずかな時間の再生映像をあくび交じりで見届けたのだが…。
「奥村さん…、コレ、単なるノイズでしょ。でしょう?」
「はあ…、そういうことになりますかね…」
「なるよ!ノイズの後のアナタが言う、人の影らしきっての、映ってないですよ。少なくとも自分の目にはカンペキにです。で、奥村さんの目にはどうです?」
実際、奥村が橋本と共に目にした再生ビデオには、ノイズ後の、昨夜確かに目にした”アレ”たる人の影のようなモノは映っていなかった。
確かに!
「今、店長と見た再生映像にはノイズのみでした。でも、昨夜モニターには写ってたんですよ!ああ、そうだ、その前の最初のも再生しますので…」
「いや、いいって。奥村さん…、アナタが常連のお客様に対して深慮を働かせている気持ちは十分計れますから。でもねえ…、ちょっと主観が強すぎる。まだ、”入り込む”には材料が不十分すぎるんですわ。まあ、あと2,3回の給油のモニター映像を見てみましょうよ。ねっ!」
橋本はポンと奥村の肩を叩き、デスクに戻った。
ここでは若干食い下がった奥村もまた、店長のこの出方は予想通りだったし、もうしばらくは様子見をして、その上でという気持ちであった。
要は、上司に伺いを立てたという一応のアリバイは得たと…。
***
その上で、昨夜のこの目で確かに見た黒い影が映像に残っていなかったこと…。
このことこそ、奥山は最重要視していた。
すなわち、これを以って、”アレ”は怪奇現象、霊現象の括りに入るという思いが強まった訳で!
で…、奥村は決意する。
”今度の給油現場はスマホでに二重撮りだ!”
かくして、次の”給油現場”は3日後の21時45分に訪れる…。
***
”キター!まずは3レーンにトレーラーが入ったぞ!”
”おお、今日も赤いポロシャツ姿でカレが降りてきたな”
”うん、給油までのルーティーンもいつも通りだ。…よし、ここで解除オン!”
奥村は食い入るように各レーンの監視モニターを注視している。
最も彼は、3レーンだけに視線を落としていた訳ではなく、まずはスタンド全体の状況をモニター画面でチェックしていたのだ。
”うーん、洗車も含め、3レーン以外は無人か…。まあ、好都合かな。でもって、やっぱ、4レーンに彼女は来ないようだ。とすれば…!”
ここで奥村は、3レーンをモニターに拡大表示させた。
そして右手にあったスマホの画面を操作し、カメラアプリを起動させた。
給油開始から約1分…。
いつもはこの辺りでノイズが登場していた。
”そろそろだ!来るぞー!”
奥村はモニターに向かって、スマホを向けスタンバイを終えた。
そしてその直後…、ノイズは発生した。
既に彼はスマホで動画撮影を介して、その画面も並行チェックしている。
”うん?ちょっと、ヘンかな、今日のノイズ…”
彼の感覚では、この夜のノイズは前回までの2回とやや異なっていた。
まず、ノイズの唸り幅が明らかに大きくなっていた。
それは…、モニターから音が漏れ出てくるくらいの臨場感が伝わるレベルであったのだ。
加えて、そのノイズに連動されるように、3レーンの映像全体がかすかながら歪んでいる…。
”これって⁉もしや、この後の黒い影の方も前とは違ってくるってことか!”
奥村は手元のスマホがぶれないように、両手で支え持って、画面を慎重に確認していたが、今のところ、ちゃんと当該レーン全体を撮影できてるようであった。
そして、前回までと同様、ノイズは発生後十数秒で立ち消え、それと入れ替わるように、画面向かって右手に怪しい黒い影は現れた!
***
奥村は生唾を飲み込み、スマホの上撮りに集中した。
ここで奥村はハタと気付く!
黒い影が現れたのは、前回消えたレーン脇においてある赤い消火器の斜め後ろだったのだ。
”そうか!前回は気づかなかったが、黒い影の動線は前回を継いでるんだ!要は、赤いポロシャツのドライバーに向かって、その都度距離を縮めてるってこったろ‼…ああ、今日は50センチ以上は進んでるって!えっ?この影…、オンナ…?長い髪の…❓あっ…、消えた‼”
この間、わずか30秒から40秒あまり…。
彼はややアタマが混乱していたが、まずはスマホの動画を再生したのだが…。
”ふう…、スマホの再生映像はほぼノイズか…。でも、これってオレの肉眼とも、おそらくは監視モニターの再生映像とも違ってるはずだ。もしかしたら、映像の専門家が詳細に分析すれば、長い髪の女に見えた黒い影が、あのドライバーに接近してる証左を得られるかもしれない…”
ここで奥村は、今までの2回分を改めて再生し、スマホで動画撮影した。
つまり、怪しい黒い影は、まず間違いなく徐々に、給油中の男性ドライバーへ近づいている!
であれば、今日の次点ではざっくり言ってカレまでの距離は4~5メートルであったのだから、これまでの前進ペースから推測すれば、おそらくはあと2回…、次の次の給油で”アイツ“はカレと重なる…。
この時点で、奥村はここまでの推論が出来上がっていたので、スマホの映像からより細かくその根拠を導き出せないかと思考していたのだ。
その夜の勤務を終え自宅に戻ると、奥村は深夜までスマホの画面に向かって再生視聴を繰り返した。
”ノイズ幅は浮遊幅だ!画像の乱れ全体で捉えれば、給油中のカレに向かって移動してるようには見てとれる。だけど、店長に見せてもそれは理解を得ないだろう。よし!少なくともカレと接触するまでにはあと一回はある。それ次第で、店長へのアプローチとこのことを彼に告げるか決めよう…”
奥村が見立てた、最期の様子見…、次の当該給油はその4日後となる!
翌日、奥村はスタンドの店長である橋本に、レーンモニターに怪しい黒い人影のようなものが映っていると告げ、一緒に13レーンの当該再生映像を検証することとなった。
朝一番ということもあり、店長の橋本は、やや迷惑そうな顔つきでわずかな時間の再生映像をあくび交じりで見届けたのだが…。
「奥村さん…、コレ、単なるノイズでしょ。でしょう?」
「はあ…、そういうことになりますかね…」
「なるよ!ノイズの後のアナタが言う、人の影らしきっての、映ってないですよ。少なくとも自分の目にはカンペキにです。で、奥村さんの目にはどうです?」
実際、奥村が橋本と共に目にした再生ビデオには、ノイズ後の、昨夜確かに目にした”アレ”たる人の影のようなモノは映っていなかった。
確かに!
「今、店長と見た再生映像にはノイズのみでした。でも、昨夜モニターには写ってたんですよ!ああ、そうだ、その前の最初のも再生しますので…」
「いや、いいって。奥村さん…、アナタが常連のお客様に対して深慮を働かせている気持ちは十分計れますから。でもねえ…、ちょっと主観が強すぎる。まだ、”入り込む”には材料が不十分すぎるんですわ。まあ、あと2,3回の給油のモニター映像を見てみましょうよ。ねっ!」
橋本はポンと奥村の肩を叩き、デスクに戻った。
ここでは若干食い下がった奥村もまた、店長のこの出方は予想通りだったし、もうしばらくは様子見をして、その上でという気持ちであった。
要は、上司に伺いを立てたという一応のアリバイは得たと…。
***
その上で、昨夜のこの目で確かに見た黒い影が映像に残っていなかったこと…。
このことこそ、奥山は最重要視していた。
すなわち、これを以って、”アレ”は怪奇現象、霊現象の括りに入るという思いが強まった訳で!
で…、奥村は決意する。
”今度の給油現場はスマホでに二重撮りだ!”
かくして、次の”給油現場”は3日後の21時45分に訪れる…。
***
”キター!まずは3レーンにトレーラーが入ったぞ!”
”おお、今日も赤いポロシャツ姿でカレが降りてきたな”
”うん、給油までのルーティーンもいつも通りだ。…よし、ここで解除オン!”
奥村は食い入るように各レーンの監視モニターを注視している。
最も彼は、3レーンだけに視線を落としていた訳ではなく、まずはスタンド全体の状況をモニター画面でチェックしていたのだ。
”うーん、洗車も含め、3レーン以外は無人か…。まあ、好都合かな。でもって、やっぱ、4レーンに彼女は来ないようだ。とすれば…!”
ここで奥村は、3レーンをモニターに拡大表示させた。
そして右手にあったスマホの画面を操作し、カメラアプリを起動させた。
給油開始から約1分…。
いつもはこの辺りでノイズが登場していた。
”そろそろだ!来るぞー!”
奥村はモニターに向かって、スマホを向けスタンバイを終えた。
そしてその直後…、ノイズは発生した。
既に彼はスマホで動画撮影を介して、その画面も並行チェックしている。
”うん?ちょっと、ヘンかな、今日のノイズ…”
彼の感覚では、この夜のノイズは前回までの2回とやや異なっていた。
まず、ノイズの唸り幅が明らかに大きくなっていた。
それは…、モニターから音が漏れ出てくるくらいの臨場感が伝わるレベルであったのだ。
加えて、そのノイズに連動されるように、3レーンの映像全体がかすかながら歪んでいる…。
”これって⁉もしや、この後の黒い影の方も前とは違ってくるってことか!”
奥村は手元のスマホがぶれないように、両手で支え持って、画面を慎重に確認していたが、今のところ、ちゃんと当該レーン全体を撮影できてるようであった。
そして、前回までと同様、ノイズは発生後十数秒で立ち消え、それと入れ替わるように、画面向かって右手に怪しい黒い影は現れた!
***
奥村は生唾を飲み込み、スマホの上撮りに集中した。
ここで奥村はハタと気付く!
黒い影が現れたのは、前回消えたレーン脇においてある赤い消火器の斜め後ろだったのだ。
”そうか!前回は気づかなかったが、黒い影の動線は前回を継いでるんだ!要は、赤いポロシャツのドライバーに向かって、その都度距離を縮めてるってこったろ‼…ああ、今日は50センチ以上は進んでるって!えっ?この影…、オンナ…?長い髪の…❓あっ…、消えた‼”
この間、わずか30秒から40秒あまり…。
彼はややアタマが混乱していたが、まずはスマホの動画を再生したのだが…。
”ふう…、スマホの再生映像はほぼノイズか…。でも、これってオレの肉眼とも、おそらくは監視モニターの再生映像とも違ってるはずだ。もしかしたら、映像の専門家が詳細に分析すれば、長い髪の女に見えた黒い影が、あのドライバーに接近してる証左を得られるかもしれない…”
ここで奥村は、今までの2回分を改めて再生し、スマホで動画撮影した。
つまり、怪しい黒い影は、まず間違いなく徐々に、給油中の男性ドライバーへ近づいている!
であれば、今日の次点ではざっくり言ってカレまでの距離は4~5メートルであったのだから、これまでの前進ペースから推測すれば、おそらくはあと2回…、次の次の給油で”アイツ“はカレと重なる…。
この時点で、奥村はここまでの推論が出来上がっていたので、スマホの映像からより細かくその根拠を導き出せないかと思考していたのだ。
その夜の勤務を終え自宅に戻ると、奥村は深夜までスマホの画面に向かって再生視聴を繰り返した。
”ノイズ幅は浮遊幅だ!画像の乱れ全体で捉えれば、給油中のカレに向かって移動してるようには見てとれる。だけど、店長に見せてもそれは理解を得ないだろう。よし!少なくともカレと接触するまでにはあと一回はある。それ次第で、店長へのアプローチとこのことを彼に告げるか決めよう…”
奥村が見立てた、最期の様子見…、次の当該給油はその4日後となる!