赤を喰らう黒/短編エロティックホラー選❻
その4
その4
確かにあのトレーラー運転手は”その日”、来て、”いつも通り”ではない給油を奥村の予測通りしていた…。
赤いポロシャツは”いつも通り”のまま…。
であるが…、”その日”の前日…、そのカレは当該スタンドへやって来ていた。
マイカーの給油をしに!
で…!、そこには”前回と違って”、妻を同行しておらず、赤のポロシャツではない私服姿によるピンでの来店であった。
その際、奥村は外で作業中であった。
この時間帯はまだ二人勤務であったため、事務所ブース内での、レーン監視と給油解除は他のスタッフが行っていたのだ。
ということで…、この日、各レーンのチェックを済ませていた奥村には、カレから声をかけてきたたのであった。
「こんちわ、店員さん!」
「ああ、こんにちわ!…今日はお一人ですか?」
「ええ。でもまあ、ここ最近は”いづれも”一人だし…。…店員さんは知ってるでしょう?」
「…」
奥村はカレのこの言葉に即、リターンができなかった…。
***
”それ”を察したのか、赤いポロシャツを着た馴染みの法人顧客としての男性ドライバーは、ややしんみりした表情でこう切り出した。
それはどこか告白調で…。
「…夜の方さ、ペア給油のあの女性ドライバー、亡くなったんだよ。先々週、事故で。交通事故で…」
「!!!」
奥村は無論衝撃を受けたが、同時に、どこかで”やはりか…”という相反する符号反応も禁じ得なかった。
「あの…、それはいつ…?たしか、4番レーンが続かなかったのは2週間前からだったと記憶してますが…」
「先々週の火曜日だったようです。オレも又聞きだったから…。正確にはわからないが…」
「…」
奥村は一瞬、頭の中で過ぎ去ったカレンダーがパラパラと巡った。
”要は、この人が家族連れでココで給油した直後だ…!”
とりあえず、奥村の結論はそこにたどり着いた。
そして、その次に巡ったのは、ある葛藤だった。
***
「あの…!」
奥村はここで、モニターに映った”例の黒い影”のことを告げようかどうか、という衝動に駆られた。
その不穏な影は給油のたびに、アナタへ近づいていると…。
で!
それ…、”カノジョ”ではないのか…。
先々週、死んだあの黒いポロシャツを纏っていた、女性ドライバーの霊ではないのかと!
この時点、奥村はこれの、どこまでを告げるべきかとモーレツに迷った。
それは!
一スタンドの従業員としての責務…、良心からによる葛藤ということであったのは明らかであった。
結局、奥村は”その後”が口に出なかった。
理由はひとつではなく、要は躊躇いが振り払えなかった…。
そういうことであったのではあるまいか。
その間…、ドライバーのカレは、給油ノズルを掴んだ手元を注視したままで、奥村を振り返ることはなかった。
この態勢のまま、奥村へ更なる”告白”を口から吐き出すのであった…。
「!!!」
その”告白”に、奥村は耳を疑うほど仰天する。
”マジかよ⁉”
”この人の奥さん…、霊感がとても強くて、ココでのペア給油のこと気づいていたようだと…‼”
すでに、奥村の全身は凍り付いていた。
***
「それって…、あのう…」
「いや、特段、彼女の事故死が嫁さんによって導かれたとは思ってませんけど…。結構、予知とかで当てたことはあったんで。やっぱ、なんかね…」
奥村の目には、カレが深く思い込んでるように見えて、いたたまれなかった。
「自分には何も言えませんが、運転は気を付けてくださいね…」
この時奥村が口にした男性ドライバーへの口上は、彼自身、無意識だったであろうが複数のシグナルが含有されていた。
そしてそれを受けたドライバーは、ここで給油を終えたノズルをフォルダに戻した後、奥村に視線を向け、やや目元をほころばせてこう言った。
「実は…、コレは本人から雑談の中で本人からさらっと聞いたに過ぎないんですけど、あの女性ドライバーもね、”私、子供の頃から霊感があったのよ”って…。だから、なんかね…。いろいろ考えちゃって…」
「…」
奥村はここで、今は話すべきではないと決断に至る。
「ああ、すいませんね、仕事中…」
「”今度”はあさってあたりですかね?」
「あさって来ます。多分。いつもの時間に…」
「わかりました。自分、あさっては勤務してますんで。お気をつけて。お待ちしてます」
男性ドライバーは白い歯を覗かせながら、さわやかな笑顔で小さく頷いていた。
”よし!あさってのモニターでアレが映っていれば、その場で告げよう。で、店長には事後報告で全部を話す…"
奥村はそう自分に言い聞かせて、二日後を迎えるのであった。
***
その夜、大型トレーラーが3番レーンに入ったのは9時35分であった。
ドライバーはいつも通り黒いシャツ姿でですぐに運転席から降りてきた。
モニターでそれを確認した奥村は、まずは胸を撫でおろした。
”とりあえず無事に来てくれたか…。さあ、これから目を離せんぞ!”
意を決したが如き奥村は、レーンモニターにかじりついた。
モニター画面には、そのあと、いつも通りの風景をなぞるようにいつも通りのルーティーンが展開され、黒ポロのドライバーはこれまたいつも通り、ダブルノズルで給油を開始…。
”来るぞ!”
奥村が瞬きを忘れてモニター画面上の3番レーンに目をくぎ付けさせていると…。
数十秒後、”ソレ”はやはりいつも通り、現れた。
まずはノイズが画面右下から発生…、それを露払いとして黒い影は前回消えた場所付近に出現する!
”キター‼アイツ、今日はどこまでだ⁉”
奥村の予測では、ドライバーの後方1メーター範囲で消えると踏んでいたのだが…。
それはじりっ、じりっ…という、いわゆる古典的なユーレイがひっそりと後ろから迫ってくるというより、どこかデジタルモードで、スーッといった、地を這うではなく滑るというビジュアルであった。
ではあるが…、その影は確実に…、じりじりと給油中の彼の後姿に近づいて行った。
そして!
影は…、いや、その髪の長いオンナは、奥村の予測通りほぼ1メートル弱というところでパット消えた。
”ふう…!予想ぴったしかよ…。なら、次はカレに重なるぞ!よし、あのドライバーには今夜のうちに話さなくては!”
奥村はスタンド内に来店中の給油解除を終えると、躊躇せず、3番レーンに走っていた。
確かにあのトレーラー運転手は”その日”、来て、”いつも通り”ではない給油を奥村の予測通りしていた…。
赤いポロシャツは”いつも通り”のまま…。
であるが…、”その日”の前日…、そのカレは当該スタンドへやって来ていた。
マイカーの給油をしに!
で…!、そこには”前回と違って”、妻を同行しておらず、赤のポロシャツではない私服姿によるピンでの来店であった。
その際、奥村は外で作業中であった。
この時間帯はまだ二人勤務であったため、事務所ブース内での、レーン監視と給油解除は他のスタッフが行っていたのだ。
ということで…、この日、各レーンのチェックを済ませていた奥村には、カレから声をかけてきたたのであった。
「こんちわ、店員さん!」
「ああ、こんにちわ!…今日はお一人ですか?」
「ええ。でもまあ、ここ最近は”いづれも”一人だし…。…店員さんは知ってるでしょう?」
「…」
奥村はカレのこの言葉に即、リターンができなかった…。
***
”それ”を察したのか、赤いポロシャツを着た馴染みの法人顧客としての男性ドライバーは、ややしんみりした表情でこう切り出した。
それはどこか告白調で…。
「…夜の方さ、ペア給油のあの女性ドライバー、亡くなったんだよ。先々週、事故で。交通事故で…」
「!!!」
奥村は無論衝撃を受けたが、同時に、どこかで”やはりか…”という相反する符号反応も禁じ得なかった。
「あの…、それはいつ…?たしか、4番レーンが続かなかったのは2週間前からだったと記憶してますが…」
「先々週の火曜日だったようです。オレも又聞きだったから…。正確にはわからないが…」
「…」
奥村は一瞬、頭の中で過ぎ去ったカレンダーがパラパラと巡った。
”要は、この人が家族連れでココで給油した直後だ…!”
とりあえず、奥村の結論はそこにたどり着いた。
そして、その次に巡ったのは、ある葛藤だった。
***
「あの…!」
奥村はここで、モニターに映った”例の黒い影”のことを告げようかどうか、という衝動に駆られた。
その不穏な影は給油のたびに、アナタへ近づいていると…。
で!
それ…、”カノジョ”ではないのか…。
先々週、死んだあの黒いポロシャツを纏っていた、女性ドライバーの霊ではないのかと!
この時点、奥村はこれの、どこまでを告げるべきかとモーレツに迷った。
それは!
一スタンドの従業員としての責務…、良心からによる葛藤ということであったのは明らかであった。
結局、奥村は”その後”が口に出なかった。
理由はひとつではなく、要は躊躇いが振り払えなかった…。
そういうことであったのではあるまいか。
その間…、ドライバーのカレは、給油ノズルを掴んだ手元を注視したままで、奥村を振り返ることはなかった。
この態勢のまま、奥村へ更なる”告白”を口から吐き出すのであった…。
「!!!」
その”告白”に、奥村は耳を疑うほど仰天する。
”マジかよ⁉”
”この人の奥さん…、霊感がとても強くて、ココでのペア給油のこと気づいていたようだと…‼”
すでに、奥村の全身は凍り付いていた。
***
「それって…、あのう…」
「いや、特段、彼女の事故死が嫁さんによって導かれたとは思ってませんけど…。結構、予知とかで当てたことはあったんで。やっぱ、なんかね…」
奥村の目には、カレが深く思い込んでるように見えて、いたたまれなかった。
「自分には何も言えませんが、運転は気を付けてくださいね…」
この時奥村が口にした男性ドライバーへの口上は、彼自身、無意識だったであろうが複数のシグナルが含有されていた。
そしてそれを受けたドライバーは、ここで給油を終えたノズルをフォルダに戻した後、奥村に視線を向け、やや目元をほころばせてこう言った。
「実は…、コレは本人から雑談の中で本人からさらっと聞いたに過ぎないんですけど、あの女性ドライバーもね、”私、子供の頃から霊感があったのよ”って…。だから、なんかね…。いろいろ考えちゃって…」
「…」
奥村はここで、今は話すべきではないと決断に至る。
「ああ、すいませんね、仕事中…」
「”今度”はあさってあたりですかね?」
「あさって来ます。多分。いつもの時間に…」
「わかりました。自分、あさっては勤務してますんで。お気をつけて。お待ちしてます」
男性ドライバーは白い歯を覗かせながら、さわやかな笑顔で小さく頷いていた。
”よし!あさってのモニターでアレが映っていれば、その場で告げよう。で、店長には事後報告で全部を話す…"
奥村はそう自分に言い聞かせて、二日後を迎えるのであった。
***
その夜、大型トレーラーが3番レーンに入ったのは9時35分であった。
ドライバーはいつも通り黒いシャツ姿でですぐに運転席から降りてきた。
モニターでそれを確認した奥村は、まずは胸を撫でおろした。
”とりあえず無事に来てくれたか…。さあ、これから目を離せんぞ!”
意を決したが如き奥村は、レーンモニターにかじりついた。
モニター画面には、そのあと、いつも通りの風景をなぞるようにいつも通りのルーティーンが展開され、黒ポロのドライバーはこれまたいつも通り、ダブルノズルで給油を開始…。
”来るぞ!”
奥村が瞬きを忘れてモニター画面上の3番レーンに目をくぎ付けさせていると…。
数十秒後、”ソレ”はやはりいつも通り、現れた。
まずはノイズが画面右下から発生…、それを露払いとして黒い影は前回消えた場所付近に出現する!
”キター‼アイツ、今日はどこまでだ⁉”
奥村の予測では、ドライバーの後方1メーター範囲で消えると踏んでいたのだが…。
それはじりっ、じりっ…という、いわゆる古典的なユーレイがひっそりと後ろから迫ってくるというより、どこかデジタルモードで、スーッといった、地を這うではなく滑るというビジュアルであった。
ではあるが…、その影は確実に…、じりじりと給油中の彼の後姿に近づいて行った。
そして!
影は…、いや、その髪の長いオンナは、奥村の予測通りほぼ1メートル弱というところでパット消えた。
”ふう…!予想ぴったしかよ…。なら、次はカレに重なるぞ!よし、あのドライバーには今夜のうちに話さなくては!”
奥村はスタンド内に来店中の給油解除を終えると、躊躇せず、3番レーンに走っていた。