赤を喰らう黒/短編エロティックホラー選❻
その6
その6
”やっぱ、ここで給油かよ!よし…、あの黒い影が出てくれば、予定通りの行動をとるぞ!”
その日の夜21時34分…、奥村は想定内だった赤ポロのドライバーが3番レーンにトレーラーを着けてエンジンを切ると、いつも通り、ダブルでノズルを給油口に差し込んだ。
いつも通り…。
ブース内の奥村もそれを見届け、いつも通り給油解除操作を完了…。
”さあ…、間もなくノイズを露払いに黒い影がお出ましだ!そしたら、即、彼を陰に呑み込まれる前に身をもって退避させる!”
奥村の想いは既に一徹していた。
そして…!
ノイズは明らかに今までより振れ幅を大きくし、3番レーン周辺を写すモニター画面に現れた。
奥村はそれをスマホで上撮りし、ディスプレイ上とモニター画面を相互に確認したあと、スタンド内には当該トレーラー1台なのを再チェックして勢いよくブースから飛び出した。
”ここからは生でスマホに収める!その上で、アイツがカレと重なるのは何とか避けなきゃ!”
奥村は、3番と4番の両レーンが同時に見渡せる位置からスマホのカメラにズームアップさせた。
ここの場所なら、3番レーンで給油するドライバーの斜め後ろということで、カレからは奥村が視野に入っていない。
この時点で奥村は悟っていた。
カレの肉眼には、ノイズの原因らしきかすかな靄が映し出されていたのだ。
そしてスマホのカメラも同様であった。
***
”ノイズは通信網に乗って映し出されてたってことか…。なら、黒い影は白い靄はから現れる!”
奥村はスマホで3番レーンにむかって這う白い靄を追いかけるように動画撮影した。
靄は最初、地面を這うようにゆっくりと移動していたが、次第に吸い上げられる感じで立ち上りながら、スーッとカレの背後数メートルのところまで接近…。
ここで奥村は左手で握ったスマホの焦点を確保しながら、赤ポロのドライバーに向かって走り出した。
とその時、白い靄を振り払うかのように黒い影…、いや長い髪のオンナは現れた。
奥村の両眼は、ノズルを握っている男性ドライバーの真後ろに重なった!
「お客さーん、後ろ‼後ろに誰かいる‼」
奥村は走りながら絶叫した。
その声に気づき、ドライバーは後ろを振り返ると…。
「逃げろー‼やめろー‼」
次の瞬間、3番レーンには3人が棒立ちしていた。
しかし、その数秒後…、”パターン!”という音がスタンド内に響くと、グリーンの給油ノズル2本はコンクリートの土間に落下した。
給油中のノズルを両の手から離したドライバーは、後ろを振り向き、長い髪のオンナと正面を向き合う(見つめ合う?)格好だった。
その男女”二人”はほぼくっつく距離でしばしの間、直立不動のままであったが…、男性ドライバーは顔面蒼白で膝が崩れて、うずくまるように地面にしゃがみ込んでしまう。
”ウソだろ‼”
その斜め後方2メートルのところで、奥村は無意識でその現場をスマホに収めながら、その言葉を胸の内で繰り返していた。
この時点での彼には、その言葉しか出なかったのだが、すでに奥村にはコトの全容は掌握できていた…!
***
ここで奥村は地面に崩れ落ちた男性ドライバーに駆け寄るとその体を両手で支えながら、道路側に向かって大声を発する。
「誰か―‼救急車を呼んでくれー‼人が刺されたんだー‼」
その一声は幸い、通りがかりの通行人や、信号待ちしていた車のドライバーに届き、深刻な事態を認知した彼らによって、消防と警察への通報がはすぐになされた。
「ううっ…」
「大丈夫ですか‼お客さん、今救急車が来ますから‼しっかり…」
奥村の腕の中に納まっていた男性ドライバーは腹部を両手で抑えながら、苦悶の表情でうめき声をあげていた。
奥村の目を見つめて…。
そんな男性ドライバーは、スタンド店員の奥村に何かを伝えたかったのか、その眼は何かを訴えるようであった。
だが、奥村にはおおよその想像はもう察知できていた。
そう…、彼を刃物で刺したのは黒い長髪のオンナ…、彼の妻だったのだから…。
”なんてこった!黒い影は…、長い髪の後姿は、黒いポロシャツの女性じゃなったのかよ‼”
奥村は血だらけのナイフを震えた手で握りながら、夫の腹から流れる真っ赤な血を茫然と見下ろしている…。
「奥さん…!」
「わ、私…、何でここに?あなた…⁉ギャー、わ―‼」
男性ドライバーの妻はここで我に返ったのか、その場に崩れ落ちると、錯乱状態で泣き喚いた。
この間、奥村は男性ドライバーを抱きかかえながら、スマホから店長の橋本へ連絡を済ませた。
やがて、スタンドには救急車とパトカー2台が到着…、もはやスタンド周辺は人だかりで溢れて騒然となっていた。
「店員さん…、刺したのは女房じゃなかったんだ…。ありがとう…、迷惑かけて申し訳ない…。でも…」
「いいんですよ!わかってます、僕には…。お客さん、頑張って…!」
救急車で搬送される数秒間の間、二人は凝縮された短い言葉を交わし合った…。
***
男性ドライバーを乗せた救急車がスタンドから去って、警察が男性ドライバーの妻をパトカー内に連行したところで、店長の橋本が到着した。
「ああ、奥村さん…!いやあ…、大変だったね。刺したのは奥さんだったんだって?ふう…、要はここで浮気相手とペア給油してた女性ドライバーへの嫉妬か…」
「いいえ…、カレを刺したのはここでペア給油してた女性ドライバーの方ですよ。ちなみに彼女…、先々週、交通事故で亡くなってるそうです」
「は…⁇何言ってるんだよ、奥村さん…。とにかく警察には変な証言しないでよ。頼みますよ…。じゃあ、刑事さんにレーンモニターを見てもらうんで、ブースで準備お願いします。とりあえず、警察に挨拶してくるしてくるから…」
橋本が足早に3番レーンから警察官の方に駆けて行った後、奥村は一部始終を撮影したスマホの動画を再生してみた。
”オレは勘違いしてた!あの黒い影は、事故死した後の女性ドライバーだったんだ。そして、生前霊感のあった彼女がカレの奥さんを誘導した…。奥さんも霊感が強かったというから、浮気相手の妻に呪われて死に追いやられたと、黒いポロシャツの女性ドライバーが思いこみながらあの世へ行ったかもしれない。要するに三角関係の女性二人とも、霊能力を恋敵にむけ合っての顛末?だとすれば…”
奥村がスマホで撮った動画の最後…、給油途中のノズル2本からは軽油がコンクリートの土間にあふれ出ていた。
そしてその黒い液体は、赤いポロシャツを着た男性ドライバーの腹からどくどくと流れ落ちている真っ赤な血に向かって行き、やがて赤と黒は重なった。
だが、奥村の目が捉えたそのビジュアルは…!
明らかに黒が赤を呑み込むようにしか映らなかった…。
”黒いポロシャツの女性ドライバーは、本気で不倫相手のドライバーを愛してしまったんだろう…。もしかして…、赤ポロの男性ドライバーも…”
翌日、奥村は男性ドライバーが出血大量で死去したことを知らされる…。
赤を喰らう黒
ー完ー
”やっぱ、ここで給油かよ!よし…、あの黒い影が出てくれば、予定通りの行動をとるぞ!”
その日の夜21時34分…、奥村は想定内だった赤ポロのドライバーが3番レーンにトレーラーを着けてエンジンを切ると、いつも通り、ダブルでノズルを給油口に差し込んだ。
いつも通り…。
ブース内の奥村もそれを見届け、いつも通り給油解除操作を完了…。
”さあ…、間もなくノイズを露払いに黒い影がお出ましだ!そしたら、即、彼を陰に呑み込まれる前に身をもって退避させる!”
奥村の想いは既に一徹していた。
そして…!
ノイズは明らかに今までより振れ幅を大きくし、3番レーン周辺を写すモニター画面に現れた。
奥村はそれをスマホで上撮りし、ディスプレイ上とモニター画面を相互に確認したあと、スタンド内には当該トレーラー1台なのを再チェックして勢いよくブースから飛び出した。
”ここからは生でスマホに収める!その上で、アイツがカレと重なるのは何とか避けなきゃ!”
奥村は、3番と4番の両レーンが同時に見渡せる位置からスマホのカメラにズームアップさせた。
ここの場所なら、3番レーンで給油するドライバーの斜め後ろということで、カレからは奥村が視野に入っていない。
この時点で奥村は悟っていた。
カレの肉眼には、ノイズの原因らしきかすかな靄が映し出されていたのだ。
そしてスマホのカメラも同様であった。
***
”ノイズは通信網に乗って映し出されてたってことか…。なら、黒い影は白い靄はから現れる!”
奥村はスマホで3番レーンにむかって這う白い靄を追いかけるように動画撮影した。
靄は最初、地面を這うようにゆっくりと移動していたが、次第に吸い上げられる感じで立ち上りながら、スーッとカレの背後数メートルのところまで接近…。
ここで奥村は左手で握ったスマホの焦点を確保しながら、赤ポロのドライバーに向かって走り出した。
とその時、白い靄を振り払うかのように黒い影…、いや長い髪のオンナは現れた。
奥村の両眼は、ノズルを握っている男性ドライバーの真後ろに重なった!
「お客さーん、後ろ‼後ろに誰かいる‼」
奥村は走りながら絶叫した。
その声に気づき、ドライバーは後ろを振り返ると…。
「逃げろー‼やめろー‼」
次の瞬間、3番レーンには3人が棒立ちしていた。
しかし、その数秒後…、”パターン!”という音がスタンド内に響くと、グリーンの給油ノズル2本はコンクリートの土間に落下した。
給油中のノズルを両の手から離したドライバーは、後ろを振り向き、長い髪のオンナと正面を向き合う(見つめ合う?)格好だった。
その男女”二人”はほぼくっつく距離でしばしの間、直立不動のままであったが…、男性ドライバーは顔面蒼白で膝が崩れて、うずくまるように地面にしゃがみ込んでしまう。
”ウソだろ‼”
その斜め後方2メートルのところで、奥村は無意識でその現場をスマホに収めながら、その言葉を胸の内で繰り返していた。
この時点での彼には、その言葉しか出なかったのだが、すでに奥村にはコトの全容は掌握できていた…!
***
ここで奥村は地面に崩れ落ちた男性ドライバーに駆け寄るとその体を両手で支えながら、道路側に向かって大声を発する。
「誰か―‼救急車を呼んでくれー‼人が刺されたんだー‼」
その一声は幸い、通りがかりの通行人や、信号待ちしていた車のドライバーに届き、深刻な事態を認知した彼らによって、消防と警察への通報がはすぐになされた。
「ううっ…」
「大丈夫ですか‼お客さん、今救急車が来ますから‼しっかり…」
奥村の腕の中に納まっていた男性ドライバーは腹部を両手で抑えながら、苦悶の表情でうめき声をあげていた。
奥村の目を見つめて…。
そんな男性ドライバーは、スタンド店員の奥村に何かを伝えたかったのか、その眼は何かを訴えるようであった。
だが、奥村にはおおよその想像はもう察知できていた。
そう…、彼を刃物で刺したのは黒い長髪のオンナ…、彼の妻だったのだから…。
”なんてこった!黒い影は…、長い髪の後姿は、黒いポロシャツの女性じゃなったのかよ‼”
奥村は血だらけのナイフを震えた手で握りながら、夫の腹から流れる真っ赤な血を茫然と見下ろしている…。
「奥さん…!」
「わ、私…、何でここに?あなた…⁉ギャー、わ―‼」
男性ドライバーの妻はここで我に返ったのか、その場に崩れ落ちると、錯乱状態で泣き喚いた。
この間、奥村は男性ドライバーを抱きかかえながら、スマホから店長の橋本へ連絡を済ませた。
やがて、スタンドには救急車とパトカー2台が到着…、もはやスタンド周辺は人だかりで溢れて騒然となっていた。
「店員さん…、刺したのは女房じゃなかったんだ…。ありがとう…、迷惑かけて申し訳ない…。でも…」
「いいんですよ!わかってます、僕には…。お客さん、頑張って…!」
救急車で搬送される数秒間の間、二人は凝縮された短い言葉を交わし合った…。
***
男性ドライバーを乗せた救急車がスタンドから去って、警察が男性ドライバーの妻をパトカー内に連行したところで、店長の橋本が到着した。
「ああ、奥村さん…!いやあ…、大変だったね。刺したのは奥さんだったんだって?ふう…、要はここで浮気相手とペア給油してた女性ドライバーへの嫉妬か…」
「いいえ…、カレを刺したのはここでペア給油してた女性ドライバーの方ですよ。ちなみに彼女…、先々週、交通事故で亡くなってるそうです」
「は…⁇何言ってるんだよ、奥村さん…。とにかく警察には変な証言しないでよ。頼みますよ…。じゃあ、刑事さんにレーンモニターを見てもらうんで、ブースで準備お願いします。とりあえず、警察に挨拶してくるしてくるから…」
橋本が足早に3番レーンから警察官の方に駆けて行った後、奥村は一部始終を撮影したスマホの動画を再生してみた。
”オレは勘違いしてた!あの黒い影は、事故死した後の女性ドライバーだったんだ。そして、生前霊感のあった彼女がカレの奥さんを誘導した…。奥さんも霊感が強かったというから、浮気相手の妻に呪われて死に追いやられたと、黒いポロシャツの女性ドライバーが思いこみながらあの世へ行ったかもしれない。要するに三角関係の女性二人とも、霊能力を恋敵にむけ合っての顛末?だとすれば…”
奥村がスマホで撮った動画の最後…、給油途中のノズル2本からは軽油がコンクリートの土間にあふれ出ていた。
そしてその黒い液体は、赤いポロシャツを着た男性ドライバーの腹からどくどくと流れ落ちている真っ赤な血に向かって行き、やがて赤と黒は重なった。
だが、奥村の目が捉えたそのビジュアルは…!
明らかに黒が赤を呑み込むようにしか映らなかった…。
”黒いポロシャツの女性ドライバーは、本気で不倫相手のドライバーを愛してしまったんだろう…。もしかして…、赤ポロの男性ドライバーも…”
翌日、奥村は男性ドライバーが出血大量で死去したことを知らされる…。
赤を喰らう黒
ー完ー