アイドルの秘密は溺愛のあとで
そして、レバーを回す直前に、私へ目を向ける。
「いいのか?学校、遅れるぞ?」
「本当に話題を逸らすの下手ですねぇ……って!しまった!
今日は早く来てくれって担任の先生から言われてたんでした!では皇羽さん、いってきます!」
「ん、いってらっしゃい」
「(ピタッ)」
何気なしに言った挨拶。当たり前のように玄関を開けようとする手。
全部全部、特別な事なんて一切ない――はずなのに。
「……萌々?おい、どうした。早く行けよ」
「…っ、はいはい。言われなくても!」
バタン
「…、~っ、うっ…ぐす」
ドアを閉めて、扉を背にして…思わず泣いてしまう。
だって、私に「いってらっしゃい」って言ってくれる人がいるなんて。
いつぶりだろう。目を見て、家の中で挨拶を交わせるのは…いつぶりなんだろう。