アイドルの秘密は溺愛のあとで
「…もらったお金で、夢を買おうとした事があったんです。けど、諦めました。夢を買うお金も、私にはもったいなく感じて。結局、買わずに帰りました…それだけです」
「それだけって感じでも、なさそうだけどね」
今まで大人しく頭を撫でられていた玲央さんは、ふいに私を見上げる。茶色の瞳と視線がぶつかった。
「 Ign:s のデビュー曲は、夢を買おうとして諦めた女の子に、突然現れた王子様が女の子を一生守り抜いて幸せにしていくというストーリーだ。
だから、萌々ちゃんはキライなんだね?」
「……そうですよ」
我ながら、幼い理由だけど。
「すごくしんどくて、悲しくてつらかった時期を歌にされて…だけど私とは正反対に、幸せになっていく女の子。
そんな歌を聞こうとは思わないですし、歌うアイドルを好きになろうとは思いません」
「ふぅん」
汚いものに蓋をする――じゃないけど。
Ign:s のデビュー曲を聴くと辛くなるから、あの日の辛くてみじめな自分を思い出してしまうから。
だから私は拒絶している。
Ign:s のデビュー曲を、 Ign:s そのものを。