アイドルの秘密は溺愛のあとで
「アイツ、持ってるカバンが大きい。中に何を入れているか分からない。例えば…包丁とか」
「⁉」
「だから逃げるよ、早く」
人気絶頂中のアイドルに、もしも怪我をさせたら――私の脳裏に不安が過る。
「(包丁かもって言ってた…。もしも玲央さんが刺されたら?もしもどこかへ傷を作ったら?皇羽さんもクウちゃんも、みんな悲しむ…!)」
拳をギュッと握って、自分に喝を入れる。ゆっくりと口を動かせば、何とか喋れそうだった。
「わ、たしの事は…いい、ですから…っ。玲央さんは、早く…逃げて…っ」
「!」
ね?――と震えが止まらない情けない顔で笑うと…玲央さんは「あーもう!」と怒って…私を強引に担ぎ上げた。
「ひゃ…っ⁉」
「こんな時に俺の心配しなくていいんだってば!」
それから玲央さんはグングンとスピードを上げていき、そしてマンションのエントランスまで走り抜く。
私は玲央さんに抱きかかえられたまま、ずっと男の人を見ていた。けど…
私たちが走り出した途端に、男の人は諦めたのか姿を消した。追って来る気配は微塵もない…ということは、助かった…?