恋人たちの疵夏ーキヅナツー

海に誘われた

海に誘われた




「美咲ちゃん、こんちわ」

「あ、薫さん、こんにちわ。さっき電話あって、お姉ちゃん少し遅れるって」

ケイコの中学時代の同級生、薫と絵美がやってきた。

美咲はケイコの妹だ。

「そう。再来週の土日に海に行くから、おけいも誘おうと思ってさ。ここで待ってていい?」

「うん、待ってて。じきに帰ってくると思うから。こら、ジョン、こっちに来なさい」

「わん!わん!」

横田家の愛犬ジョンが、庭先に立っている絵美に寄って行った。

「ジョン、よしよし。・・・、美咲ちゃん、犬好きだねー」

美咲は笑顔でうなずいた。


***


「まあ。二人とも、久しぶり。元気?」

ケイコの母、美沙が洗濯物をしまいに庭に出てきた。

頭をチョンと下げて挨拶する二人の前を歩いて、物干しに向かっていく。

「海に誘ってくれるんだって、お姉ちゃんを」

「そう、連れってってやってねー。やっぱり、中学の時のお友達はいいわねぇ」

美沙は物干しのワイシャツを取り込みながら、娘の旧友にさりげなく、そう話しかけた。

ほどなく、道路側に向いて手を動かしている美沙は、ふと、家の前を通過する高級車に目をやった。

美沙はとっさに、その車にケイコが乗っていることが分かったらしい。

案の定、少しして、ケイコが帰宅してきた…。


***


「ただいまー。おー、薫と絵美、待たせちゃってごめん。何の用だっけ?」

「海にいくから、あんたもって。誘ってくれてるのよ、薫ちゃん達は。あなたも、変なのとばっかりじゃなくて、たまにはちゃんとしたお友達と行ってらっしゃい」

美沙はてきぱきと作業をこなしながら、後ろにいるケイコに突っかかるように話した。

さらに続ける。

「高校に上がったら、ガラ悪いのばっかりと付合ってるでしょ。いやんなっちゃうわ、この子…」

すると、絵美がケイコの母に向かって話しかけた。

「でもおばさん、おけいのおかげなんですよ。最近、不良とかがおとなしくしてるのは…」

薫も口を開いた。

「そう、そう。私の高校のクラスの子なんかも、おけいが南玉連合で各校を仕切るようになってから、道とかでからまれなくなったって言ってるしね」

「お姉ちゃん、ヒーローだもんねー。中学でも有名だよ」

「へへー、そういうこと」

ケイコは、取り込んだ洗濯物を抱えながら、家の中に向かう母の方を向いて言った。

「あー、そうなのー」

ケイコの母は、投げやり気味に軽く受け答えて、家の中に入って
行った。

夫は海外赴任が長く、父親が家にいない生活に慣れた奔放なケ
イコの”近頃”ことは、やはり気にかかっているようだった。


***


「それで、いついくのよ?場所はどこ?」

「再来週の土日に千葉の九十九里。陽子たちも来るって。おけいが行けば、7人かな」

薫が答えた。

「再来週か…」

ケイコが右手で頭をかきながら、呟いた。

「都合悪い?」

絵美がケイコの顔を覗き込むように話しかける。

「うん、大丈夫。入りそうな予定は、まだはっきりしないから。行くよ」

「ほんとー、よかったね」

薫が絵美にホッとしたような表情で言った。


***


「じゃあさ、これから水着見に行かない?去年までの、ちょっときつくなったから、買いたいんだよね。かわいいやつ」

すかさず、妹の美咲がニヤニヤしながら、口をはさむ。

「どんなの買うの-?お姉ちゃん、スケスケのやつとか?」

「そんなの買うか!やっぱり、ナンパされやすい派手な色だな、ビキニで」

美咲はまたニヤニヤしながら、

「ぺちゃぱいでも、色っぽい水着着るとナンパされるのー?」

「やかましい!ガキは犬の世話でもしてろ。じゃあ行くか」

ケイコが二人を誘うと、薫と絵美は同時にうなずいた。

「美咲、お母さんに言っといて。出かけるって。それからチャリンコ借りるわ」

そう言うと、3人は足早に出かけて行った。

「せわしい人だねー、お姉ちゃんは…」

妹の美咲はジョンの首をさすりながら、こう言った。

ケイコがアキラと出会う2週間前…、ケイコの家の庭先での出来事であった。




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