恋人たちの疵夏ーキヅナツー

宝石のような時間

宝石のような時間/その1
ケイコ


ハアハア…

やっと上までたどり着いたよ

この長い石段、体調悪い時にはきついわ

暑さも半端じゃないし…

「おけい、大丈夫?汗かいてるし、顔色も悪いけど」

今日、逆髪神社には中学時代の友人、絵美と一緒に来た

「うん、ちょっとだるいけど平気だよ」

とはいえ、かなりの”倦怠感”だ…

セミの鳴き声、アタマにガンガン響くよ

地面に落ちてきたら、羽根むしってブン投げそうだ

うるせーって…

ヤバい…

変に研ぎ澄まされてきてるわ、アタマが

やっぱり”アレ”の副作用かな…


...



私たち二人は賽銭箱に百円玉を投げ込み、手を合わせた

”どうか、大阪が無事終わって、アキラが元気で戻りますように…。私のところに…、それから…”

そういえば小っちゃい頃、お正月にここ来てよく手を合わせてたな

こんなに具体的に願ったのは、今回が初めてかも知れない

いつも、いい年になりますようにとか、漠然としてたもん

「何、お祈りしてたの?ずいぶん長く、手を合わせてたね」

「まあ、いろいろだわ…。学校とか、ええと…、友人関係のこととか…」

私がいつになく歯切れが悪いのを、絵美はなんとなく感づいてるようだ

「…私たちと違って、大変なんだよね、おけいは」

絵美のさりげない気遣いの言葉にも、今日の私は咄嗟に反応が出ない


...



私たちはそのあと、駅前の喫茶店に入った

「そうだ、再来週の日曜日、海の時の人たちと豊島園行くことになったんだ。おけいも行かない?」

再来週の日曜日は、大阪からアキラの帰りを待ってる日だ…

「悪い、この日は予定入ってるんだよね。皆は行くの?薫とかも?」

絵美は紅茶に砂糖を入れながら、答えた

「あのね…、薫はこの前、写真で集まった時に来なかったお兄さんが来れば行くって。向こうは誘うって言ってたから、お兄さんたち、今度は6人全員かも」

えっ…?

そのお兄さんって、アキラだろうーが

薫…、残念だがアキラはその日、大阪だから行けないんだ

「そう…。私だけいつも欠席でゴメンな、絵美…」

「ううん、おけいは忙しいの分かってるから」

こう言ってから、絵美は涼しげな笑顔で、私の顔をじっと見つめながら聞いた

「あのさ、違ってたら謝るけど、おけい、好きな人できた?」

アイスティーをストローで口に運んでいた、私の目は点になった

相変わらず何気に勘が鋭いわ、この絵美は

「なんだよ、いきなり。まあ、私、通りがかりの人でもいきなり好きになっちゃうくらいだから、どうかな。暑いしな今、ちょうど…、ハハハ…」

どうも、今日は何言ってもこんなだわ…

「そうか、やっぱりいるんだねえ。わかるよ、私。でも、羨ましいな。おけいが好きになる人、どんな人なのかな。その内、紹介してね。薫と一緒に会いに行くからさ…」

いくら勘のいい絵美でも、その人が”海の時”のお兄さんとは気づいていないようだ

でも、薫がアキラに気があるとしたら、今、絵美には言っといた方がいいのかな

とは言え、現状の私ら、かなり込み入った事情抱えてるからね…

ゴメン、薫、それに絵美…

”一段落”ついたら、親友のお前らにはキチンと話すよ


...



陽射しが厳しくなった昼前、私たちは喫茶店を出て別れた

だるいだけでなく、アタマもボ-っとしてる

やたら陽射しはまぶしくて、瞳孔開いてるくらいだ

太陽がいっぱいって感じだし、ハハ…

はあ…、早く帰ろう、アパートに

夕方にはアキラが来てくれるんだし

少しは気分良くなるさ

私たちは、”大阪”の日まで、できる限り一緒にいようって約束していた

きっとそれは、”宝石のような時間”になると思う






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