恋人たちの疵夏ーキヅナツー
惨夜の一室/その10
アキラ
麻衣はバスタオルで、短めのやや茶ばんだ色の髪を、キュッキュッしてる
「私のこと、そんな目で見てくれてうれしいよ。マネキンみたいだったもんな、あんたの目」
「…」
「今、アンタが私に何しても、誰も呼ばないよ。気づかれないようにしててやるよ。やりたいように、やってみなよ」
オレはギリギリだった
こいつは、別に誘ってはいない、試してるだけだ
なら、まんまと乗ってしまってはどうなのか
15、6の小娘でも、こいつは鬼みたいな女だ
また何かを企んでいても不思議じゃない
でも、このままじゃ収まらない…
すると、麻衣はカウンターチェアに掛けて、足を組んだ
短パンで露わになっている太ももを重ねて、やや小声で言った
「こんなのどうだ?私はアンタの大事なもん、みんな奪った。憎いよな、普通…、」
ふと感じたが、この麻衣は、いつも視線がまっすぐだ
相手がだれであろうと…、ぶつかってくる、真正面から
はらわた煮えくり返るくらいのヤツだが、これは認める
「実は、アレやめる気なんだ。死んだ相馬会長の条件でもあるし。フフ、おけいより量やってるから、半端じゃないだろうけどな。のたうちまわると思うよ。どうよ?そんな私の姿、観たくないか?]
「観たいね、是非」
反射的にオレは答えた
コイツがのたうって苦しむ姿眺めるのも、一興だ
場合によっちゃ、そこで”やって”やればいい
「じゃあ、さっき控えた電話番号に連絡する。その局面きたらさ。近々なのは間違いないよ。まあ、その前にサツ行きの展開になるかもしれないけど」
麻衣の目は、なんでこんななんだよ
やっぱり、今日はこのまま帰ろう
「もう帰っていいか?」
「ああ。電話、絶対出ろよ。こいよ、それで」
「わかった」
...
なにか、一秒でも早くココを出たかった
音の出ないギターを肩に背負い、オレは悪夢の一室から退散した
扉の外の空気は、いつになく特別な感じがする
真夏ののどかな晴天の日曜日、時間は10時過ぎか…
...
表通りの坂道に出ると、シャボン玉を吹きながら坂を上ってくる親子とすれ違った
”シャボン玉とんだ、屋根まで飛んだ…”
若い母親と女の子が、手をつないで歌ってる
抜けるような青い空に次々、風にそよがれていくシャボン玉
屋根まで飛んでいって、壊れて消えるシャボン玉…
今さらながらだが、淡く、はかないんだな…、シャボン玉の光って…
オレはしばらくの時間、足を止めて見上げていた
アキラ
麻衣はバスタオルで、短めのやや茶ばんだ色の髪を、キュッキュッしてる
「私のこと、そんな目で見てくれてうれしいよ。マネキンみたいだったもんな、あんたの目」
「…」
「今、アンタが私に何しても、誰も呼ばないよ。気づかれないようにしててやるよ。やりたいように、やってみなよ」
オレはギリギリだった
こいつは、別に誘ってはいない、試してるだけだ
なら、まんまと乗ってしまってはどうなのか
15、6の小娘でも、こいつは鬼みたいな女だ
また何かを企んでいても不思議じゃない
でも、このままじゃ収まらない…
すると、麻衣はカウンターチェアに掛けて、足を組んだ
短パンで露わになっている太ももを重ねて、やや小声で言った
「こんなのどうだ?私はアンタの大事なもん、みんな奪った。憎いよな、普通…、」
ふと感じたが、この麻衣は、いつも視線がまっすぐだ
相手がだれであろうと…、ぶつかってくる、真正面から
はらわた煮えくり返るくらいのヤツだが、これは認める
「実は、アレやめる気なんだ。死んだ相馬会長の条件でもあるし。フフ、おけいより量やってるから、半端じゃないだろうけどな。のたうちまわると思うよ。どうよ?そんな私の姿、観たくないか?]
「観たいね、是非」
反射的にオレは答えた
コイツがのたうって苦しむ姿眺めるのも、一興だ
場合によっちゃ、そこで”やって”やればいい
「じゃあ、さっき控えた電話番号に連絡する。その局面きたらさ。近々なのは間違いないよ。まあ、その前にサツ行きの展開になるかもしれないけど」
麻衣の目は、なんでこんななんだよ
やっぱり、今日はこのまま帰ろう
「もう帰っていいか?」
「ああ。電話、絶対出ろよ。こいよ、それで」
「わかった」
...
なにか、一秒でも早くココを出たかった
音の出ないギターを肩に背負い、オレは悪夢の一室から退散した
扉の外の空気は、いつになく特別な感じがする
真夏ののどかな晴天の日曜日、時間は10時過ぎか…
...
表通りの坂道に出ると、シャボン玉を吹きながら坂を上ってくる親子とすれ違った
”シャボン玉とんだ、屋根まで飛んだ…”
若い母親と女の子が、手をつないで歌ってる
抜けるような青い空に次々、風にそよがれていくシャボン玉
屋根まで飛んでいって、壊れて消えるシャボン玉…
今さらながらだが、淡く、はかないんだな…、シャボン玉の光って…
オレはしばらくの時間、足を止めて見上げていた