少女達の青春群像 ~舞、その愛~
舞の勢いに、2人は圧倒された。
「わ、わかっているって。舞は早く川崎君と恋人同士になって、一緒に登下校したりしたいんだよね」
慌てて言った歩の言葉に、舞は黙って頷いた。
そんな舞の耳元で、響歌が楽しそうに囁いた。
「ねぇ、舞ちゃ~ん。私から言わせてもらうとね。どうせあんたの頭の中では、既に川崎君との素敵な愛の物語が進行中なんでしょう。いいじゃない、それだけでも。空想の中だけの方が、かえっていいわよ。現実の彼を見つめながら、頭の中で想像を膨らませて楽しむ。それだけじゃ、ダメなの?でも、それが一番楽しめる方法よ。つき合ってしまえば色々と楽しいこともあるけど、苦しいこともいっぱいあるのよ。川崎君の知りたくなかった一面も、きっといっぱ~いあるんだろうなぁ。舞ちゃんはそれに耐えられるかなぁ?」
問われた舞は絶句し、歩も引き気味だ。
「き、響ちゃん。それはちょっと、友達への言葉としては…」
「まぁ、いいじゃないの、歩ちゃん。それとね、舞。知っている?」
「な、何を…」
「舞のように表ではすました顔をして、裏では好きな人とイヤらしいことをあれこれ想像している人のことを、世間では『ムッツリスケベ』と言います」
「イ、イヤらしいって、ムッツリって!」
響歌の言葉に、舞はパニック状態に陥った。
だが、響歌は構わずに続ける。
「ムッツリというのを略して『ムッチー』。あんたのこれからのあだ名はこれで決まりね」
さっきまで呆れていた歩も、この展開には笑わずにはいられず思いっきり吹き出してしまった。
「嫌だよぉ、そんなあだ名」
いきなり変なあだ名をつけられてしまい、舞はうなだれた。
「アハハハ、ムッチーって、アハハハハッ、それ、それいい、賛成!」
歩の笑いながらのこの言葉で、舞のことを『ムッチー』と呼ぶことがほぼ決定になってしまった。
「あ、歩ちゃ~ん」
舞は勘弁して欲しかったが、それでもこうなると当分はそのあだ名で呼ばれるであろうことが彼女にもわかってしまった。
…わかりたくはないことだったが。
「いいわよ、こうなったら『ムッチー』でもなんも呼べばいいわよ。でもね、私がテツヤ君と結ばれた時には、絶対にその呼び名は止めてもらうから!」
舞に怒りの表情で見据えられた響歌だったが、彼女の方は可笑しそうな表情のままだ。
「もちろん、そうなった時には止めてあげるわよ。こうなったら川崎君と早く結ばれるしかないわよね、ムッチー」
「もー、覚えておいてよ、響ちゃん」
「はい、はい。わかった、わかった」
響歌は舞の怒りをものともせず受け流すと、今度は歩に向かう。
「そういえば歩ちゃんは小道具係だったよね。そっちの進行状況はどうなの?」
「私達の方は順調だよ。今も大道具の方が大変そうだから、何か手伝えることがないかなぁって見に来たんだ」
あぁ、だから家庭科室に籠って小道具を作成しているはずの歩ちゃんがここにいたのか。
納得する舞の隣で、響歌が丁度良かったといった感じで歩の肩を叩いた。
「じゃあさ、大道具というわけではないんだけど、オオカミ役の人が使う道具を一緒に作ってよ」
「うん、いいよ」
なんの疑いも無く頷く歩。
「最初は私だけでいいかと思っていたんだけど、中葉君の注文のせいでややこしくなりそうだったから人手が欲しかったのよね」
「中葉君って、細かそうな人だとは思っていたけど、本当にそうなんだ」
「そうなのよ。自分に対してだけこだわってくれるのならいいけど、人に対してもそうなのは勘弁して欲しいわ」
自分を除いて会話を進めていく2人に居心地の悪さを感じた舞は、自分も何か役目をもらおうとおずおずと切り出した。
「あの、私は何をすれば…」
「もちろんさっきの続きをしてもらうに決まっているでしょ。それが最も遅れているんだから。しかもムッチーのせいで背景の1枚が無駄になっちゃったのよ」
「で、でも、今はさっちゃんが…」
いくら舞が戻って作業をしたくても、そこには怒りの魔人と化した紗智がいる。そんなところにはなかなか戻る勇気が出ない。
何しろ紗智は、このクラスの中で怒らせたら恐ろしい人ナンバーワンの人物なのだ。いくら友達でも、そんな状態の彼女の近くに行くのは遠慮したい。しかも怒らせたのは自分自身。このまま大道具係には加わらず、自分も響歌達と一緒にオオカミ役の衣装を作りたいというのが本音だ。
だが、響歌がそれを許さなかった。
「だーかーら、さっちゃんには私からフォローしておくって言ったでしょ。今、さっちゃんの傍にはまっちゃんもいるはずだし、ムッチーにはやりやすい環境のはずよ。もうちょっと人手が欲しいから、後で私から他の人にも頼んでおくしね」
「本当に大丈夫かなぁ」
ちょっとまだ心配だけど…まぁ、まっちゃんもいるのなら、さっきよりかは大丈夫なのかな。
「じゃあ、私はさっちゃんのところに行ってムッチーの作業をもらってくるから。ちょっと待っていてね」
響歌はそう言い残すと、廊下の端の方に姿が見える紗智のところに走っていった。
「わ、わかっているって。舞は早く川崎君と恋人同士になって、一緒に登下校したりしたいんだよね」
慌てて言った歩の言葉に、舞は黙って頷いた。
そんな舞の耳元で、響歌が楽しそうに囁いた。
「ねぇ、舞ちゃ~ん。私から言わせてもらうとね。どうせあんたの頭の中では、既に川崎君との素敵な愛の物語が進行中なんでしょう。いいじゃない、それだけでも。空想の中だけの方が、かえっていいわよ。現実の彼を見つめながら、頭の中で想像を膨らませて楽しむ。それだけじゃ、ダメなの?でも、それが一番楽しめる方法よ。つき合ってしまえば色々と楽しいこともあるけど、苦しいこともいっぱいあるのよ。川崎君の知りたくなかった一面も、きっといっぱ~いあるんだろうなぁ。舞ちゃんはそれに耐えられるかなぁ?」
問われた舞は絶句し、歩も引き気味だ。
「き、響ちゃん。それはちょっと、友達への言葉としては…」
「まぁ、いいじゃないの、歩ちゃん。それとね、舞。知っている?」
「な、何を…」
「舞のように表ではすました顔をして、裏では好きな人とイヤらしいことをあれこれ想像している人のことを、世間では『ムッツリスケベ』と言います」
「イ、イヤらしいって、ムッツリって!」
響歌の言葉に、舞はパニック状態に陥った。
だが、響歌は構わずに続ける。
「ムッツリというのを略して『ムッチー』。あんたのこれからのあだ名はこれで決まりね」
さっきまで呆れていた歩も、この展開には笑わずにはいられず思いっきり吹き出してしまった。
「嫌だよぉ、そんなあだ名」
いきなり変なあだ名をつけられてしまい、舞はうなだれた。
「アハハハ、ムッチーって、アハハハハッ、それ、それいい、賛成!」
歩の笑いながらのこの言葉で、舞のことを『ムッチー』と呼ぶことがほぼ決定になってしまった。
「あ、歩ちゃ~ん」
舞は勘弁して欲しかったが、それでもこうなると当分はそのあだ名で呼ばれるであろうことが彼女にもわかってしまった。
…わかりたくはないことだったが。
「いいわよ、こうなったら『ムッチー』でもなんも呼べばいいわよ。でもね、私がテツヤ君と結ばれた時には、絶対にその呼び名は止めてもらうから!」
舞に怒りの表情で見据えられた響歌だったが、彼女の方は可笑しそうな表情のままだ。
「もちろん、そうなった時には止めてあげるわよ。こうなったら川崎君と早く結ばれるしかないわよね、ムッチー」
「もー、覚えておいてよ、響ちゃん」
「はい、はい。わかった、わかった」
響歌は舞の怒りをものともせず受け流すと、今度は歩に向かう。
「そういえば歩ちゃんは小道具係だったよね。そっちの進行状況はどうなの?」
「私達の方は順調だよ。今も大道具の方が大変そうだから、何か手伝えることがないかなぁって見に来たんだ」
あぁ、だから家庭科室に籠って小道具を作成しているはずの歩ちゃんがここにいたのか。
納得する舞の隣で、響歌が丁度良かったといった感じで歩の肩を叩いた。
「じゃあさ、大道具というわけではないんだけど、オオカミ役の人が使う道具を一緒に作ってよ」
「うん、いいよ」
なんの疑いも無く頷く歩。
「最初は私だけでいいかと思っていたんだけど、中葉君の注文のせいでややこしくなりそうだったから人手が欲しかったのよね」
「中葉君って、細かそうな人だとは思っていたけど、本当にそうなんだ」
「そうなのよ。自分に対してだけこだわってくれるのならいいけど、人に対してもそうなのは勘弁して欲しいわ」
自分を除いて会話を進めていく2人に居心地の悪さを感じた舞は、自分も何か役目をもらおうとおずおずと切り出した。
「あの、私は何をすれば…」
「もちろんさっきの続きをしてもらうに決まっているでしょ。それが最も遅れているんだから。しかもムッチーのせいで背景の1枚が無駄になっちゃったのよ」
「で、でも、今はさっちゃんが…」
いくら舞が戻って作業をしたくても、そこには怒りの魔人と化した紗智がいる。そんなところにはなかなか戻る勇気が出ない。
何しろ紗智は、このクラスの中で怒らせたら恐ろしい人ナンバーワンの人物なのだ。いくら友達でも、そんな状態の彼女の近くに行くのは遠慮したい。しかも怒らせたのは自分自身。このまま大道具係には加わらず、自分も響歌達と一緒にオオカミ役の衣装を作りたいというのが本音だ。
だが、響歌がそれを許さなかった。
「だーかーら、さっちゃんには私からフォローしておくって言ったでしょ。今、さっちゃんの傍にはまっちゃんもいるはずだし、ムッチーにはやりやすい環境のはずよ。もうちょっと人手が欲しいから、後で私から他の人にも頼んでおくしね」
「本当に大丈夫かなぁ」
ちょっとまだ心配だけど…まぁ、まっちゃんもいるのなら、さっきよりかは大丈夫なのかな。
「じゃあ、私はさっちゃんのところに行ってムッチーの作業をもらってくるから。ちょっと待っていてね」
響歌はそう言い残すと、廊下の端の方に姿が見える紗智のところに走っていった。