少女達の青春群像 ~舞、その愛~
逃げる日々
舞が中葉を再び振ったあの日から2週間が過ぎていた。
それでも順調に別れられたわけではなかった。やはり中葉は納得していなくて、舞と話をしようとしたり舞の机に交換日記を入れている。
交換日記の方はまだいいのだが、さすがに追いかけられるのは勘弁して欲しい。
そう…中葉は登下校中、舞を追いかけてくるのだ。
登校中は一度だけだったが、下校時に来るのである。
舞と一緒に登下校していた響歌はそれに巻き込まれていた。たった一度だけ登校中に中葉が舞を追いかけてきたことがあったが、その時なんて舞に置き去りにされたのだ。舞は響歌だけをそこに残してさっさと先に行ってしまった。その場に取り残された響歌は、舞に逃げられた恨みもあり、つい中葉に厳しい言葉を吐いてしまった。
それでも中葉は懲りずに舞を追いかけていた。日記にも『4時の電車で帰らないで』と懇願していた。
舞と響歌は中葉に捕まりたくなかったので4時台の電車で帰っていた。一刻も早く平良木から離れたいといった理由もあるが、その時間は比良木高生が一番多い時間帯。人込みに紛れ込めたりして中葉を振り切れるのだ。
ただ、その4時台の電車は6時間目が終わってから1時間経たないと来ない。これまでなら4時台の電車で帰る場合、30分かけて駿河駅まで歩いていたのだが、そこだと利用している生徒が少ないので中葉に捕まる可能性が高まってしまう。彼に捕まらないように早めに校舎を出ているのに、駅で捕まってしまったらなんにもならない。
だから2人は、校舎からは出るものの、正門には行かずに裏手にある焼却炉の前で時間を潰していた。そこには焼却炉だけではなくて人が座れるような段差があるのでかなり楽に過ごせられる。掃除の時間以外はまったく人が来ないということもポイントが高い。しかもなんと正門を通らずに通学路に出られる道がその傍にあるのだ。
ただ一つマイナスな点を挙げるなら、そこから墓石が見えることだろうか。
中葉から逃げる為に見つけた場所だったが、2人はこの場所が気に入ってしまった。響歌の方は天気がいい日だと5組のグループみんなでお弁当を食べることもある。
それと、これは良い子のみんなは絶対に真似をしてはいけないことなのだが、2人は学校をサボる時にもここを利用していた。
どういうことかというと、電車から降りて学校に向かっている時、どちらかの口から学校に行きたくないといった言葉が出ることがあるのだ。普通なら、もう片方はそんな彼女を励まして授業を受けさすのだろうが、この2人の場合は違う。なんともう片方もそれに同意をする時があるのだ。そうなると、この日は学校をサボって遊びに行く日に決定。正門をくぐりこそするものの、始業開始のベルが鳴るまで焼却炉の前で待機。そしてそのまま通学路に通じる道を通って駿河駅に行くのである。
駿河駅にさえ来れば、もうこっちのもの。それぞれの担任宛に伝わるよう学校に病欠の連絡を入れた後、晴れて自由な時間となるのだ。
とまぁ、かなり話が脱線してしまったが、そういったように色々利用させてもらっていた。
しかしここは、やはり放課後での利用率が最も高い場所だった。ここで電車の到着時間10分前まで待ち、その時間が来ると平良木駅に向かう。
平良木駅に着きさえすれば中葉を振り切れる。それまでに捕まらないよう、駅までの道は走ることはなくても早足になっていた。
そんな生活に変わったからか、下校中に川崎に会うことが多くなっていた。
今日も駅へと続く坂道のところで川崎に会った。
「あれ、川崎君。今日も4時の電車で帰るんだ。最近よく会うよね」
もちろん川崎に声をかけるのは響歌だ。
「オレは前から用事が無い限り4時で帰っているから。あんたらが時間を変えたからだろ。いつも大変そうだな」
川崎は2人と中葉の追いかけっこを楽しんでいた。今も口では大変そうだと言っているが、その顔は笑っている。
「他人事だと思って。コッチは本当にいつも大変なんだからね。なんで私達がこんな目に遭わなくてはいけないのよ。こうなったのも、全部ヌラリンのせいで…あっ!」
川崎と話している最中、響歌の口が滑ってしまった。
今までずっと黙って聞いていた舞も、この時は慌てた。
「ちょ、ちょっと響ちゃん!」
話の流れからして、該当する人物は1人しかいない。
「なんだ、中葉のことをヌラリンって呼んでいるのか」
あっさりと川崎に当てられてしまった。
響歌の方も、ここまできたら誤魔化すつもりは無い。
「まぁ、そうなのよ。隠しているつもりも無いんだけどね。あの人って最近散髪していないのか、頭の形が横から見たらボコって膨れているでしょ。それがどうも一時期アニメでやっていた妖怪のヌラリヒョンに似ているから、略してヌラリンと呼ぶようになったのよ。さすがにここまでされると、もう君付けでは呼びたくないから」
あっさりとヌラリンになった経緯まで説明している。
まぁ、さらに略して『ヌラ』と呼ぶようにもなったけどね。
心の中で突っ込むのは舞だ。
そうしながらも、その目は川崎に釘づけだ。
やっぱりテツヤ君って、カッコイイ!
中葉から逃げる日々だというのに、やはり舞は舞だった。
この日から川崎も、響歌達の前では中葉のことを『ヌラリン』と呼ぶようになってしまった。
それでも順調に別れられたわけではなかった。やはり中葉は納得していなくて、舞と話をしようとしたり舞の机に交換日記を入れている。
交換日記の方はまだいいのだが、さすがに追いかけられるのは勘弁して欲しい。
そう…中葉は登下校中、舞を追いかけてくるのだ。
登校中は一度だけだったが、下校時に来るのである。
舞と一緒に登下校していた響歌はそれに巻き込まれていた。たった一度だけ登校中に中葉が舞を追いかけてきたことがあったが、その時なんて舞に置き去りにされたのだ。舞は響歌だけをそこに残してさっさと先に行ってしまった。その場に取り残された響歌は、舞に逃げられた恨みもあり、つい中葉に厳しい言葉を吐いてしまった。
それでも中葉は懲りずに舞を追いかけていた。日記にも『4時の電車で帰らないで』と懇願していた。
舞と響歌は中葉に捕まりたくなかったので4時台の電車で帰っていた。一刻も早く平良木から離れたいといった理由もあるが、その時間は比良木高生が一番多い時間帯。人込みに紛れ込めたりして中葉を振り切れるのだ。
ただ、その4時台の電車は6時間目が終わってから1時間経たないと来ない。これまでなら4時台の電車で帰る場合、30分かけて駿河駅まで歩いていたのだが、そこだと利用している生徒が少ないので中葉に捕まる可能性が高まってしまう。彼に捕まらないように早めに校舎を出ているのに、駅で捕まってしまったらなんにもならない。
だから2人は、校舎からは出るものの、正門には行かずに裏手にある焼却炉の前で時間を潰していた。そこには焼却炉だけではなくて人が座れるような段差があるのでかなり楽に過ごせられる。掃除の時間以外はまったく人が来ないということもポイントが高い。しかもなんと正門を通らずに通学路に出られる道がその傍にあるのだ。
ただ一つマイナスな点を挙げるなら、そこから墓石が見えることだろうか。
中葉から逃げる為に見つけた場所だったが、2人はこの場所が気に入ってしまった。響歌の方は天気がいい日だと5組のグループみんなでお弁当を食べることもある。
それと、これは良い子のみんなは絶対に真似をしてはいけないことなのだが、2人は学校をサボる時にもここを利用していた。
どういうことかというと、電車から降りて学校に向かっている時、どちらかの口から学校に行きたくないといった言葉が出ることがあるのだ。普通なら、もう片方はそんな彼女を励まして授業を受けさすのだろうが、この2人の場合は違う。なんともう片方もそれに同意をする時があるのだ。そうなると、この日は学校をサボって遊びに行く日に決定。正門をくぐりこそするものの、始業開始のベルが鳴るまで焼却炉の前で待機。そしてそのまま通学路に通じる道を通って駿河駅に行くのである。
駿河駅にさえ来れば、もうこっちのもの。それぞれの担任宛に伝わるよう学校に病欠の連絡を入れた後、晴れて自由な時間となるのだ。
とまぁ、かなり話が脱線してしまったが、そういったように色々利用させてもらっていた。
しかしここは、やはり放課後での利用率が最も高い場所だった。ここで電車の到着時間10分前まで待ち、その時間が来ると平良木駅に向かう。
平良木駅に着きさえすれば中葉を振り切れる。それまでに捕まらないよう、駅までの道は走ることはなくても早足になっていた。
そんな生活に変わったからか、下校中に川崎に会うことが多くなっていた。
今日も駅へと続く坂道のところで川崎に会った。
「あれ、川崎君。今日も4時の電車で帰るんだ。最近よく会うよね」
もちろん川崎に声をかけるのは響歌だ。
「オレは前から用事が無い限り4時で帰っているから。あんたらが時間を変えたからだろ。いつも大変そうだな」
川崎は2人と中葉の追いかけっこを楽しんでいた。今も口では大変そうだと言っているが、その顔は笑っている。
「他人事だと思って。コッチは本当にいつも大変なんだからね。なんで私達がこんな目に遭わなくてはいけないのよ。こうなったのも、全部ヌラリンのせいで…あっ!」
川崎と話している最中、響歌の口が滑ってしまった。
今までずっと黙って聞いていた舞も、この時は慌てた。
「ちょ、ちょっと響ちゃん!」
話の流れからして、該当する人物は1人しかいない。
「なんだ、中葉のことをヌラリンって呼んでいるのか」
あっさりと川崎に当てられてしまった。
響歌の方も、ここまできたら誤魔化すつもりは無い。
「まぁ、そうなのよ。隠しているつもりも無いんだけどね。あの人って最近散髪していないのか、頭の形が横から見たらボコって膨れているでしょ。それがどうも一時期アニメでやっていた妖怪のヌラリヒョンに似ているから、略してヌラリンと呼ぶようになったのよ。さすがにここまでされると、もう君付けでは呼びたくないから」
あっさりとヌラリンになった経緯まで説明している。
まぁ、さらに略して『ヌラ』と呼ぶようにもなったけどね。
心の中で突っ込むのは舞だ。
そうしながらも、その目は川崎に釘づけだ。
やっぱりテツヤ君って、カッコイイ!
中葉から逃げる日々だというのに、やはり舞は舞だった。
この日から川崎も、響歌達の前では中葉のことを『ヌラリン』と呼ぶようになってしまった。