少女達の青春群像 ~舞、その愛~
川崎と別れてからも、舞と響歌は宮内にいた。
最近は比良木でゆっくりとできない分、ここでゆっくりしてから帰っている。
それと気分転換として、趣味のサークルを立ち上げる準備をしていた。そのサークルとは、バレーボールの全日本男子の私設ファンクラブだ。
実は舞も響歌も男子バレーが大好き。好きな選手はそれぞれ違うのだが、テレビでバレー中継があった翌日はバレー談義に花を咲かせていた。
響歌は既にある選手の私設ファンクラブに入っているのだが、全日本の方はまだ入っていない。だからこの際、自分でやってみようという気になったのだ。中葉とのことで苛々していたので、好きなことをして発散させるのもいいんじゃないかと思ったのもある。そこで舞にも声をかけてみた。
すると舞が超乗り気になったので、2人でファンサークル活動をすることになったのだ。
サークルの内容は簡単にいうと全日本男子の応援だ。もちろん現地に行って応援するし、2カ月に1回の会報発行。その他にもホームページを作ったりと、することが色々あった。
バレー雑誌やネット等で募集をかけたところ、ありがたいことに全国から問い合わせがあり、その対応に追われている。だから余計に中葉に構っている暇は無いのだ。
「響ちゃん、凄いよ。オランダに住んでいる人からも連絡が届いている。この人って、オランダチームのことは関心が無いのかな。日本人みたいだけど、一応住んでいるところだよね?」
「オランダに住んでいるからといって、そのチームのことを好きになるとは限らないでしょ。私だって日本以外ではロシアのチームが好きだもの。それと一緒よ。それにしても北海道は何個かあったけど、沖縄は0よ、0。これって、なんでなのかしらね。バレーが盛んじゃないのかしら。そういえば国内リーグも、北海道では何回かしているけど、沖縄ではやっていないよね」
2人はショッピングセンターのフードコートの一角を陣取り、そういった会話をしていた。そこで夕飯を食べながらサークル活動をしているのだ。
今日の舞の夕飯はお好み焼き。響歌は広島焼だ。それを2人でわけあって食べながら作業を進めている。
それでも一旦作業の方の手を止めて食事に集中することにした。
「あ~あ、いったいいつになったらみんなと放課後にゆっくり過ごせられるんだろう。せっかくまっちゃんと仲直りもしたのに、これじゃあねぇ」
舞が夕飯を食べながら溜息を吐いた。
響歌の方は黙々と食べている。
「それにしてもまっちゃんって、すぐに傷つくけど、立ち直るのも早かったね。というよりも新たな男が現れたせいかな。いきなり4組に来て『ムッチーの言う通りだったよ。やっぱり勇気を出して話しかけないとダメだったんだ。参考になったよ。本当にごめんね』なんて言ってくるんだもの。あの時は凄く驚いたよ。あの言い方って、他の男で試してみたら仲良くなれたって取れるよね」
話しているうちに、さっきまでの表情が嘘のように生き生きしだした。
相変わらず響歌は黙々と食べているが…
「響ちゃん、少しは話に乗ってきてよ。1人で話している自分がバカみたいじゃない。特に今は響ちゃんくらいとしか乙女トークができないんだからさぁ」
「だって、お腹が空いているんだもの」
「響ちゃんって、本当に色気より食い気だよね。私達はまだ若くてピチピチなんだから、もっと違う方向に情熱を注ぐべきでしょ!」
舞は響歌を奮い立たせようとしているが、響歌はまったく乗ってこない。
「そのお陰で、鬼ごっこをする日々になっているんだけどね」
そう返されると、舞の方は肩身が狭くなってしまう。
「その話をしないでよ。せっかくのいい気分が台無しになるじゃない。特に今は楽しい楽しい食事の時間なんだからさ。あっ、ねぇ、響ちゃんの方は最近どうなの。橋本君とまったく話さなくなったし、やっぱり黒崎君の方に戻ったとか?」
舞が質問すると、響歌が食べる口を止めて箸を置いた。
「そうねぇ、相変わらず橋本君は機嫌が悪いみたいだしねぇ。私も方向転換して違う人を好きになってもいいのかもねぇ。えぇ、たとえば川崎君とか…」
「えぇっ!」
響歌の言葉に、舞は目を見開いた。
「きょ、きょ、きょ、きょ…」
響歌の名前を言いたいのだろうが、動揺して『きょ』で何回も止まっている。
この舞の様子に、響歌は確信した。
やっぱり…ね。前々から怪しいとは思っていたのよ。
「ムッチーさぁ、あんたの方こそ、中葉君から川崎君に戻っているでしょ?」
「っ!」
この瞬間、舞は再び石像化した。
「ま、最近は川崎君と話す機会が多くなっているからね。それに流されたっていうようなものなのかしら。それでも川崎君に行くのなら、その前にヌラリンとの関係にきちんとピリオドを打つべきだと思うけど?」
響歌は舞の好きな人が川崎に戻った前提で話している。
「そんなことを言われても、私からはもう無理だよ。何を言ってもまったく納得してくれていないじゃない。これ以上どうしようもないよ。だからこうして逃げる日々を送る羽目になっているんだから」
「あの人も本当にしつこいよね。すっぱりと諦めた方が、自分の為にもいいはずなのに。こんな生活、あの人だって嫌だろうと思うのにね。できればムッチーの傍には、女の私よりも男がいた方がいいのだけど。でも、川崎君にも断られたからなぁ。他の男子も、どう考えても断るだろうし…」
響ちゃんってば、なんだか妙なことを言い始めたわよ。
まさか本気で私の彼氏を見つけようとしているの?
「さっきのテツヤ君との会話って、冗談だったんじゃないの。まさか本気でテツヤ君を私の彼氏にしてくれようとしていたの?」
「あぁ、さっきのね。あれは半分以上冗談だったわよ。思い出してみなさいよ。完璧にそんな空気だったでしょうが。ま、川崎君が面白がって乗ってくれたらラッキーだったんだけど。さすがにそう簡単にはいかないか。誰だって、あの人と関わりたくはないもんね」
焦る舞とは違い、あっけらかんと言う響歌。
それでも呑気そうに見えたのはここまでだった。響歌の目に真剣な光が宿る。
「で、ムッチー、やっぱりそうなのね。あんたの好きな人は川崎君に戻った。そう判断していいのね?」
「えっ、え~と…その…」
響歌の出す真剣な雰囲気に、舞は完全にのまれていた。
「…そうかもしれない」
言い逃れができないことを悟ると、首を垂れて認めた。
「まぁ、もしかしたらの話だけど、あんたは心の奥底ではずっと川崎君のことを想っていたのかもしれないわよ。だからそんなにしょげることないでしょ」
「だって、響ちゃん。テツヤ君は相変わらずとってもカッコイイんだもの。惚れるな、という方が無理なんだよ。って、あれ?響ちゃんって、今変なことを言ったよね。本当はテツヤ君のことがずっと好きだったって…」
「変なことを言ったつもりはないわよ。私は真実を述べただけ」
「真実っていうのは、本当はあの人じゃなくてテツヤ君を…」
「そこ、そこよ。ムッチーさぁ、気づいているの。あんたって、つき合っていたにも関わらず、ヌラリンのことは『中葉君』呼びのままだったわよ。普通は名前で呼んだりするでしょうが。あの人だって、初めは『ムッチー』だったけど、つき合ってからは『舞』って呼んでいたわよ」
…あ。
響歌の指摘は鋭かった。
「そ、そういえばそうだよね。なんでずっと苗字で呼んでいたんだろう。あの人に言われていなかったからかな。私だって頼まれていたら名前で呼んでいたはずで…」
「その割には、川崎君のことは初っ端から『テツヤ君』呼びだったけど?」
「っ!」
そういえば…そうだわ。
私ってば、最初から今までテツヤ君のことはテツヤ君呼びだったけど、あの人のことはつき合っていたにも関わらず苗字で呼んでいた。
名前で呼びたいとも思わなかった!
「ムッチーはただ単に流されていたのかもね。近くにいて、優しくされて、錯覚した。私の目からはそんな感じに見えるかな。だから冷めるのも早かった。その結果、追いかけっこをする羽目になっているんだけどさ」
「もう、またその話に戻るんだから。でも、そうかもしれない。そうよ、私はあの人に惑わされていたのよ。本当はずっとテツヤ君のことを想っていたのだわ。そういえばあの人とつき合っているのを必死に隠していたのだって、テツヤ君にあの人とつき合っていることを知って欲しくなかったからだったと思うのよ」
「それは無駄な抵抗をしていたのね。川崎君になんて、あの人とつき合った翌日には知られていたでしょうに」
「だからそう嫌な方に話をもっていかないでってば。私は前からテツヤ君が好き。それでもういいじゃない。やっぱり私とテツヤ君は運命の赤い鎖で繋がっているのよ。それにちょっと邪魔が入ってしまっただけ。でも、邪魔が入らないと恋っていうのは燃えないっていうもの。ちょっと寄り道をしてしまったけど、私の本当の物語はこれから始まるのよ!」
舞は興奮のあまり立ち上がっていた。
これは…気づかせない方が良かったかもしれない。
舞が本当の愛を自覚してしまった。
目覚めさせたのは自分だけど…もしかして止めておいた方が良かったかしらね?
以前のように、頻繁に自分の目の前で川崎君との恋物語を想像してうっとりされてはたまらない。あの人との恋愛も無かったことにしそうだし。これについては失敗したかな。
それでも近いうちに、このことは自分が言わなくてもムッチー自身が気づいただろう。それが少々早まっただけだ。
「それでもやっぱりテツヤ君、テツヤ君って、以前のように連呼するのは止めておいた方がいいわ。あんたはヌラとつき合った実績を持ってしまったんだから。川崎君を想うのを止めはしないけど、考えて行動しないとみんなから節操が無いって思われるわよ」
響歌がうっとりしている舞に忠告すると、舞の顔がすぐに引き締まった。
「それはわかっているよ。私だって、みんなから尻軽女みたいには思われたくないもの。しばらくは隠しておくから、響ちゃんも誰にも言わないで。あの人から逃げる日々もまだ終わらなさそうだし、このことは一旦置いておくよ」
「わかった。しばらくは逃げる方に集中しよう。それと、コレね」
響歌の手にはいつの間にかサークル関係の資料があった。
あくまでも趣味の活動とはいっても、やるからには真剣に取り組まないと入ってくれる会員の皆様に失礼だ。
舞は神妙な表情で頷いた。
最近は比良木でゆっくりとできない分、ここでゆっくりしてから帰っている。
それと気分転換として、趣味のサークルを立ち上げる準備をしていた。そのサークルとは、バレーボールの全日本男子の私設ファンクラブだ。
実は舞も響歌も男子バレーが大好き。好きな選手はそれぞれ違うのだが、テレビでバレー中継があった翌日はバレー談義に花を咲かせていた。
響歌は既にある選手の私設ファンクラブに入っているのだが、全日本の方はまだ入っていない。だからこの際、自分でやってみようという気になったのだ。中葉とのことで苛々していたので、好きなことをして発散させるのもいいんじゃないかと思ったのもある。そこで舞にも声をかけてみた。
すると舞が超乗り気になったので、2人でファンサークル活動をすることになったのだ。
サークルの内容は簡単にいうと全日本男子の応援だ。もちろん現地に行って応援するし、2カ月に1回の会報発行。その他にもホームページを作ったりと、することが色々あった。
バレー雑誌やネット等で募集をかけたところ、ありがたいことに全国から問い合わせがあり、その対応に追われている。だから余計に中葉に構っている暇は無いのだ。
「響ちゃん、凄いよ。オランダに住んでいる人からも連絡が届いている。この人って、オランダチームのことは関心が無いのかな。日本人みたいだけど、一応住んでいるところだよね?」
「オランダに住んでいるからといって、そのチームのことを好きになるとは限らないでしょ。私だって日本以外ではロシアのチームが好きだもの。それと一緒よ。それにしても北海道は何個かあったけど、沖縄は0よ、0。これって、なんでなのかしらね。バレーが盛んじゃないのかしら。そういえば国内リーグも、北海道では何回かしているけど、沖縄ではやっていないよね」
2人はショッピングセンターのフードコートの一角を陣取り、そういった会話をしていた。そこで夕飯を食べながらサークル活動をしているのだ。
今日の舞の夕飯はお好み焼き。響歌は広島焼だ。それを2人でわけあって食べながら作業を進めている。
それでも一旦作業の方の手を止めて食事に集中することにした。
「あ~あ、いったいいつになったらみんなと放課後にゆっくり過ごせられるんだろう。せっかくまっちゃんと仲直りもしたのに、これじゃあねぇ」
舞が夕飯を食べながら溜息を吐いた。
響歌の方は黙々と食べている。
「それにしてもまっちゃんって、すぐに傷つくけど、立ち直るのも早かったね。というよりも新たな男が現れたせいかな。いきなり4組に来て『ムッチーの言う通りだったよ。やっぱり勇気を出して話しかけないとダメだったんだ。参考になったよ。本当にごめんね』なんて言ってくるんだもの。あの時は凄く驚いたよ。あの言い方って、他の男で試してみたら仲良くなれたって取れるよね」
話しているうちに、さっきまでの表情が嘘のように生き生きしだした。
相変わらず響歌は黙々と食べているが…
「響ちゃん、少しは話に乗ってきてよ。1人で話している自分がバカみたいじゃない。特に今は響ちゃんくらいとしか乙女トークができないんだからさぁ」
「だって、お腹が空いているんだもの」
「響ちゃんって、本当に色気より食い気だよね。私達はまだ若くてピチピチなんだから、もっと違う方向に情熱を注ぐべきでしょ!」
舞は響歌を奮い立たせようとしているが、響歌はまったく乗ってこない。
「そのお陰で、鬼ごっこをする日々になっているんだけどね」
そう返されると、舞の方は肩身が狭くなってしまう。
「その話をしないでよ。せっかくのいい気分が台無しになるじゃない。特に今は楽しい楽しい食事の時間なんだからさ。あっ、ねぇ、響ちゃんの方は最近どうなの。橋本君とまったく話さなくなったし、やっぱり黒崎君の方に戻ったとか?」
舞が質問すると、響歌が食べる口を止めて箸を置いた。
「そうねぇ、相変わらず橋本君は機嫌が悪いみたいだしねぇ。私も方向転換して違う人を好きになってもいいのかもねぇ。えぇ、たとえば川崎君とか…」
「えぇっ!」
響歌の言葉に、舞は目を見開いた。
「きょ、きょ、きょ、きょ…」
響歌の名前を言いたいのだろうが、動揺して『きょ』で何回も止まっている。
この舞の様子に、響歌は確信した。
やっぱり…ね。前々から怪しいとは思っていたのよ。
「ムッチーさぁ、あんたの方こそ、中葉君から川崎君に戻っているでしょ?」
「っ!」
この瞬間、舞は再び石像化した。
「ま、最近は川崎君と話す機会が多くなっているからね。それに流されたっていうようなものなのかしら。それでも川崎君に行くのなら、その前にヌラリンとの関係にきちんとピリオドを打つべきだと思うけど?」
響歌は舞の好きな人が川崎に戻った前提で話している。
「そんなことを言われても、私からはもう無理だよ。何を言ってもまったく納得してくれていないじゃない。これ以上どうしようもないよ。だからこうして逃げる日々を送る羽目になっているんだから」
「あの人も本当にしつこいよね。すっぱりと諦めた方が、自分の為にもいいはずなのに。こんな生活、あの人だって嫌だろうと思うのにね。できればムッチーの傍には、女の私よりも男がいた方がいいのだけど。でも、川崎君にも断られたからなぁ。他の男子も、どう考えても断るだろうし…」
響ちゃんってば、なんだか妙なことを言い始めたわよ。
まさか本気で私の彼氏を見つけようとしているの?
「さっきのテツヤ君との会話って、冗談だったんじゃないの。まさか本気でテツヤ君を私の彼氏にしてくれようとしていたの?」
「あぁ、さっきのね。あれは半分以上冗談だったわよ。思い出してみなさいよ。完璧にそんな空気だったでしょうが。ま、川崎君が面白がって乗ってくれたらラッキーだったんだけど。さすがにそう簡単にはいかないか。誰だって、あの人と関わりたくはないもんね」
焦る舞とは違い、あっけらかんと言う響歌。
それでも呑気そうに見えたのはここまでだった。響歌の目に真剣な光が宿る。
「で、ムッチー、やっぱりそうなのね。あんたの好きな人は川崎君に戻った。そう判断していいのね?」
「えっ、え~と…その…」
響歌の出す真剣な雰囲気に、舞は完全にのまれていた。
「…そうかもしれない」
言い逃れができないことを悟ると、首を垂れて認めた。
「まぁ、もしかしたらの話だけど、あんたは心の奥底ではずっと川崎君のことを想っていたのかもしれないわよ。だからそんなにしょげることないでしょ」
「だって、響ちゃん。テツヤ君は相変わらずとってもカッコイイんだもの。惚れるな、という方が無理なんだよ。って、あれ?響ちゃんって、今変なことを言ったよね。本当はテツヤ君のことがずっと好きだったって…」
「変なことを言ったつもりはないわよ。私は真実を述べただけ」
「真実っていうのは、本当はあの人じゃなくてテツヤ君を…」
「そこ、そこよ。ムッチーさぁ、気づいているの。あんたって、つき合っていたにも関わらず、ヌラリンのことは『中葉君』呼びのままだったわよ。普通は名前で呼んだりするでしょうが。あの人だって、初めは『ムッチー』だったけど、つき合ってからは『舞』って呼んでいたわよ」
…あ。
響歌の指摘は鋭かった。
「そ、そういえばそうだよね。なんでずっと苗字で呼んでいたんだろう。あの人に言われていなかったからかな。私だって頼まれていたら名前で呼んでいたはずで…」
「その割には、川崎君のことは初っ端から『テツヤ君』呼びだったけど?」
「っ!」
そういえば…そうだわ。
私ってば、最初から今までテツヤ君のことはテツヤ君呼びだったけど、あの人のことはつき合っていたにも関わらず苗字で呼んでいた。
名前で呼びたいとも思わなかった!
「ムッチーはただ単に流されていたのかもね。近くにいて、優しくされて、錯覚した。私の目からはそんな感じに見えるかな。だから冷めるのも早かった。その結果、追いかけっこをする羽目になっているんだけどさ」
「もう、またその話に戻るんだから。でも、そうかもしれない。そうよ、私はあの人に惑わされていたのよ。本当はずっとテツヤ君のことを想っていたのだわ。そういえばあの人とつき合っているのを必死に隠していたのだって、テツヤ君にあの人とつき合っていることを知って欲しくなかったからだったと思うのよ」
「それは無駄な抵抗をしていたのね。川崎君になんて、あの人とつき合った翌日には知られていたでしょうに」
「だからそう嫌な方に話をもっていかないでってば。私は前からテツヤ君が好き。それでもういいじゃない。やっぱり私とテツヤ君は運命の赤い鎖で繋がっているのよ。それにちょっと邪魔が入ってしまっただけ。でも、邪魔が入らないと恋っていうのは燃えないっていうもの。ちょっと寄り道をしてしまったけど、私の本当の物語はこれから始まるのよ!」
舞は興奮のあまり立ち上がっていた。
これは…気づかせない方が良かったかもしれない。
舞が本当の愛を自覚してしまった。
目覚めさせたのは自分だけど…もしかして止めておいた方が良かったかしらね?
以前のように、頻繁に自分の目の前で川崎君との恋物語を想像してうっとりされてはたまらない。あの人との恋愛も無かったことにしそうだし。これについては失敗したかな。
それでも近いうちに、このことは自分が言わなくてもムッチー自身が気づいただろう。それが少々早まっただけだ。
「それでもやっぱりテツヤ君、テツヤ君って、以前のように連呼するのは止めておいた方がいいわ。あんたはヌラとつき合った実績を持ってしまったんだから。川崎君を想うのを止めはしないけど、考えて行動しないとみんなから節操が無いって思われるわよ」
響歌がうっとりしている舞に忠告すると、舞の顔がすぐに引き締まった。
「それはわかっているよ。私だって、みんなから尻軽女みたいには思われたくないもの。しばらくは隠しておくから、響ちゃんも誰にも言わないで。あの人から逃げる日々もまだ終わらなさそうだし、このことは一旦置いておくよ」
「わかった。しばらくは逃げる方に集中しよう。それと、コレね」
響歌の手にはいつの間にかサークル関係の資料があった。
あくまでも趣味の活動とはいっても、やるからには真剣に取り組まないと入ってくれる会員の皆様に失礼だ。
舞は神妙な表情で頷いた。