少女達の青春群像 ~舞、その愛~
教室の窓際は早い者勝ちで獲得した響歌達の楽園だ。壁を背もたれにできるし、カーテンの後ろにジュースを隠して授業中に先生の目を盗んで飲むことができる。授業が暇な時は窓の外を見てボケッ~とできる。その他、云々…
今日の響歌は授業を受ける気がせず、後ろの席の亜希と手紙式会話を楽しんでいた。その内容は昨日買った新発売のカレーミルク飴のまずさといった、とてもくだらない話題だった。
そんなにまずい飴があるのかと疑っている亜希に、響歌は実物を渡す。そんなに疑うのなら今すぐ食べてみろといった文も添えて。
しばらくした後、後ろから『ウッ』と言った声が聞こえてきた。どうやら本当に食べたらしい。
まったくもう、人の言うことを信じないからこんな目に遭うのよ。
授業中なので吐き出すことも難しいのだろう。亜希の悶えている声がしばらく続いた。
これはもしかしたら罰ゲームの景品としていいかもしれない。響歌がそんなくだらないことを思っているうちに授業が終わった。
早速、亜希が響歌のところにやってきた。
「響ちゃんってば、なんていうものを授業中に食べさせるのよ!」
亜希は怒っているが、響歌にも言い分がある。
「そりゃ、亜希ちゃんが全然信じていなかったからでしょ。で、どうだった。美味しかった?」
「美味しいわけがないでしょ。すぐに吐き出すこともできなかったし、口直しのジュースも今日に限って先生がこっちばかり見ているからできなかったし、もう散々よ。こんな商品、本当に売っていたの?」
疑う亜希に、響歌はそのパッケージを見せる。
「売っていたからここにあるんでしょうが。ほら、これを見てよ。『OH NEW TAST!』って書いてあるわよ。おぉ、新しい味!って、まぁ、確かにそうだけどさぁ。新し過ぎて私にはついていけなかったから、亜希ちゃんに全部あげる」
「私だっていらないわよ。あっ、待って、やっぱり10個くらいもらう。いいよね」
響歌の許可をもらう前に、既に袋から飴を10個取り出している。亜希の魂胆はわかっていたので響歌は止めなかった。
亜希は自分だけ犠牲になったのが嫌だった。こうなったらみんなに犠牲になってもらおう。そう考えたのだ。
飴をポケットに入れると、授業間の短い休憩なのに教室から出て行った。どうやら4組の皆様から犠牲になってもらうらしい。
これって、後で怒られるのは亜希だけなのだろうか。もしかして私も一緒に?
亜希は10個の飴全部を持って行ったわけではなかった。ご丁寧にも5組のみんなの分は机の上に置いてある。
それに気づいたのは真子だった。
「あれ、亜希ちゃんの机の上に飴が散らかっているよ。見たことがない飴だけど、新発売のかな」
「気になるのなら、まっちゃんにもあげるよ。授業中にでも暇つぶしに食べてみて。あっ、さっちゃんと沙奈絵ちゃんにも、せっかくだからあげておいて」
響歌は亜希の机の上から人数分を取ると真子に渡した。
「えっ、でも、それって亜希ちゃんのでしょ。勝手にしていいの?」
「亜希ちゃんがさっきまっちゃん達にあげるって言っていたから、代わりに渡しておくわ」
「そういうことなら、もらっておくね。ありがとう」
「いいってことよ。そういえばスーパーでバイト始めたんでしょ。どんな感じなの。そろそろ慣れた頃でしょ?」
響歌がさり気なくバイトのことを訊ねると、真子の顔が輝いた。
「そうだね、慣れてはきたよ。でも、私入れてバイトが数人しかいないから結構忙しくて大変なんだ。宮本さんは学業の問題もあって日曜日全部は入れないみたいだし…あっ、でも、今週は入れるって聞いたかな」
なる程…今週は宮本さんと一緒にバイトするのね。だからまっちゃんの機嫌が凄くいいのか。
6月に入ってから、真子は母親が勤務しているスーパーでバイトを始めた。律儀にも担任にバイト許可の申請までして。
バイトなら響歌もしているが、申請なんてしたことが無い。舞の方も地元近くのマンションに入っている店でバイトをしているが、響歌と同じだ。
2人共、申請する気など更々無いが、バイトができる時間は夜の7時まで。申請する前から結果なんてわかっている。2人は夜遅くまでバイトをしているのだ。特に舞の方は夜中までバイトをしているので、月曜日はバイト疲れで学校を休むことが多々あった。申請しても通るわけが無い。
それでも2人共が、ある先生にバレた実績を持っている。
その先生は太田といって、主にデザインコースの授業を担当していた。その先生が舞のバイト先に家族と一緒に来てしまったのだ。
それでも舞はプログラミングコースだ。接触したことはほとんど無いので、自分の存在なんて知られていないだろうと安心していた。
だが、現実は違った。
太田は舞のことを知っていた。担任である渕山に報告され、渕山に呼ばれてクドクドと怒られてしまった。
それでも懲りない舞は、未だに学校には内緒でバイトを続けている。その疲労により、翌日である月曜日はよく休んでいた。
そんな舞の事情を知っていて、呆れている響歌の方も、舞がバレた時と同じ時期に太田にバレていた。
それでも響歌の場合は、実際に太田に見られたわけではない。太田の母親に見られたのだ。太田の母親は響歌が小学校の時、そこの学校で養護教員をしていた。だから太田の母に見られたことは知っていたが、自分のことなんて覚えていないだろうと安心しきっていた。
だが、現実は違った。
響歌が別件で実習棟の職員室に行った時、職員室の奥の方から太田に『葉月―、お前、バイト許可証はもらっているのかー!』と大声で叫ばれたのだ。
それでも響歌はこういったことに強かった。すぐに『バッチリですよ!』と自信満々に返したので、未だに担任には伝わらず無事に済んでいる。
そんな2人よりも真子は真面目だったので、きちんとバイトの許可を申請して担任からバイトの許可をもらっていた。
その時を境に真子の機嫌が段々と上昇した。高尾に彼女がいることを知ってどん底状態だったのに、今では鼻歌を歌いだすんじゃないかと思うくらいまでになっている。
しかも真子の方から4組に出向いて舞に謝ったのだ。
真子に何かあったのは明らかだった。
「ところでその宮本さんっていう人、最近よく話題に出てくるけど、どんな感じの人なのよ。確か地元の大学生だったよね?」
「どんな人って、優しい人だよ。この間、バイトが一緒だった時もジュースをおごってもらったんだ。顔もカッコイイ方だよ。でも、きっと響ちゃんの趣味じゃないよ。橋本君にも黒崎君にも似ていないから」
ふ~ん、私の趣味じゃない…ねぇ。いや、別に狙うつもりはないのだけど。
これって、無自覚なのか。それとも自覚してはいるけど、まだ私達には内緒にしたいのか。どっちなのかしらね。
響歌は探るような目で真子を見ていたが、真子はそれにまったく気づいていない。
「じゃあ、この飴、さっちゃんと沙奈絵ちゃんに渡してくるね」
そう言葉を残して、紗智と沙奈絵に飴を渡しに行った。
次の授業中、近くの各席から『ウッ!』といった声が聞こえてきた。
みんな飴と戦っているようだが、響歌と亜希は笑いを堪えるので必死だった。
この後、2人がみんなから怒られたのは言うまでもない。
今日の響歌は授業を受ける気がせず、後ろの席の亜希と手紙式会話を楽しんでいた。その内容は昨日買った新発売のカレーミルク飴のまずさといった、とてもくだらない話題だった。
そんなにまずい飴があるのかと疑っている亜希に、響歌は実物を渡す。そんなに疑うのなら今すぐ食べてみろといった文も添えて。
しばらくした後、後ろから『ウッ』と言った声が聞こえてきた。どうやら本当に食べたらしい。
まったくもう、人の言うことを信じないからこんな目に遭うのよ。
授業中なので吐き出すことも難しいのだろう。亜希の悶えている声がしばらく続いた。
これはもしかしたら罰ゲームの景品としていいかもしれない。響歌がそんなくだらないことを思っているうちに授業が終わった。
早速、亜希が響歌のところにやってきた。
「響ちゃんってば、なんていうものを授業中に食べさせるのよ!」
亜希は怒っているが、響歌にも言い分がある。
「そりゃ、亜希ちゃんが全然信じていなかったからでしょ。で、どうだった。美味しかった?」
「美味しいわけがないでしょ。すぐに吐き出すこともできなかったし、口直しのジュースも今日に限って先生がこっちばかり見ているからできなかったし、もう散々よ。こんな商品、本当に売っていたの?」
疑う亜希に、響歌はそのパッケージを見せる。
「売っていたからここにあるんでしょうが。ほら、これを見てよ。『OH NEW TAST!』って書いてあるわよ。おぉ、新しい味!って、まぁ、確かにそうだけどさぁ。新し過ぎて私にはついていけなかったから、亜希ちゃんに全部あげる」
「私だっていらないわよ。あっ、待って、やっぱり10個くらいもらう。いいよね」
響歌の許可をもらう前に、既に袋から飴を10個取り出している。亜希の魂胆はわかっていたので響歌は止めなかった。
亜希は自分だけ犠牲になったのが嫌だった。こうなったらみんなに犠牲になってもらおう。そう考えたのだ。
飴をポケットに入れると、授業間の短い休憩なのに教室から出て行った。どうやら4組の皆様から犠牲になってもらうらしい。
これって、後で怒られるのは亜希だけなのだろうか。もしかして私も一緒に?
亜希は10個の飴全部を持って行ったわけではなかった。ご丁寧にも5組のみんなの分は机の上に置いてある。
それに気づいたのは真子だった。
「あれ、亜希ちゃんの机の上に飴が散らかっているよ。見たことがない飴だけど、新発売のかな」
「気になるのなら、まっちゃんにもあげるよ。授業中にでも暇つぶしに食べてみて。あっ、さっちゃんと沙奈絵ちゃんにも、せっかくだからあげておいて」
響歌は亜希の机の上から人数分を取ると真子に渡した。
「えっ、でも、それって亜希ちゃんのでしょ。勝手にしていいの?」
「亜希ちゃんがさっきまっちゃん達にあげるって言っていたから、代わりに渡しておくわ」
「そういうことなら、もらっておくね。ありがとう」
「いいってことよ。そういえばスーパーでバイト始めたんでしょ。どんな感じなの。そろそろ慣れた頃でしょ?」
響歌がさり気なくバイトのことを訊ねると、真子の顔が輝いた。
「そうだね、慣れてはきたよ。でも、私入れてバイトが数人しかいないから結構忙しくて大変なんだ。宮本さんは学業の問題もあって日曜日全部は入れないみたいだし…あっ、でも、今週は入れるって聞いたかな」
なる程…今週は宮本さんと一緒にバイトするのね。だからまっちゃんの機嫌が凄くいいのか。
6月に入ってから、真子は母親が勤務しているスーパーでバイトを始めた。律儀にも担任にバイト許可の申請までして。
バイトなら響歌もしているが、申請なんてしたことが無い。舞の方も地元近くのマンションに入っている店でバイトをしているが、響歌と同じだ。
2人共、申請する気など更々無いが、バイトができる時間は夜の7時まで。申請する前から結果なんてわかっている。2人は夜遅くまでバイトをしているのだ。特に舞の方は夜中までバイトをしているので、月曜日はバイト疲れで学校を休むことが多々あった。申請しても通るわけが無い。
それでも2人共が、ある先生にバレた実績を持っている。
その先生は太田といって、主にデザインコースの授業を担当していた。その先生が舞のバイト先に家族と一緒に来てしまったのだ。
それでも舞はプログラミングコースだ。接触したことはほとんど無いので、自分の存在なんて知られていないだろうと安心していた。
だが、現実は違った。
太田は舞のことを知っていた。担任である渕山に報告され、渕山に呼ばれてクドクドと怒られてしまった。
それでも懲りない舞は、未だに学校には内緒でバイトを続けている。その疲労により、翌日である月曜日はよく休んでいた。
そんな舞の事情を知っていて、呆れている響歌の方も、舞がバレた時と同じ時期に太田にバレていた。
それでも響歌の場合は、実際に太田に見られたわけではない。太田の母親に見られたのだ。太田の母親は響歌が小学校の時、そこの学校で養護教員をしていた。だから太田の母に見られたことは知っていたが、自分のことなんて覚えていないだろうと安心しきっていた。
だが、現実は違った。
響歌が別件で実習棟の職員室に行った時、職員室の奥の方から太田に『葉月―、お前、バイト許可証はもらっているのかー!』と大声で叫ばれたのだ。
それでも響歌はこういったことに強かった。すぐに『バッチリですよ!』と自信満々に返したので、未だに担任には伝わらず無事に済んでいる。
そんな2人よりも真子は真面目だったので、きちんとバイトの許可を申請して担任からバイトの許可をもらっていた。
その時を境に真子の機嫌が段々と上昇した。高尾に彼女がいることを知ってどん底状態だったのに、今では鼻歌を歌いだすんじゃないかと思うくらいまでになっている。
しかも真子の方から4組に出向いて舞に謝ったのだ。
真子に何かあったのは明らかだった。
「ところでその宮本さんっていう人、最近よく話題に出てくるけど、どんな感じの人なのよ。確か地元の大学生だったよね?」
「どんな人って、優しい人だよ。この間、バイトが一緒だった時もジュースをおごってもらったんだ。顔もカッコイイ方だよ。でも、きっと響ちゃんの趣味じゃないよ。橋本君にも黒崎君にも似ていないから」
ふ~ん、私の趣味じゃない…ねぇ。いや、別に狙うつもりはないのだけど。
これって、無自覚なのか。それとも自覚してはいるけど、まだ私達には内緒にしたいのか。どっちなのかしらね。
響歌は探るような目で真子を見ていたが、真子はそれにまったく気づいていない。
「じゃあ、この飴、さっちゃんと沙奈絵ちゃんに渡してくるね」
そう言葉を残して、紗智と沙奈絵に飴を渡しに行った。
次の授業中、近くの各席から『ウッ!』といった声が聞こえてきた。
みんな飴と戦っているようだが、響歌と亜希は笑いを堪えるので必死だった。
この後、2人がみんなから怒られたのは言うまでもない。