少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 歩と亜希が手を組んだ、翌週末。

 彼女は同じ店にいた。しかも今回のメンバーには舞と響歌が加わっている。早速、2人は作戦のことを彼女達に伝えたのだ。

 やるからには早い方がいい。バレンタインはすぐ傍まで近づいている。取り敢えずその時までに橋本に関する一連のことを済ませておきたい。既に文面もシナリオも用意している。後は彼女達の了解を得るだけだ。

 話を聞き終えた彼女達の反応は見事にわかれた。片方はいつかの歩のように目をキラキラと輝かせている。もう片方はとても嫌そうな顔をしていた。

「歩ちゃんってば、なんて素晴らしいことを考えてくれていたの。ちょっと響ちゃん、ちゃんと聞いた?歩ちゃんからの素晴らしいお言葉を!」

 もちろん目を輝かせていたのは舞の方だ。

 舞はこの件でまたもや歩を尊敬した。

「響ちゃんの件では、私もあのハッシーに何かしたいって思っていたのよね。でも、思いのほかサークル活動が忙しくて、それに追われていたらあっという間に冬になっていたのよ。歩ちゃんにばかり考えさせてごめんね。もちろん私も、何かやることがあれば協力するわよ!」

 腕まくりをしてまで協力をアピールしている。

「ムッチー、そのハッシーって、何よ?」

 響歌が嫌そうに舞を見ると、舞は当然といったように胸を張った。

「もちろんあの、にっくき橋本君のことに決まっているでしょ。あの人ってば、本当に勝手なんだもん。私達に近づいたり離れたりしちゃってさ、何がしたいのかわかりゃしない。何が『勇気がある人』よ。私から言わせてもらうと、あの人はただの『気分屋』よ、『気分屋』。奈央ちゃんは騙されているわ」

「ムッチーが私のことで怒ってくれているのはとてもありがたいんだけどね。それに歩ちゃんと亜希ちゃんも。あんた達がそんなことをする必要なんて無いから。そんなことをするよりも、自分のことを…」

 響歌の言葉を、歩が遮る。

「だから私も、バレンタインの時にチョコレートをあげるって決めたの。響ちゃんもいい加減にはっきりさせようよ。これ以上ズルズルいくなんてやっぱり良くないよ。橋本君が好きならチョコレートをあげる。そして返事をもらう。その返事がどうなっても、響ちゃんは次に進めるんだから。あっ、それはムッチーも、だよ」

 いきなりの名前を出されて、舞は驚いた。

「えっ、私も?あれって、冗談じゃなかったの。私がテツヤ君にチョコをあげるなんて。そもそも私はチョコをあげているような呑気な状況じゃないよ。あの人から逃げる日々を送っているんだから。相変わらず日記も手紙も机に入れてくるしさ!」

 その時のことを思い出したのだろう、舞の顔が怒りのものへと変わった。

「もういい加減にして欲しいよ。こんなやり取りを、いったいいつまで続けなくてはいけないの。響ちゃんだって迷惑しているんだから諦めて欲しいよね。この間なんて2年の経済科男子9人を相手に喧嘩を売ったような内容の手紙をもらったのよ。『2年経済科の男子、悪さ編』といった、ネーミングセンスがまったくない題名だったんだけどね。10人の性格の悪さを棒グラフにして表していたの。その中には、もちろん自分も入れているのよ。性格が悪い人程、棒グラフが高くなっているんだけど、なんとあの人ってば、自分を一番低くしていたの。そんなわけがないのに!」

「そういえばそんな手紙をもらっていたよね。朝、仏頂面で5組にやってきて、私にその手紙を見せてくれたもんね。あの時は驚いたわよ。ヌラがいるかもしれないのに、よくもまぁ、5組に来る気になったわよ」

「あの時、あの人は4組にいたんだよ。だから堂々と来ることができただけだよ」

「あぁ、そんな裏があったんだ。まぁ、あのグラフは私も頭にきたから、あの人のところに赤ペンで棒グラフをつけ足しておいてあげたけどさ」

「そうそう、響ちゃんってば、一番高くしておいたんだよね。もちろんその手紙は、そのままヌラの机の中に返却しておいたしさ」

「でも、あの後にまさかあの人から告げ口みたいな手紙をもらうとは思わなかったわ。また同じような棒グラフが乗っていたけど、それには赤ペンで修正したところが協調されていたわよ。そこには矢印がついていて『ムッチーは酷い』という文もあったしね。しかも私のなんて、なんでみんながその位置になったのか、ご丁寧にも説明文なんかもあったわよ」

「そんなのが書いてあったんだ。どんな説明だったの?」

「え~、さすがにそこまでは覚えていないわよ。たいしたことじゃない説明だったはずだしね。あっ、そうそう、たとえば安藤君のところには『安藤は授業中、真面目じゃない』といったような説明がしてあったわ」

「それは本当にたいしたことがないよね。わざわざこんなことをして、あの人は何がしたかったんだろう。自分の性格が一番いいんだぞって、アピールしていたのかな?」

「まぁ、そうなんじゃないの。だからよりを戻しましょうって言いたかったんじゃ…」

 舞と響歌は2人で中葉への不満を話している。

 このままだと中葉の悪口で時間を終えてしまう。これだとここに呼んだ意味が無い。

 歩が強引に会話に割り込んだ。

「ちょっと、ちょっとストップ。中葉君に不満があるのはもう十分にわかっているけど、今は中葉君のことは忘れて作戦のことに集中してよ。特にムッチーは、もうあの人のことは考えない方がいいよ。それよりも新しい彼氏を見つけよう。そうしたらいくら中葉君だって、これ以上はムッチーにつきまとわないはずだから」

「まぁ、それは前から、歩ちゃんがずっと言い続けてくれていることだよね。あぁ、そういうことか、新しい彼氏を見つけるのなら、やっぱりムッチーが好きな人が一番いいって、歩ちゃんは思っているんだ。それについては、私も歩ちゃんを押すわよ」

 なんと響歌がいきなり歩側に立ってくれた。

 それでも『それについては』と釘を刺しているので、自分のことについてはまだ反対のようだ。

「えぇっ、響ちゃんってば、なんでそんなことを言うの。そりゃ、テツヤ君と恋人同士になれたらすごくハッピーだけど、私は既にテツヤ君に『遠慮しとくわ』って断られているんだよ。その時は響ちゃんも一緒にいて、彼の言葉を聞いていたでしょ」

「だから自信を無くして、以前のように『テツヤ君、テツヤ君』と言わなくなったのよね。でもさぁ、あれは私が半分以上冗談で川崎君にあんたを勧めただけじゃない。何回言えば、あんたはそれをわかってくれるのかしらね。ムッチーの口から直接告白すれば、川崎君の返事も少しは違うかもしれないわよ。バレンタインはそれを知る絶好の機会よ」

「えぇっー、なんでそうなるの。じゃあ、私からも言わせてもらうけど、響ちゃんだって私と同じような立場なんだからね。響ちゃんが正面から気持ちをぶつけたら、橋本君もそっけない対応はしないんじゃないの。もし態度が変わらなければ諦めたら済む話なんだしさ。こんなところで立ち止まっているよりはよっぽどいいと思うよ。そうだ、決めたわ。響ちゃんがバレンタインに告白するなら、私もテツヤ君に告白する。響ちゃんがしないのなら、私もしない」

 なんだか変な話になってきた。

 それでもこれはチャンスかもしれない。そう思った歩は、舞の言葉に乗った。

「私も響ちゃんとムッチーが告白しなければ、細見さんに告白しない。ハンカチを握りしめて、卒業していく細見さんを陰ながら見送るよ」

『えぇっー!』

 舞と響歌の悲鳴のような声が店内に響き渡った。

「歩ちゃんは告白した方がいいよ。私やムッチーはあと1年あるけど、歩ちゃんは1カ月しか無いんだから」

 響歌は歩をなだめるが、歩は頑なだった。

「うん、だからハンカチを握りしめて失恋に耐えるよ」

「そんなの、歩ちゃんらしくないよ。ねぇ、歩ちゃん。歩ちゃんはチョコをあげた方がいいよ。あっ、でも、その時はもしかしたら細見さんは学校に来ていないかも…」

「じゃあ、私が細見さんの家を調べておいてあげる。だから歩ちゃんは細見さんにチョコを渡そう。本当に最後になるかもしれないのよ?」

 舞も響歌も歩を説得したが、無駄だった。

「私だけになるのなら、チョコあげない。3人だったら、頑張る」

 その一点張りだった。

「…わかった。歩ちゃんの言う通りにする」

 先に折れたのは響歌だった。

「えっー、響ちゃん、歩ちゃんに屈したのーって、でも、それならそれでいいのか。よし、わかった。私も腹を括るよ。テツヤ君にチョコをあげる」

 響歌が折れると、舞もあっさり後に続いた。

 何も言わずに成り行きを見守っていた亜希は、胸をなでおろした。

 これで3人共、何が起ころうともすっきりした気分で3年に進級できるのだから。



 先日は話に夢中になってしまい、注文することを忘れていた。一応、最初に注文を訊きに店員が来てくれていたのだが、決まったら呼ぶということで返してしまっていた。話が終わって帰ろうかとしたところで自分達が何も頼んでいないことに気づき、慌ててジュースを注文したのだ。

 3人が話している間、亜希は今日もまだ注文していないこともあって終始ソワソワしていた。

 このまま言い合いが続けば中断させて注文だけでもしようと思っていたけど、思いのほか早く収まって良かったわよ。

 先日のお詫びとして、今日は飲み物だけではなくて食べ物も注文した。それでもガッツリ食べるつもりは無いので、一品ものをそれぞれ頼んだ。舞はフライドポテト、響歌は枝豆、歩はスコーン、亜希は餃子といったバラバラなものだったのだけど。

「あー、枝豆にはやっぱりビールだよ。表だって飲めないのって本当に不便だわ。早く大人になりたい!」

 枝豆を頼んだ響歌が、女子高生にとっては禁句ワードを口に出している。

「響ちゃん、その言葉はNGだよ。黙ってアイスコーヒーを飲んでおくように」

 すぐに亜希が響歌を注意したが、その手に持っているのは響歌を益々その気にさせてしまうものだった。

「だったら亜希ちゃんもそんなものを頼まないでよ。餃子だってNGワードに合うものなんだから。ってか、よくそんなものを昼間から頼めるわね。臭いが気にならないの?まさかあんたも、あの臭いに慣れてしまったとか。だから…」

「そんなわけがないでしょ。あの臭いなんて一生かかっても慣れないわよ。1年の時に5組の担任は臭いとは聞いていたけど、大袈裟に言っているだけだと思っていたのに、まさか本当にそうだったなんて。3年になったら違う先生がいいけど…無理だろうなぁ」

「食事時に臭い話題は止めてよ。気分が急降下するじゃない。せっかく2年になって離れられたのに、思い出させないで」

 舞が仏頂面で注意をすると、歩も頷いた。

 そりゃ、あんた達は2年になって違う担任になったんだから、思い出になれたんでしょうよ。

 私達はまだ少なくても3カ月間はあの臭いとつき合っていかなくてはいけないんだから、少しは愚痴らせて欲しい。特に今は一番対応が厳しい冬なのだから!

 響歌と亜希は同じことを思ったが、これ以上口にしたくもない話題だったので大人しく従った。

「ところで、響ちゃん。響ちゃんのOKが出たから早速『橋本君に電話でラブラブ作戦』を実行したいんだけど、橋本君に何か訊きたいことってある?」

 歩がとろけそうな笑みをしてスコーンを食べながらも響歌に質問した。

 響歌がアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら興味無さそうに答える。

「何か訊きたいこと…ねぇ。別に、特には無いかな。まぁ、私に対する気持ちはどうなのか知りたいけどね。嫌いなのか、好きなのか、あるいはどうでもいいのか。まぁ、それはチョコを渡した時にでもわかるでしょ」

「えっ、それだけ。もっと訊きたいことは無いの?ほら、あの『バカ響』の件とか」

 舞が驚いて例を挙げても、響歌は関心が無さそうだ。

「あぁ、あれね。今となってはどうでもいい。もしかしたら橋本君じゃないかもしれないし、正式に渡されたわけじゃないから。あの紙も、もう捨ててしまったしね」

「私は今でも気になるけどなぁ。それに急に怒り出した理由とか、そもそもなんでこうも『気分屋』なのか。なんで子供っぽいのかも知りたいかな。それと最近鞄を学校指定用から普通の鞄に変えたけど、なんで今になって変えたのか、とか。あっ、そうだ、なんであんなにきっちりと体操服をズボンの中に入れているんだろうね。他の男子はほとんどが出しっぱなしなのにさ。そうそう、あの人ってさぁ、テツヤ君に持久走大会の時に飴をあげたみたいだけど、あれって自分も食べたのかしらね。響ちゃんの話だと、テツヤ君はあのせいで気分が悪くなって順位が落ちたっていうじゃない。そういやハッシーは何位だったんだろ。テツヤ君よりは順位が下だとは思うけど」

 舞が色々例を挙げているが、段々変な例えになってきた。

「ムッチー、それ、ほとんどどうでもいいことだから」

 亜希が脱力している。

「でも、最初の方のは、私も気になるな。橋本君だって理由も無く怒るはずがないと思うもの」

 歩は不思議だったのだ。自分は舞や響歌のように橋本と深く接したことは無いが、それでも理由無くそういうことをする人ではない。それが、歩がこれまで橋本を見てきて感じた感想だった。

「まぁ、それについては、私も歩ちゃんと同じ意見かな。橋本君は高尾君みたいな人でも無いと思うから」

 高尾嫌いな亜希が、高尾を例にして挙げている。

「まぁ、確実ではないけど、思い当たることはあるよ」

 聞き捨てならない言葉が響歌の口から出た。

「えぇっ、思い当たることがあるって。響ちゃん、やっぱり何かやっていたの!」

 舞が驚いて叫んだが、響歌はそんな舞を嫌そうに見た。

「失礼な、私は何もしていないわよ。それにあんただって聞いていたはずなんだけどね」

 そんなことを言われても、舞にはさっぱり思い当たらない。

 響歌はそれで引き伸ばす気は無かったようだ。みんなに向かって予想を言う。

「私は『愛の交換日記』が怪しいと思う。中葉君が橋本君に交換日記を見せていると、突然橋本君が帰ったことがあったみたいなのよ。それ以降、あの人は私達のところに来なくなった。だから…と思っているのよね」

 その話は舞にも覚えがあった。まだ舞が中葉とつき合っていた頃だ。聞いた時は用事があるのを思い出しただけなのだろうと思っていたが、そういえばあれ以降、橋本が寄りつかなくなっている。

 ということは本当にあの日記が原因なの?

「あの時は、ムッチーが中葉君に対して別れを決意したりしてバタバタしていたからね。そっちの方に意識を取られていたけど、今から思えばあれが原因だとしか思えないのよ。あの人って、自分が知ったことをすべて日記に書いていたから、もしかしたら…本当にもしかしたらなのだけど、私が自分だけではなくて黒崎君のことも好きだと思ったんじゃないかしらね」

 要は二股をかけられた。そう思っている可能性があると、響歌は言いたいのだろう。

 そこまで言われると、原因はそれで間違いないような気がしてくる。

「でもさぁ、それならそうと、ちゃんと響ちゃんに確認して欲しかったよ。確かに響ちゃんは2人のことをダラダラと想い続けていたけど、それだって自分が割り込んできたのが原因なんだから。あの人が中葉君と一緒に私達のところに邪魔しにこなければ、響ちゃんだって今頃は黒崎君と幸せになれていたかもしれないのに!」

 それに自分だって余計な遠まわりをしなくて済んだのだ。この件に関しては逆に怒りたいくらいだ。

 2人共、響ちゃんの優しさにつけ込んでかきまわしただけだったのよ。

 怒る舞をなだめたのは、一緒に怒ってもいいような立場の響歌だった。

「まぁ、まぁ。私もあの時にはっきりと自分の意見をはっきり言わなかったんだから。表面だけでも平和を望んだ私が悪かったのよ。こんなことになるのなら我慢しなくても良かったとは思うけど、やっちゃったものは仕方がないわ。それにあんただって、あの時は結構楽しそうだったじゃない。だからあれで良かったんだと思っておこう」

 まぁ、確かに…あの時は、私もそこまで嫌では無かったけどさ。

 でも、たまには女子会もしたかったよ。えぇ、これだけは本当の気持ちよ。

「でも、響ちゃん。そこまで予想しているのなら、橋本君にちゃんと聞いた方がいいんじゃないの?」

 亜希が提案してみると、響歌は顔をしかめた。

「私から?それはごめんかな。なんであの人にわざわざそんなことを訊かないといけないのよ。そりゃ、ああなった原因は知りたいとも思うけど、自分から訊くまでにはならないわね。なんたら作戦には乗るけど、私はあくまでもあの人にチョコをあげるだけ。自分を避けた原因は訊かないつもり」

 そうなんだ。響ちゃんはそこまでは知りたくないんだ。

 って、ちょっと待って。響ちゃんって、本当に橋本君のことが好きなの?

 なんだかすっごく、橋本君に対して冷めているような気がするんだけど!

「あの、響ちゃん。響ちゃんは本当にハッシーのことが好きなのかな。もしかしなくても…やっぱり黒崎君の方じゃないのかな?」

 舞が確認すると、響歌はさっきの顔のままで舞の方に目を向けた。

「またあんたはそんなことを訊くのね。いい加減にして欲しいんだけど。この前も、私はあんたに言ったよね」

「うん、聞いた。もちろんその言葉も一字一字覚えていますとも。でもね、私から見たら、響ちゃんは…もう、いい。なんでもないです。はい」

 舞は反論しようとしたが、今の響歌には何を言っても無駄だということを悟り、途中で口を噤んだ。

 2人のやりとりを見ていた歩と亜希も、響歌に何か言いたそうだったが、それを口に出すことは無かった。

「ところで亜希ちゃんは、下田君にチョコレートはあげないの?確か1年の時、下田君から誕生日プレゼントに五百円分の図書券をもらったんでしょ?」

 響歌の口から亜希に関する驚きの情報が出た。

 舞と歩はそのことを知らなかったので、驚いて亜希を見ている。

「なんで今、そんなことを言うかな。この話はムッチーや歩ちゃんは知らないのよ」

 亜希は抗議の声をあげたが、響歌は平然としている。

「別にバラしてもいいでしょ。亜希ちゃんもムッチーや歩ちゃんのことを知っているんだから。この機会にバラした方がいいんだって。もちろん私だって、この2人以外にはたとえ同じグループの人でもバラすつもりは無いわよ。私達の運命共同体に乗ったからには、1人だけ無事に済まそうとはしないわよね?」

 歩の目がキラキラと輝きだした。

「本当に亜希ちゃんも恋をしていたんだ。今まで黙っていたなんて水臭いよ。あっ、もちろん私も、ここにいるみんな以外にはちゃんと内緒にしておくから。で、どうする。亜希ちゃんも参加する?」

「もちろん参加するよね。だって亜希ちゃんは下田君からプレゼントされているらしいもん。そのお返しとして…という口実もできるしさ」
 舞もノリノリだった。

 それでも亜希は流されなかった。

「私は止めておく。1人だけ参加しないのは心苦しいけど、みんなの恋愛を見ていたら自分のは本当に恋だったのかなと疑っていたところなのよ。実を言うと、今は下田君を見てもそんなにドキドキしないし、話したいとも思わなくなったんだ。そんな状態でチョコなんて渡したら下田君に失礼だよ」

 断りはしたものの、これでみんなが引き下がってくれるとは思えない。

 亜希は身構えたけど、意外なことにこれを持ち出した響歌があっさり引き下がった。

「なんだー、やっぱりそうなのか。亜希ちゃんと下田君って、今は話もしていないし、亜希ちゃんが下田君のことを見ている風でもなかったから、本当に好きなのかって、実は疑っていたのよね」

「あっ、でも、1年の時は本当に好きだったとは思うのよ。部活の時にみんなで腕相撲をしたことがあったんだけど、その時も下田君と腕相撲をした後なんて、1人で『キャー!』なんて照れていたし…」

「亜希ちゃんも1年の時は青春していたんだ。それが続かなかったのは残念だけど。でも、また話すようになったら戻るかもしれないわよ。亜希ちゃんと下田君って、なんだか合いそうだしさ」

「また響ちゃんはそんな話をするんだから。今まで私が好きになった人って、みんな女の子と仲がいいとか、背が小さいとかといった共通点があったのよ。でも、下田君は違うでしょ。だからあの時、近くにいたから流されていただけのような気もするのよね」

「流されていてもそうでなくても、好きだったんだからその思いを否定しない。それにさぁ、流されるのが悪いような感じで言っているけど、結構みんな流されているものよ。学生時代の恋愛って、そんなものでいいんだと思う。だから深く考えない。わかった?」

「わかったけど、チョコはあげないからね」

 響歌と亜希は2人だけで話をしていた。後の2人は展開の速さに半分くらいついていけず、呆然とその話を聞いていた。いきなり亜希の恋愛話が浮上したと思えば、急降下したのだ。そうなっても不思議ではない。

 自分の知らないところでみんな青春していた。それだけは2人共、わかった。

「じゃあ、この話はこれで終りね。後は橋本君の作戦を考えよう。あっ、でも、これは私と歩ちゃんだけでするから。2人は結果報告を楽しみに待っていて」

 亜希が早々とこの話題を終わらせて作戦のことを持ち出す。自分の話題から早く遠ざかりたかったのだ。

 舞と歩は消化不良のような感じだったが、亜希は一度決めたらそれを突き通すところがある。仕方なく次の話題に移ることにした。
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