少女達の青春群像 ~舞、その愛~
こういうことは準備するのが楽しいのです
歩が家族と交渉した結果、土日は泊まれることになった。
その報告をしに5組に行くと、その途中で真子に呼び止められた。
「あっ、歩ちゃん。待って」
「どうしたの、まっちゃん」
歩が足を止めると、真子が駆け寄ってきた。
「あのさ、今度の休み、空いているかな?」
今度の休みといえば『お泊り会』の日だ。
「今週末は土日とも予定が埋まっているんだ」
歩がそう言うと、真子の顔が曇った。
「なんだ、そうなんだ。残念だな」
「何かあったの?」
「実は…宮本さんにバレンタインのチョコをあげたいんだ。だから次の日曜日にでも5人につき合ってもらって買いにいけたらなぁと思っていたんだけど。歩ちゃんに用事があるのなら仕方がないよね。別の誰かを誘ってみるよ」
えぇっ、まっちゃんってば、いつの間に好きな人が宮本さんに変わっていたの!
「ちょっとまっちゃん、もう高尾君のことはいいの?なんでいきなり宮本さんになったの?以前は2人共、好きだった感じなのに…」
「そのことには気づいていたんだ。さすが歩ちゃんだね」
いやいや、それは私以外のみんなも気づいていたから。
「だいぶ前から、どっちが好きなのだろうって迷っていたんだけど、最近になって宮本さんが好きなことに気づいたんだ」
「そうなんだ。でも、なんで気づいたの。きっかけは?」
「きっかけは宮本さんがバイトを辞めたことかな」
それも、歩には初耳だ。
「宮本さん、バイト辞めちゃったんだ」
「えぇっ、冬休みの頃はそんな素振りなんてまったく無かったよね?」
「私も宮本さんが辞めるなんて思わなかったよ。楽しそうにバイトしていたから。でも、学業が忙しくてバイトできなくなったみたい」
真子は沈んだ表情をしていた。彼がバイトを辞めて寂しいのだろう。
「だから寂しくなって、自分の気持ちに気づいたの?」
いつも傍にいた人がいなくなって、初めて気づく自分の気持ち。といったものなのだろう。
歩はそう納得したが、真子ははっきりとは肯定しなかった。
「それもまぁ、あるんだけどね。この前、宮本さんから家に電話があったんだ」
「スマホじゃなくて家の方に電話があったの?」
「実は…宮本さんとスマホの連絡先を交換してなかったの。でも、家の電話なら、職場の連絡網に載っているから…」
「だから家の方にわざわざかけてきてくれたんだね。でも、なんでかけてきてくれたの?」
「バイトを辞めた報告…かな。でも、これでこれからは土日が空くから、暇な時は一緒に遊びに行こうって誘われたの」
えぇっ、なんて展開が早い!
「もちろんオッケーしたんだよね!」
歩は響歌に用事があったはずなのだが、この時には既にそのことを忘れていた。興奮しながら真子に問い詰めている。
「ま、まぁ、そうなのかな。いいよとは言った。そしたら宮本さんが『どこに行きたい?』って訊いてきてくれたの。だから『宮本さんの住んでいるところに行ってみた』』って答えたんだ。私、まだそこには行ったことが無かったから」
「じゃあ、宮本さんが住んでいる町で遊ぶことにしたんだ」
「違うよ。私は宮本さんが住んでいるところが良かったんだけど、宮本さんは柏原の方にあまり行ったことがないから、そっちの方に行ってみたいんだって。だから遊ぶとなったら、まずは柏原市内で、かな」
「そうなんだ。でも、それだったらなんで最初にどこに行きたいか訊いたんだろうね」
「さぁ、なんでだろう。それは私もちょっとわからないなぁ。でも、その時ははっきりした日程は決めなかったの。私も宮本さんも、まだ自分の予定がわからなかったから。だからそこで終わったんだ」
「まっちゃんはその会話で宮本さんを好きなことがわかったんだね」
「うん。電話を切る前に、宮本さんが『おやすみ』と優しい声で言ってくれたの。その声を聞いた時、すっごくよく眠れそうな気がしたんだ」
歩に話している真子はとても幸せそうだった。
そんな真子を少し羨ましく思いながらも、歩は訊いてみた。
「そこまでの仲なのなら、思い切って手作りをしてみたら?」
それだったら、私達と一緒にチョコ作りができるし…
「そんな、そこまでは無理だよ。手作りだと本命だって一発でバレちゃうもの。最初は市販のものにするよ。あっ、引き止めてごめんね」
真子はそう言うと、階段を降りていった。
歩は少し残念な思いでその姿を見ていたが、響歌への用事を思い出して慌てた。
いけないっ、こんなところで悠長にしていると響ちゃんが実習棟に行ってしまう。
急いで5組に行くと、響歌の姿はまだそこにあった。もしかすると歩を待っていたのかもしれない。
「あっ、歩ちゃん。こっち、こっち!」
歩の姿を見つけるなり、響歌が手招きをした。
「もしかして待っていてくれた?」
「待っていたわけじゃないけどね。歩ちゃんに用事があったから4組に行こうとしていたところ。だから丁度良かった」
響歌の机の上には新品のレターセットがある。それでも響歌の趣味では無さそうな柄だ。どちらかといえば自分の方が気に入って購入しそうな品だった。
「はい、これ。金曜日までに細見さんへの手紙を書いてきて」
突然の言葉に、歩は驚いた。
「えぇっ、なんでまたいきなりそんなことになっているの。私が書かないといけないの?」
「当たり前でしょ。もしかして自分の手紙も亜希ちゃんに書かせるつもりだった?」
「えぇっ、そんなことは思っていないよ。というよりも手紙を書くこと自体、知らなかったから」
本当にいきなりそんなことを言われたのだ。歩は混乱していた。
響歌は歩の前に1枚のメモ用紙を見せた。そこには誰かの住所が記されてある。
「これは?」
「これ、細見さんの家の住所と電話番号。私達の作戦に奮闘していた歩ちゃんの為に、私が仕入れておいてあげました」
歩からしたら、いったいいつの間に…といった感じだ。
最初は呆然としていたが、段々と嬉しさが込み上げてくる。
「あ、ありがとう。さすが響ちゃんだね。まさか裏でこんなことをしているなんて思わなかったよ」
「お礼を言うのはまだ早い。でね、バレンタインの時は、細見さんは学校に来ないと思うのよ。3年生は2月に入るとほとんど学校に来ないでしょ。登校日には来るけど、その登校日はまだまだ先なんだから。どう考えても家に行って渡す方がいいわ。家まで行けないのなら近くに公園があるから、そこにでも呼び出して渡すのもいいでしょ」
本当に響歌は頭がよくまわる。
歩はチョコを渡すことだけに頭が一杯になっていて、そういったことを考えていなかった。
「うん、わかった。そうするね。でも…あの、できればその時は響ちゃんも一緒に来て欲しいんだけど…ダメかな?」
響歌もバレンタインの時には橋本にチョコを渡すことになっている。それでも途中まで一緒に来て欲しかった。
「私は15日に細見さんにあげるから。それに渡す時は一緒にいてくれなくていいから…」
響歌は驚いたが、歩にそこまで言われたら断るわけにはいかない。
「わかった、つき合うよ。でも、歩ちゃんの方は本当にいいの。1日遅れになっちゃうのよ?」
「もちろん、いいよ。私の方から言い出したんだから。あっ、そうだ。今週末のオッケーが出たよ。週末は3人でお泊り会をしようね」
「うん、そうだね。ありがとう歩ちゃん。あっ、週末といえば、さっきまっちゃんにチョコ買いに誘われたけど、歩ちゃんは誘われなかった?」
どうやら真子は既に響歌の方を誘っていたようだ。
「さっき誘われた。断ったけど…もしかして響ちゃんは、まっちゃんにつきあってあげるの?」
「いや、私も断った。だからみんなはどうするのかなと思って。一緒に作れるかもしれないから、まっちゃんにも手作りを勧めてみたけど、恥ずかしいって断ったからさ。まぁ、仕方がないよね」
どうやら響歌も歩と同じことを考えたようだ。
「私も手作りを勧めてみたけど、同じことを言われちゃった。手作りなら一緒に作れたのに残念だね」
「さすがにまっちゃんにまで強要したらダメだしね。まっちゃんの方なら、さっちゃんあたりが一緒に行ってあげるんじゃないかな。だからこの件についてはもういいでしょ。まっちゃんの話を聞いている限りだと、結構いい感じみたいだしさ」
「そうだね」
歩は真子のことがまだ少し心に引っかかってはいたが、日が重なっていたらどうしようもない。他の友人達に任せることにした。
その報告をしに5組に行くと、その途中で真子に呼び止められた。
「あっ、歩ちゃん。待って」
「どうしたの、まっちゃん」
歩が足を止めると、真子が駆け寄ってきた。
「あのさ、今度の休み、空いているかな?」
今度の休みといえば『お泊り会』の日だ。
「今週末は土日とも予定が埋まっているんだ」
歩がそう言うと、真子の顔が曇った。
「なんだ、そうなんだ。残念だな」
「何かあったの?」
「実は…宮本さんにバレンタインのチョコをあげたいんだ。だから次の日曜日にでも5人につき合ってもらって買いにいけたらなぁと思っていたんだけど。歩ちゃんに用事があるのなら仕方がないよね。別の誰かを誘ってみるよ」
えぇっ、まっちゃんってば、いつの間に好きな人が宮本さんに変わっていたの!
「ちょっとまっちゃん、もう高尾君のことはいいの?なんでいきなり宮本さんになったの?以前は2人共、好きだった感じなのに…」
「そのことには気づいていたんだ。さすが歩ちゃんだね」
いやいや、それは私以外のみんなも気づいていたから。
「だいぶ前から、どっちが好きなのだろうって迷っていたんだけど、最近になって宮本さんが好きなことに気づいたんだ」
「そうなんだ。でも、なんで気づいたの。きっかけは?」
「きっかけは宮本さんがバイトを辞めたことかな」
それも、歩には初耳だ。
「宮本さん、バイト辞めちゃったんだ」
「えぇっ、冬休みの頃はそんな素振りなんてまったく無かったよね?」
「私も宮本さんが辞めるなんて思わなかったよ。楽しそうにバイトしていたから。でも、学業が忙しくてバイトできなくなったみたい」
真子は沈んだ表情をしていた。彼がバイトを辞めて寂しいのだろう。
「だから寂しくなって、自分の気持ちに気づいたの?」
いつも傍にいた人がいなくなって、初めて気づく自分の気持ち。といったものなのだろう。
歩はそう納得したが、真子ははっきりとは肯定しなかった。
「それもまぁ、あるんだけどね。この前、宮本さんから家に電話があったんだ」
「スマホじゃなくて家の方に電話があったの?」
「実は…宮本さんとスマホの連絡先を交換してなかったの。でも、家の電話なら、職場の連絡網に載っているから…」
「だから家の方にわざわざかけてきてくれたんだね。でも、なんでかけてきてくれたの?」
「バイトを辞めた報告…かな。でも、これでこれからは土日が空くから、暇な時は一緒に遊びに行こうって誘われたの」
えぇっ、なんて展開が早い!
「もちろんオッケーしたんだよね!」
歩は響歌に用事があったはずなのだが、この時には既にそのことを忘れていた。興奮しながら真子に問い詰めている。
「ま、まぁ、そうなのかな。いいよとは言った。そしたら宮本さんが『どこに行きたい?』って訊いてきてくれたの。だから『宮本さんの住んでいるところに行ってみた』』って答えたんだ。私、まだそこには行ったことが無かったから」
「じゃあ、宮本さんが住んでいる町で遊ぶことにしたんだ」
「違うよ。私は宮本さんが住んでいるところが良かったんだけど、宮本さんは柏原の方にあまり行ったことがないから、そっちの方に行ってみたいんだって。だから遊ぶとなったら、まずは柏原市内で、かな」
「そうなんだ。でも、それだったらなんで最初にどこに行きたいか訊いたんだろうね」
「さぁ、なんでだろう。それは私もちょっとわからないなぁ。でも、その時ははっきりした日程は決めなかったの。私も宮本さんも、まだ自分の予定がわからなかったから。だからそこで終わったんだ」
「まっちゃんはその会話で宮本さんを好きなことがわかったんだね」
「うん。電話を切る前に、宮本さんが『おやすみ』と優しい声で言ってくれたの。その声を聞いた時、すっごくよく眠れそうな気がしたんだ」
歩に話している真子はとても幸せそうだった。
そんな真子を少し羨ましく思いながらも、歩は訊いてみた。
「そこまでの仲なのなら、思い切って手作りをしてみたら?」
それだったら、私達と一緒にチョコ作りができるし…
「そんな、そこまでは無理だよ。手作りだと本命だって一発でバレちゃうもの。最初は市販のものにするよ。あっ、引き止めてごめんね」
真子はそう言うと、階段を降りていった。
歩は少し残念な思いでその姿を見ていたが、響歌への用事を思い出して慌てた。
いけないっ、こんなところで悠長にしていると響ちゃんが実習棟に行ってしまう。
急いで5組に行くと、響歌の姿はまだそこにあった。もしかすると歩を待っていたのかもしれない。
「あっ、歩ちゃん。こっち、こっち!」
歩の姿を見つけるなり、響歌が手招きをした。
「もしかして待っていてくれた?」
「待っていたわけじゃないけどね。歩ちゃんに用事があったから4組に行こうとしていたところ。だから丁度良かった」
響歌の机の上には新品のレターセットがある。それでも響歌の趣味では無さそうな柄だ。どちらかといえば自分の方が気に入って購入しそうな品だった。
「はい、これ。金曜日までに細見さんへの手紙を書いてきて」
突然の言葉に、歩は驚いた。
「えぇっ、なんでまたいきなりそんなことになっているの。私が書かないといけないの?」
「当たり前でしょ。もしかして自分の手紙も亜希ちゃんに書かせるつもりだった?」
「えぇっ、そんなことは思っていないよ。というよりも手紙を書くこと自体、知らなかったから」
本当にいきなりそんなことを言われたのだ。歩は混乱していた。
響歌は歩の前に1枚のメモ用紙を見せた。そこには誰かの住所が記されてある。
「これは?」
「これ、細見さんの家の住所と電話番号。私達の作戦に奮闘していた歩ちゃんの為に、私が仕入れておいてあげました」
歩からしたら、いったいいつの間に…といった感じだ。
最初は呆然としていたが、段々と嬉しさが込み上げてくる。
「あ、ありがとう。さすが響ちゃんだね。まさか裏でこんなことをしているなんて思わなかったよ」
「お礼を言うのはまだ早い。でね、バレンタインの時は、細見さんは学校に来ないと思うのよ。3年生は2月に入るとほとんど学校に来ないでしょ。登校日には来るけど、その登校日はまだまだ先なんだから。どう考えても家に行って渡す方がいいわ。家まで行けないのなら近くに公園があるから、そこにでも呼び出して渡すのもいいでしょ」
本当に響歌は頭がよくまわる。
歩はチョコを渡すことだけに頭が一杯になっていて、そういったことを考えていなかった。
「うん、わかった。そうするね。でも…あの、できればその時は響ちゃんも一緒に来て欲しいんだけど…ダメかな?」
響歌もバレンタインの時には橋本にチョコを渡すことになっている。それでも途中まで一緒に来て欲しかった。
「私は15日に細見さんにあげるから。それに渡す時は一緒にいてくれなくていいから…」
響歌は驚いたが、歩にそこまで言われたら断るわけにはいかない。
「わかった、つき合うよ。でも、歩ちゃんの方は本当にいいの。1日遅れになっちゃうのよ?」
「もちろん、いいよ。私の方から言い出したんだから。あっ、そうだ。今週末のオッケーが出たよ。週末は3人でお泊り会をしようね」
「うん、そうだね。ありがとう歩ちゃん。あっ、週末といえば、さっきまっちゃんにチョコ買いに誘われたけど、歩ちゃんは誘われなかった?」
どうやら真子は既に響歌の方を誘っていたようだ。
「さっき誘われた。断ったけど…もしかして響ちゃんは、まっちゃんにつきあってあげるの?」
「いや、私も断った。だからみんなはどうするのかなと思って。一緒に作れるかもしれないから、まっちゃんにも手作りを勧めてみたけど、恥ずかしいって断ったからさ。まぁ、仕方がないよね」
どうやら響歌も歩と同じことを考えたようだ。
「私も手作りを勧めてみたけど、同じことを言われちゃった。手作りなら一緒に作れたのに残念だね」
「さすがにまっちゃんにまで強要したらダメだしね。まっちゃんの方なら、さっちゃんあたりが一緒に行ってあげるんじゃないかな。だからこの件についてはもういいでしょ。まっちゃんの話を聞いている限りだと、結構いい感じみたいだしさ」
「そうだね」
歩は真子のことがまだ少し心に引っかかってはいたが、日が重なっていたらどうしようもない。他の友人達に任せることにした。