少女達の青春群像 ~舞、その愛~
あっという間に過ぎた3年間
バレンタインから既に半年以上が過ぎていた。
あれからみんな平和に過ごしていた。同じ毎日の繰り返しだったが、決してつまらなくはなかった。むしろとても心地よく感じられた。
これまで色々なことがあり過ぎたのだから…
「う~ん、今日も平和だねぇ、亜希ちゃん」
平和過ぎて、眠たくなってくる程よ。
響歌が椅子に座りながら思いっきり伸びをする。
そんな響歌に釣られるような形で、亜希も伸びをした。
「なんだかんだいっても、平和で平凡なのが一番なのよ。まぁ、メリハリは無いんだけどさ」
響歌の言葉に同意もしている。
2人は3年になっても窓側の中央の席を確保していた。席順も一緒で、響歌が前で亜希がその後ろだ。
もうすぐ5時間目が始まろうとしているが、この調子だと授業中に寝てしまいそうだ。
そんな2人の耳に、後ろの席の方から甲高い声が聞こえてきた。
「ちょっと聞いてよ。今日から3日間、下田君が休みなんだって」
「えっー、なんでっー?」
「なんかね、検査入院みたい」
「…そうなんだ、可哀想」
『キャッー!』
響歌と亜希の視線が声の方に向く。
その先には宮内方面のグループの3人がいて、下田のことを話題にしていた。そのうちの1人が下田のことを好きなので、ことあるごとにこうやって冷やかしているのだ。
「いやぁ、まいっちゃうねぇ。聞いているコッチが恥ずかしくなっちゃうわよ」
亜希が極端な小声で響歌に言う。その顔は完全に面白がっていた。言葉にあった恥ずかしさなんて、そこには欠片も無かった。
「あそこだけ青春真っ只中っていう感じよね。コッチはそういった方面なんてもう枯れっ枯れなのにさ。なんだか孫の話を聞いているおばあちゃんのような気分よ。天気もいいし、日向ぼっこしながら緑茶をズズッて啜りたくなるわ」
「そこにせんべいもあれば最高だよ。バリバリ食べながら、若いっていいわねぇってやりたいよね」
活気溢れている向こうに比べて、随分枯れきった会話だ。
「私だったら、ばかうけがいいかな。あ~、あれ持って来れば良かった。昨日、家にあったのに」
「響ちゃんってば、私の家に泊まってからこんなにもばかうけのファンになっちゃって。勧めた私以上に虜になっているじゃない」
「だって本当に美味しかったんだもの。教えてくれてありがとね、亜希ちゃん」
「いいえ、どういたしまして。それにしても、あんなに大声で話していてもいいのかしらね。下田君は休みだけど、こういうのって他の人にバレても嫌なものなんじゃないの?」
亜希が他人事ながら心配している。それくらい彼女達の声は大きかったのだ。
「こういう時って、からかうのが面白くて周りが見えていないからね。多分、自分達が大声で話しているって気づいてもいないのよ。谷村さんの時だって、結構大きな声で高尾君のことを言っていたらしいもの。だから他グループの私達でも、谷村さんが高尾君のことを好きなのがわかったんだから。って、そういえばあの人達って、谷村さんと同じグループじゃないの」
「そういえばそうだね。谷村さんもまだ高尾君のことが好きっぽいし、しばらくあのグループから目が離せないわ」
「こういうのは見ている方が楽しめるもんね。そうそう、あのグループといえば、4組の方でも怪しい動きがあるみたいよ」
「怪しい動きって?」
「ムッチーが気づいたんだけど、宮城さんって黒崎君のことが好きみたい」
「えっー、そうなのー!って、ムッチーはなんでそれに気づいたのよ?」
「課題研究の時にムッチーの前の席が宮城さんで、その隣が黒崎君なんだけど、その時の宮城さんの顔が『恋する乙女』なんだってさ」
「ちょっ、ムッチーってば、何よ、その『恋する乙女』って」
「『恋する乙女』というのは、元々はまっちゃんが授業中の手紙交換の時に使っていた言葉なのよ。高尾君に恋する自分のことを指してね。ムッチーはそれを流用しただけ」
「あ~、まっちゃんか。まぁ、使いそうだよね」
「それはともかく、もう少し詳しく言うと、課題研究の時に黒崎君が宮城さんによく話しかけているらしいの。で、授業中に2人で話しているんだけど、その時の宮城さんの顔が凄く嬉しそうなんだってさ。だからムッチーは怪しんでいるのよ」
「へぇ、宮城さんの顔がねぇ。もちろん黒崎君の方は普通なんでしょ」
「もちろんって、あんたねぇ…まぁ、でも、そうだね。ムッチーは黒崎君の方には何も言っていなかったから、宮城さんの方だけがそうなんだろうね」
「黒崎君って、誰が本命かわからないくらい色々な女子と話しているもの。そりゃ、もちろんっていう言葉になるわよ。歩ちゃんには『黒崎君は同じ苗字の黒崎さんと怪しい』って疑われているしさ」
「その話なら、私も知っているわよ。この前なんか、黒崎さんの肩についていたゴミを黒崎君が取ってあげたらしくて、それを見た歩ちゃんが『もしかすると、もしかするよ!』って、すっごく嬉しそうに言っていたもの」
「ゴミくらい、気付いたら誰でも取ってあげるでしょと突っ込みたいところだけど、歩ちゃんもこういった話が好きだからねぇ。でも、そうなると宮城さんの方は…失恋?」
「さぁ、どうだろ。これからの奮起に期待ってとこかな。で、これもさぁ…」
2人は老人からは脱したが、完全に井戸端会議のおばちゃんと化していた。
この話の流れからわかるように、響歌達の方は恋愛方面にはさっぱり縁が無くなっていた。
響歌も亜希もかつて好きだった人を話題に出していたが、その声に焦りや戸惑いの感情は一切入っていない。表情も始終楽しそうだった。強がりなんかではなくて、本当に彼らのことはどうでもよくなっていたのだ。
あれからみんな平和に過ごしていた。同じ毎日の繰り返しだったが、決してつまらなくはなかった。むしろとても心地よく感じられた。
これまで色々なことがあり過ぎたのだから…
「う~ん、今日も平和だねぇ、亜希ちゃん」
平和過ぎて、眠たくなってくる程よ。
響歌が椅子に座りながら思いっきり伸びをする。
そんな響歌に釣られるような形で、亜希も伸びをした。
「なんだかんだいっても、平和で平凡なのが一番なのよ。まぁ、メリハリは無いんだけどさ」
響歌の言葉に同意もしている。
2人は3年になっても窓側の中央の席を確保していた。席順も一緒で、響歌が前で亜希がその後ろだ。
もうすぐ5時間目が始まろうとしているが、この調子だと授業中に寝てしまいそうだ。
そんな2人の耳に、後ろの席の方から甲高い声が聞こえてきた。
「ちょっと聞いてよ。今日から3日間、下田君が休みなんだって」
「えっー、なんでっー?」
「なんかね、検査入院みたい」
「…そうなんだ、可哀想」
『キャッー!』
響歌と亜希の視線が声の方に向く。
その先には宮内方面のグループの3人がいて、下田のことを話題にしていた。そのうちの1人が下田のことを好きなので、ことあるごとにこうやって冷やかしているのだ。
「いやぁ、まいっちゃうねぇ。聞いているコッチが恥ずかしくなっちゃうわよ」
亜希が極端な小声で響歌に言う。その顔は完全に面白がっていた。言葉にあった恥ずかしさなんて、そこには欠片も無かった。
「あそこだけ青春真っ只中っていう感じよね。コッチはそういった方面なんてもう枯れっ枯れなのにさ。なんだか孫の話を聞いているおばあちゃんのような気分よ。天気もいいし、日向ぼっこしながら緑茶をズズッて啜りたくなるわ」
「そこにせんべいもあれば最高だよ。バリバリ食べながら、若いっていいわねぇってやりたいよね」
活気溢れている向こうに比べて、随分枯れきった会話だ。
「私だったら、ばかうけがいいかな。あ~、あれ持って来れば良かった。昨日、家にあったのに」
「響ちゃんってば、私の家に泊まってからこんなにもばかうけのファンになっちゃって。勧めた私以上に虜になっているじゃない」
「だって本当に美味しかったんだもの。教えてくれてありがとね、亜希ちゃん」
「いいえ、どういたしまして。それにしても、あんなに大声で話していてもいいのかしらね。下田君は休みだけど、こういうのって他の人にバレても嫌なものなんじゃないの?」
亜希が他人事ながら心配している。それくらい彼女達の声は大きかったのだ。
「こういう時って、からかうのが面白くて周りが見えていないからね。多分、自分達が大声で話しているって気づいてもいないのよ。谷村さんの時だって、結構大きな声で高尾君のことを言っていたらしいもの。だから他グループの私達でも、谷村さんが高尾君のことを好きなのがわかったんだから。って、そういえばあの人達って、谷村さんと同じグループじゃないの」
「そういえばそうだね。谷村さんもまだ高尾君のことが好きっぽいし、しばらくあのグループから目が離せないわ」
「こういうのは見ている方が楽しめるもんね。そうそう、あのグループといえば、4組の方でも怪しい動きがあるみたいよ」
「怪しい動きって?」
「ムッチーが気づいたんだけど、宮城さんって黒崎君のことが好きみたい」
「えっー、そうなのー!って、ムッチーはなんでそれに気づいたのよ?」
「課題研究の時にムッチーの前の席が宮城さんで、その隣が黒崎君なんだけど、その時の宮城さんの顔が『恋する乙女』なんだってさ」
「ちょっ、ムッチーってば、何よ、その『恋する乙女』って」
「『恋する乙女』というのは、元々はまっちゃんが授業中の手紙交換の時に使っていた言葉なのよ。高尾君に恋する自分のことを指してね。ムッチーはそれを流用しただけ」
「あ~、まっちゃんか。まぁ、使いそうだよね」
「それはともかく、もう少し詳しく言うと、課題研究の時に黒崎君が宮城さんによく話しかけているらしいの。で、授業中に2人で話しているんだけど、その時の宮城さんの顔が凄く嬉しそうなんだってさ。だからムッチーは怪しんでいるのよ」
「へぇ、宮城さんの顔がねぇ。もちろん黒崎君の方は普通なんでしょ」
「もちろんって、あんたねぇ…まぁ、でも、そうだね。ムッチーは黒崎君の方には何も言っていなかったから、宮城さんの方だけがそうなんだろうね」
「黒崎君って、誰が本命かわからないくらい色々な女子と話しているもの。そりゃ、もちろんっていう言葉になるわよ。歩ちゃんには『黒崎君は同じ苗字の黒崎さんと怪しい』って疑われているしさ」
「その話なら、私も知っているわよ。この前なんか、黒崎さんの肩についていたゴミを黒崎君が取ってあげたらしくて、それを見た歩ちゃんが『もしかすると、もしかするよ!』って、すっごく嬉しそうに言っていたもの」
「ゴミくらい、気付いたら誰でも取ってあげるでしょと突っ込みたいところだけど、歩ちゃんもこういった話が好きだからねぇ。でも、そうなると宮城さんの方は…失恋?」
「さぁ、どうだろ。これからの奮起に期待ってとこかな。で、これもさぁ…」
2人は老人からは脱したが、完全に井戸端会議のおばちゃんと化していた。
この話の流れからわかるように、響歌達の方は恋愛方面にはさっぱり縁が無くなっていた。
響歌も亜希もかつて好きだった人を話題に出していたが、その声に焦りや戸惑いの感情は一切入っていない。表情も始終楽しそうだった。強がりなんかではなくて、本当に彼らのことはどうでもよくなっていたのだ。