少女達の青春群像 ~舞、その愛~
只今、プログラミングの授業中。
この授業は今までのように他人が作ったプログラムを黙々と打つのではない。卒業前の課題として3人ずつのグループにわかれ、自分達で題材を決めてプログラムを作成しなくてはならない。しかもそれをデザインコースと合同ですることになっている。
それでもデザインコースの人達が一緒にプログラムを作成するわけではない。彼らが担当するのはデザインだ。要するにプログラミングコースの人が商品の中身を作り、デザインコースの人がそのパッケージを作成するのだ。デザインコースの人達も、この時は3人グループで行動する。
このグループわけは渕山がしたものだった。しかも勝手にグループリーダーも決めたので、リーダーにされた響歌はブツブツ文句を言っていた。
舞はもちろん地味なのでリーダーにはなっていない。舞達のリーダーは5組の長山澪だ。舞は1年の時に同じクラスだった。ボーイッシュな感じで、性格もさっぱりしている。
実はこの長山は、3年の後半から下田とつき合っている。よく休み時間に2人でプログラム室から抜け出して愛を育んでいた。
それでも長山はかつて響歌と亜希が遠くで見ている中、下田のことが好きな友達をからかっていた。下田とつき合った際、修羅場にならなかったのだろうか?
舞としてはとても気になるところだが、さすがにそれを口に出す勇気はない。悶々としながらその時間を送っていた。
舞のグループはその他に山田もいた。3人はプログラムを考えながらも、よく雑談をしていた。内容はもっぱら自動車学校のこと。みんな同じ教習所に通っているので進行具合などを報告し合っていたのだ。だいたい山田が『どこまで進んだ?』とか言いだして雑談が始まるのである。
真子のグループはグループリーダーに川崎がなっていた。後は4組の久我遥という女子生徒がいる。ここは舞達のように雑談しながらではなくて、黙々とプログラムを作っていた。3人共に寡黙なのでこれは仕方がないのかもしれない。真子は友達の誰かと一緒になりたがっていたが、誰ともならなかった。デザインコースの響歌達とも、だ。
これは合同授業の担当が渕山なので意図的にそうなったのだろう。仲が良い者はほとんど離されていた。
プログラミングコースといえば紗智とこずえもそうなのだが、この2人はどのグループにも属していない。というのも彼女達はプログラムの格上の検定に合格していたので、みんなのまとめ役として渕山に抜擢されていたのだ。まとめ役とはいっても、本当にまとめているわけではなく、みんなよりも難しいプログラムを個々で作成しなければならなかった。
紗智もこずえも、黙々とモニターと向き合っている。それでも紗智の方は、チラチラと視線をモニターから外している時があった。
舞が主に見ていたのは、その紗智と、彼女の視線の先にいる橋本だった。
実は3年になってから、紗智がようやく自分の気持ちを自覚したようなのだ。
最初に気づいたのは誰だったのか。そこは曖昧になるのだが、響歌か真子のどちらかだというのは間違いない。その時期は、響歌と亜希が井戸端会議のおばちゃん化してから間もない頃だった。
響歌と真子は紗智が橋本を好きなことに気づき、それぞれ亜希にそういったメッセージを送信。亜希はメッセージをもらった当初は深く考えていなかったが、スマホのデータを整理をしている時に2人から同じメッセージをもらっていることに気づいた。驚きながらも、2人にそのことを報告。お互いが同じことを思っていたと知った2人は『そうだよね!』『絶対にそうでしょ!』と言い合っていた。
その時から、みんなの興味の視線が紗智だけに注がれている。この頃には紗智を除くグループ全員が恋愛ごとにさっぱり縁が無くなっていたので特にそうなってしまった。
こういったことは、やはり他のグループよりも自分のグループ内で起こる方が何倍も楽しいものなのだ。しかも紗智がなかなか白状しないときている。歩が代表して探りを入れているが、交わされてばかりだった。そうなると余計に突き止めたくなるのが人というもの。みんなの興味は一層深まった。
それでも注目していると、紗智が橋本を好きなことは一目瞭然だった。
意識してなのか、そうでないのかはわからないが、彼女の橋本以外の男子への対応は凄くそっけないものだった。それは見ている響歌達の方が焦るくらいに、だ。笑顔で接したことなんて、果たしてあっただろうか。
あまりにもそっけないので、安藤が亜希に『オレ、河合さんに嫌われているのかな』と相談していたくらいだ。それでも亜希も、実は紗智とはそんなに仲良くないし、笑顔を向けられることもごく少数だったので『私らにもそんな感じだから、気にしなくてもいいんじゃない?』と言っておいてあげたのだが。
それなのに橋本に対しては笑顔満開。しかもやっぱり『キャハハハハ、橋本君ったらぁ!』と言って子供っぽくなっている。
そう、いつか見た光景のように!
もちろん2人はいつも話しているわけではないが、3年から同じクラブに入っているので話す機会はこれまでよりも格段に増えていた。
2人が入っているクラブは渕山が作った『プログラミング同好会』だ。その他にはこずえと川崎が入っている。活動内容は放課後にただ黙々とプログラムを作るといった、とても地味なものだった。舞や真子も紗智に誘われたが、入る気など一ミリも無かった。
あ、またさっちゃんがハッシーを見た。これでこの時間6回目だ。
舞に観察されていることにも気づかず、紗智は橋本を見ていた。橋本は紗智に見られていることにはまったく気づかず、グループの人達と話している。みんな真面目な表情でプログラムについて意見を出し合っていた。
ハッシーの方がさっちゃんを見ていることは、残念ながら無いんだよねぇ。
さっちゃんと話している時もあるけど、こずちゃんとの方が多いような気がするし。それだって笑顔の時はそう無いからなぁ。
あっ、でも、ポンタさんには楽しそうにからかっていたりしているじゃない!
…いや、あれは本当にからかっているだけだよね。ポンタさんに対しては、木原君の方がからかっているしさ。
ポンタというのは、本名が田口里奈という4組の女子生徒だ。舞とは3年間同じクラスで、帰る方面も一緒。全体的にたぬきに似ていることから、いつの頃からか木原がそう呼び、からかうようになった。もちろん楽しく話したりもしているが、からかっている時の方が多かった。
その木原と田口は今も楽しそうに話していた。今回、2人は同じグループだ。もちろんそのグループにはもう1人いる。その1人は田口の友達である5組の葛西明日香だが、葛西はその2人を楽しそうに見ているだけで会話に加わってはいない。
2人で楽しそうに話していると、大抵は怪しいと思われるのになぁ。やっぱりこの2人の場合はカップルには見えないや。
舞にはそれが不思議で仕方がなかったが、彼らと一緒に組むことになった響歌の『親子のようだった』という感想で、2人が怪しく見えなかった理由がようやくわかった。
本当に親子のように見えるのだ!
木原はいつも田口をからかっているが、田口が何かを理解できないでいるとバカにしながらもきちんと教えてあげていた。しかも他の人にさり気なく田口のフォローまでしている。これがまたできの悪い娘を相手にしている父親のようなのだ。それを響歌は間近で体験していたので、もしかしたら響歌以外の合同グループのみんなも同じことを思っているのかもしれない。
橋本は木原と仲がいいので、いつの間にか田口のことを木原と一緒にからかったりするようになっていた。それだとそこでも怪しまれるかもしれないが、この2人も怪しい関係にはまったく見えなかった。
だからもしかしたら田口のキャラクターのせいでこんな感想しか抱けないのかもしれないのだが…
それでも橋本が田口に笑顔を見せているので、紗智はとても気になるようだ。2人が話していると、大抵はそっちの方をじっと見ている。その姿を舞と真子に見られていることも知らずに。
この授業は今までのように他人が作ったプログラムを黙々と打つのではない。卒業前の課題として3人ずつのグループにわかれ、自分達で題材を決めてプログラムを作成しなくてはならない。しかもそれをデザインコースと合同ですることになっている。
それでもデザインコースの人達が一緒にプログラムを作成するわけではない。彼らが担当するのはデザインだ。要するにプログラミングコースの人が商品の中身を作り、デザインコースの人がそのパッケージを作成するのだ。デザインコースの人達も、この時は3人グループで行動する。
このグループわけは渕山がしたものだった。しかも勝手にグループリーダーも決めたので、リーダーにされた響歌はブツブツ文句を言っていた。
舞はもちろん地味なのでリーダーにはなっていない。舞達のリーダーは5組の長山澪だ。舞は1年の時に同じクラスだった。ボーイッシュな感じで、性格もさっぱりしている。
実はこの長山は、3年の後半から下田とつき合っている。よく休み時間に2人でプログラム室から抜け出して愛を育んでいた。
それでも長山はかつて響歌と亜希が遠くで見ている中、下田のことが好きな友達をからかっていた。下田とつき合った際、修羅場にならなかったのだろうか?
舞としてはとても気になるところだが、さすがにそれを口に出す勇気はない。悶々としながらその時間を送っていた。
舞のグループはその他に山田もいた。3人はプログラムを考えながらも、よく雑談をしていた。内容はもっぱら自動車学校のこと。みんな同じ教習所に通っているので進行具合などを報告し合っていたのだ。だいたい山田が『どこまで進んだ?』とか言いだして雑談が始まるのである。
真子のグループはグループリーダーに川崎がなっていた。後は4組の久我遥という女子生徒がいる。ここは舞達のように雑談しながらではなくて、黙々とプログラムを作っていた。3人共に寡黙なのでこれは仕方がないのかもしれない。真子は友達の誰かと一緒になりたがっていたが、誰ともならなかった。デザインコースの響歌達とも、だ。
これは合同授業の担当が渕山なので意図的にそうなったのだろう。仲が良い者はほとんど離されていた。
プログラミングコースといえば紗智とこずえもそうなのだが、この2人はどのグループにも属していない。というのも彼女達はプログラムの格上の検定に合格していたので、みんなのまとめ役として渕山に抜擢されていたのだ。まとめ役とはいっても、本当にまとめているわけではなく、みんなよりも難しいプログラムを個々で作成しなければならなかった。
紗智もこずえも、黙々とモニターと向き合っている。それでも紗智の方は、チラチラと視線をモニターから外している時があった。
舞が主に見ていたのは、その紗智と、彼女の視線の先にいる橋本だった。
実は3年になってから、紗智がようやく自分の気持ちを自覚したようなのだ。
最初に気づいたのは誰だったのか。そこは曖昧になるのだが、響歌か真子のどちらかだというのは間違いない。その時期は、響歌と亜希が井戸端会議のおばちゃん化してから間もない頃だった。
響歌と真子は紗智が橋本を好きなことに気づき、それぞれ亜希にそういったメッセージを送信。亜希はメッセージをもらった当初は深く考えていなかったが、スマホのデータを整理をしている時に2人から同じメッセージをもらっていることに気づいた。驚きながらも、2人にそのことを報告。お互いが同じことを思っていたと知った2人は『そうだよね!』『絶対にそうでしょ!』と言い合っていた。
その時から、みんなの興味の視線が紗智だけに注がれている。この頃には紗智を除くグループ全員が恋愛ごとにさっぱり縁が無くなっていたので特にそうなってしまった。
こういったことは、やはり他のグループよりも自分のグループ内で起こる方が何倍も楽しいものなのだ。しかも紗智がなかなか白状しないときている。歩が代表して探りを入れているが、交わされてばかりだった。そうなると余計に突き止めたくなるのが人というもの。みんなの興味は一層深まった。
それでも注目していると、紗智が橋本を好きなことは一目瞭然だった。
意識してなのか、そうでないのかはわからないが、彼女の橋本以外の男子への対応は凄くそっけないものだった。それは見ている響歌達の方が焦るくらいに、だ。笑顔で接したことなんて、果たしてあっただろうか。
あまりにもそっけないので、安藤が亜希に『オレ、河合さんに嫌われているのかな』と相談していたくらいだ。それでも亜希も、実は紗智とはそんなに仲良くないし、笑顔を向けられることもごく少数だったので『私らにもそんな感じだから、気にしなくてもいいんじゃない?』と言っておいてあげたのだが。
それなのに橋本に対しては笑顔満開。しかもやっぱり『キャハハハハ、橋本君ったらぁ!』と言って子供っぽくなっている。
そう、いつか見た光景のように!
もちろん2人はいつも話しているわけではないが、3年から同じクラブに入っているので話す機会はこれまでよりも格段に増えていた。
2人が入っているクラブは渕山が作った『プログラミング同好会』だ。その他にはこずえと川崎が入っている。活動内容は放課後にただ黙々とプログラムを作るといった、とても地味なものだった。舞や真子も紗智に誘われたが、入る気など一ミリも無かった。
あ、またさっちゃんがハッシーを見た。これでこの時間6回目だ。
舞に観察されていることにも気づかず、紗智は橋本を見ていた。橋本は紗智に見られていることにはまったく気づかず、グループの人達と話している。みんな真面目な表情でプログラムについて意見を出し合っていた。
ハッシーの方がさっちゃんを見ていることは、残念ながら無いんだよねぇ。
さっちゃんと話している時もあるけど、こずちゃんとの方が多いような気がするし。それだって笑顔の時はそう無いからなぁ。
あっ、でも、ポンタさんには楽しそうにからかっていたりしているじゃない!
…いや、あれは本当にからかっているだけだよね。ポンタさんに対しては、木原君の方がからかっているしさ。
ポンタというのは、本名が田口里奈という4組の女子生徒だ。舞とは3年間同じクラスで、帰る方面も一緒。全体的にたぬきに似ていることから、いつの頃からか木原がそう呼び、からかうようになった。もちろん楽しく話したりもしているが、からかっている時の方が多かった。
その木原と田口は今も楽しそうに話していた。今回、2人は同じグループだ。もちろんそのグループにはもう1人いる。その1人は田口の友達である5組の葛西明日香だが、葛西はその2人を楽しそうに見ているだけで会話に加わってはいない。
2人で楽しそうに話していると、大抵は怪しいと思われるのになぁ。やっぱりこの2人の場合はカップルには見えないや。
舞にはそれが不思議で仕方がなかったが、彼らと一緒に組むことになった響歌の『親子のようだった』という感想で、2人が怪しく見えなかった理由がようやくわかった。
本当に親子のように見えるのだ!
木原はいつも田口をからかっているが、田口が何かを理解できないでいるとバカにしながらもきちんと教えてあげていた。しかも他の人にさり気なく田口のフォローまでしている。これがまたできの悪い娘を相手にしている父親のようなのだ。それを響歌は間近で体験していたので、もしかしたら響歌以外の合同グループのみんなも同じことを思っているのかもしれない。
橋本は木原と仲がいいので、いつの間にか田口のことを木原と一緒にからかったりするようになっていた。それだとそこでも怪しまれるかもしれないが、この2人も怪しい関係にはまったく見えなかった。
だからもしかしたら田口のキャラクターのせいでこんな感想しか抱けないのかもしれないのだが…
それでも橋本が田口に笑顔を見せているので、紗智はとても気になるようだ。2人が話していると、大抵はそっちの方をじっと見ている。その姿を舞と真子に見られていることも知らずに。