少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 ある放課後の、実習棟の一室。

 その部屋にいたのは、舞、響歌、歩、亜希の4人だった。紗智のことを報告する為に、歩が3人を招集したのだ。

「歩ちゃん、よくやってくれたわ。やっぱりさっちゃんは、ハッシーのことが好きだったんだね!」

 橋本のことが好きだとわかっただけなのに、舞は凄い喜びようだった。

「私もそのセリフ聞きたかったなぁ。智恵美ちゃんと一緒に後ろに注目していたのに聞こえなかったんだもの。残念だよ、本当に」

 どうやら先頭を歩いていた亜希の耳には届いていなかったようだ。

「今更告白しても、仕方がない…か。告白したらスッキリすると思うのに。気持ちに区切りをつけないと、卒業してからもズルズルいっちゃうんじゃないかなぁ。もしかしたら成功するかもしれないのに、さっちゃんも勿体ないことをするよ」

 響歌はなんだかスッキリしないようだ。

「まぁ、それは仕方がないんじゃないかな。だってさっちゃんは、まだ『お子様』なんだもの。告白なんていう大人的イベントはまだ無理なんだよ。今日のプログラミングの時間だって、子供みたいにハッシーとはしゃいでいたんだからね。まぁ、ハッシーも子供だから、お似合いではあるんだけどさ」

 舞が紗智をバカにしたように言う。気の毒なことに橋本も巻き添えになっていた。

「そういえば合同授業は終わったの?なんだか今日は実習棟に残っている人が少ないね」

 1コースだけ合同から離れた秘書コースの歩が、合同をしていた3人に訊ねた。

「あぁ、うん、一昨日ですべて終了。もうやっと終わったよ。クドが勝手にリーダーにしたせいで率先して進めないといけなかったから、本当に大変だったわ。デザインとかもほとんど私が考えていたんだからね。みんなの前で発表もしなくてはいけなかったし…あぁ、疲れた」

 リーダー的な役割が似合う癖にリーダーになるのが嫌な響歌は、当然ながら愚痴っていた。

「響ちゃん、お疲れ様」

 歩は労りの言葉をかけたが、他の2人は違う。

「響ちゃんはそういった役目が似合うんだから、むしろ率先してやるべきだよ。私はもちろん影に隠れているけどね」

「そうそう、最後くらい自分の能力を発揮させておきなさい。それに智恵美ちゃんだってリーダーだったんだから。響ちゃんだけが大変だったんじゃないの。それに響ちゃんのところはプログラミングコースの人達に褒めてもらったし、まだ報われているわよ。私らのところなんて何も言ってくれなかったんだからね」

「亜希ちゃんのところは誰と一緒だったっけ?」

 舞の質問に、亜希が答える。

田島(たじま)さんのとこ。ムッチーは大竹(おおたけ)さんのところだったっけ?」

「そうそう、その人達だよ。見事に別々にされていたもんね、私達。でも、亜希ちゃんは智恵美ちゃんと一緒だったからそうでもないのか。響ちゃんも森野さんと一緒だったしさ。そう考えるとデザインコースの方って、なんだかずるいね」

「ずるいと言われてもなぁ。元々6人でしていたのを半分にわけただけだから。その6人も好きな人で組んでいいっていうことだったからねぇ」

「響ちゃんのところは誰と組んでいたの?褒めてくれるなんていい人達だね」

「私らは木原君達のところ。でも、褒めてくれたのは木原君だけよ。というよりも、ただの授業の課題なのに褒めてくれる方が稀有でしょ。普通は褒めないわよ」

 木原は響歌達の作った作品が凄く気に入ったみたいだった。自分の希望した猿がキャラクターとして使われていたのも気に入った要因になるだろう。合同授業でプログラミングコースのリーダーが発表する時も、響歌達が作った作品を持ちながら『凄い』『カッコイイ』と言っていたし、その後で響歌や森野に直接『凄いのを作ったな』と声をかけていた。

「その時だけじゃなくて、私らの発表が終わってからも褒めてくれたのよ。その時、私はムッチーに帰る時間を知らせる為に4組にちょっと寄っただけなんだけどね。木原君の方も山田君と川崎君としゃべっていたはずよ。でも、私がムッチーに知らせてすぐに実習室に行こうとしたところをわざわざ呼び止めて褒めてくれたの。どうやら二種類作っていたとは思わなかったらしく、『まさか冬バージョンもあるとは思わなかった』って言ってくれたのよね。私からしたら逆にお礼を言いたかったくらいだったわ」

 この件で、響歌の中の木原の評価が爆上がりした。もしかしたら黒崎を超えたかもしれない。

 元々、響歌は木原のことを気に入っていた。かなり好みの顔をしていたのだ。性格もさっぱりきっぱりしている。修学旅行の時の奈央や華世達からの評価は自分勝手や我儘だとか言われて散々なものだったが、響歌はそういったところが逆に好感が持てた。ただ彼とは3年間、クラスもコースも別だったので接触する機会が無かったのだ。もしその機会があれば、もしかしたら落ちていたかもしれない。それくらい、好みのタイプで言えば彼は飛び抜けていた。

「なんで一度も同じクラスになれなかったんだろう。こればかりは先生達を恨まずにはいられないわ」

 相当無念だったらしく、そんなことまで口にしている。

「でもね、木原君は同じクラスの小花(おばな)さんのことが好きだったはずだよ。振られてしまったけど、中学の時には告白もしているんだから。確かこの話って、響ちゃんにしていたよね?」
   
 歩は彼と同じ中学だったので、そのことを良く知っている。1年の時に響歌にもそのことを話したはずだ。
 
「知っているわよ、わかっているわよ、だからこそこう言っているのよ。だって木原君って、小花さんに告白して振られた時に『それでも、ずっと好きだから』とか言ったんでしょ。これもなかなかカッコイイじゃないの。私が小花さんだったら、これでコロッといっているわよ。小花さんも彼氏がいなかったのなら、一度くらいつき合ってあげたら良かったのに」

 木原の肩まで持ち出した響歌に、3人は乾いた笑いしか出てこない。

「響ちゃんはそう言うけど、そのセリフは木原君が言ったからこそカッコよく聞こえたんだよ。これがもしヌラだったら…」

 舞が恐る恐る中葉の名前を出すと、響歌は頭を抱えた。

「止めて頂戴、思い出させないで頂戴。でも、そうだったのよ、それがまだ残っていたのよ。決戦は卒業式よ、ムッチー。式が終わったら、さっさと撤収するわよ!」

「もちろんだよ、最後まで逃げ切ろう!」

 舞も気合を入れて逃げる宣言をしている。

「あの…2人共、少しは卒業の余韻に浸ろうとは思わないのかな。ほら、私達ともなかなか会えなくなるんだしさ」

 亜希のその言葉も、2人には効かない。

「もちろん卒業後も連絡くらいするって。私達は学校の外で会うのよ。もちろんいつでも泊りにきてくれていいからね」

 響歌は4月から都会で一人暮らしをするので親の目を気にせずに遊べるようになる。だからいつでも遊びに来いと言っているのだ。

 ちなみに県外に出るのは、この中では響歌しかいない。響歌はデザインの勉強がもう少ししたかったので、その専門学校に進学する。

 舞は田舎に残り、バイト先だったところに就職した。それでも働く場所は違う。これまではホテルの中にあるレストランでウェイトレスをしていたが、今度はその系列のスーパーが勤務先になるのだ。

 歩は看護師になる為に看護学校に進学する。歩以外にも、その学校に進学する者は経済科の中にもちらほらいた。

 亜希は工業団地の中にある会社の事務員だ。最初は製造業の方を希望していたが、募集人数が少なかったのでその方面は諦めてしまった。

 その他のグループのメンバーは、紗智は都会でプログラマーとして就職。こずえもプログラマーだが、地元に残っての就職だ。真子は舞と同じでバイト先がそのまま就職先となった。智恵美と華世は短大進学だ。家から2時間くらいかけて通うつもりだが、お互いに行く大学は違う。奈央は紗智と同じ街で歯科衛生士の学校に進む。沙奈絵はそのまま田舎で就職だ。

 全員がバラバラになってしまうのだから、卒業式の後くらいは一緒に遊びたい。歩と亜希は内心ではそう思っていたが、中葉が舞に卒業式の後に告白するという情報を知っているので無理強いはできない。

「まぁ、仕方がないか。一生の別れになるわけじゃないもんね。でも、響ちゃん。地元に帰省した時は必ず連絡してね。で、一緒に遊ぼうね。もちろん亜希ちゃんとムッチーもだよ。ムッチーが住んでいるところも私の家から離れているけど、卒業してからも遊ぼうね」

 卒業式はもう少し先なのに、歩は既に泣きそうになっている。

 そんな歩の肩を、亜希が軽く叩いた。

「もちろんだよ、卒業してからもちょくちょく遊ぼう。また新たな恋愛話なんかしてさ、盛り上がろうよ」

「みんなの中で誰が一番早く結婚するんだろう?やっぱり就職組の中の誰かかな。こずちゃんとか早そうだよね」

 舞は早くも誰が早く結婚するのか予想をして楽しんでいる。そんな舞に便乗して、みんなが予想し始めた。さっきまでの悲壮感は完全に無くなった。

 みんな、本当に気が早い。卒業するのは寂しいが、未来に希望も持っているのでワクワクしているのだ。

 卒業してからも、この関係が続くといいな。

 この思いは、口に出さずともみんな一緒だった。

 そうしてこの1カ月後の3月。

 みんなは笑顔で平良木高校を卒業した。                       完 


                                  




 ではありません。響歌編に続く
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